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第302話

今度はそんな俺を二人は睨み付けてくる。 「なんだよ?」 「君達今まで話したことなかったんだからさ、わざわざもう学校で話さなくても良くない?」 「そーそー! 学校で会っても無視だぞ無視!!」 「そんな失礼なこと出来るかボゲェッ! なんでお前らそんな失礼なことばっか言ってんだ!? 相手は先輩だぞ!」 「それとこれとは別なんですー!」 「そーだぞっ! 分かったかバ影山!」 「んだボゲェッ! 意味分かんねーこと言ってんじゃねーぞゴラ!」 3人でギャーギャー言い合いをしていると、ずっと黙っていた岩泉さんが眉間にシワを寄せながらボソッと呟いた。 「悪い奴……罠に引っ掛かる…か……」 「は? 罠に引っ掛かるってどー言う意味っすか? 岩泉さんの大学に悪い奴がいるんすか? 大学って罠を仕掛けるような、危ねーことする奴がいるんっすね!!」 少し興奮ぎみに言うと、岩泉さんだけでなく後の2人も一緒に眉間にシワを寄せて、哀れみの目で見てきた。 「なんだよ?」 今日2回目のなんだよ。 コイツらいっつも嫌な目でこっちを見やがる…… 俺をなんだと思ってんだゴラァ! 「……ちょっと影山は黙ってて…… それって及川さんが言ったんですか?」 「……ああ、及川の奴が、悪い奴の罠に引っ掛かるとか、手を出されて捕まらないか心配とか。 だから見守ってやってくれって、ウジウジグチグチと言われたんだよ……」 「あー……情景が目に浮かぶ」 「なるほど……」 「えっ! 及川さんの大学にも変な奴がいるんっすか!? あの人電話では、そんなこと一言も言ってなかったっすよ!!」 「あーもーそんなのいないから、影山は黙ってろって言ってんだろ!」 「なんだよボゲェ! いるって言ったり、いないって言ったりっ!」 俺の文句を完全に無視して、3人は意味不明な会話を勝手に進めていく。 「……及川さんの心配は、僕達はもう本当に痛いほど分かりますけど、でも大丈夫です」 「そーそー! 俺達がちゃんと見張っときますから! 心配は無用です!」 「なんかあいつかなりヤバそうな奴だったから……頼むな」 「はい」 「任せてください!」 「…………」 勝手に話を進めやがって! こっちには全然説明もねーし、及川さんが関係していることなら俺にだって知る権利はあるはずなのに……クソッタレがっ!! 「おい、何不貞腐れた顔してんだ」 岩泉さんに話し掛けられたと思った次の瞬間にはもう、俺の耳は思いっきり引っ張られていた。 「イデッ! イデデデデデデデッッ!! 岩泉さんっ、いてーっす!!」 あまりの痛さに岩泉さんの手を振り払った。 痛いし、話が意味不明過ぎて俺は怒っているというのに、岩泉さんは何故か不敵そうな自信満々と言う言葉が似合う、そんな表情をしていた。 「及川とうまくいってて機嫌良かったんだろ? 細かい事気にしてないで、また及川のことでも考えてろよ」 「なっ、何言ってんすか!?」 「そしたらまた機嫌良くなるんだろ?」 何つーこと言うんだよっ!? 岩泉さんのあり得ない言葉に、顔が熱くなっていくのが分かった。 それを隠そうとした俺の手を勢い良く日向が掴んで、ズイッと覗き込んでくる。 「昨日機嫌悪かったのに、良くなったんだな! さっすが大王様っ!」 「近えっ、離せボゲェッ! 及川さんと俺の機嫌の良し悪しは関係ねーだろ!」 「本当にぃ?」  乱暴に日向の手を叩いて払い除けると、それを擦りながらもまた顔を覗き込んでくる。 「だから近えって! 本当に決まってんだろうが!」 「ハイ、嘘ー! 影山は分かりやすいからなー」 「ほんと、すぐ顔に出るよね」 ゲラゲラと笑う日向と月島を睨みながら、胸ぐらを掴み上げてやろうかと考えていたその時、岩泉さんに突然髪をワシャワシャーっと撫でくり回された。 「うぉっ! わっ、何するっ、ちょっ! や、やめて下さい!!」 岩泉さんの乱暴な手から逃れようともがいていると、今度はポンポンと優しく頭を叩かれた。 「影山、何かあったら遠慮せず直ぐ俺に言えよ。 どんな時でもすっ飛んで来てやるからなっ!」 無邪気な笑みを浮かべる岩泉さんは本当に頼もしくて、俺は熱くなるものを感じながら大きく頷いた。 「アザッス岩泉さん!」 「まぁ、俺達がいるから大丈夫ですけどね!」 得意気にえっへんと踏ん反り返る日向の頭を調子に乗るなと叩きながらも、勝手に嬉しさで口がムズムズと動いてしまうのを止められない。 それを見た岩泉さんが、今まで見たことも無いような優しい顔で笑ってて。 そして月島も珍しく小さく微笑んでいて、俺はそんな二人に目を見開いていた。

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