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第303話

あの後岩泉さんと別れて、いつも通り朝練をこなし、午前授業を受けていたらやっと昼休憩になった。 俺はぐんぐんヨーグルを飲みながら、日向とバレーをする約束をしている場所に向かっていた。 「やっぱりぐんぐん牛乳にしときゃよかった……」 なんてブツブツ呟きながら歩いていると、女子数人の騒ぎ声が耳に届いてきた。 「あのっ、これ調理実習で作ったんです。先輩に食べてほしくて」 「マカロン好きですか?」 「へー調理実習でマカロンなんて作るんだな。スゲーな! マカロン好きだよ」 「良かったぁ♡」 「皆、俺のためにありがとう」 「キャーーーーっっ!!」 「カッコいー!」 「キャーカワイー♡」 真ん中にいる男子がニコッと笑うと、女子達が黄色い声を上げて喜んでいる。 よく見るとその男子は、黛先輩のようだった。 黛先輩ってスゲーモテるんだな。 確か日向もそんなこと言ってたっけ? なんか……及川さんみたいだな…… 及川さんもよく女子達に囲まれてたな。 それで俺、嫉妬したりして、及川さんとすれ違って…… スゲー懐かしい…… それを懐かしく思えて、嫌な思い出のはずなのに俺は今穏やかな気持ちになってる。 沢山の困難を二人で一緒に乗り越えて来たから 及川さんと俺は心と心が繋がってて、強い絆で結ばれてるって分かってるから だから、今の俺があるんだ…… あんなに焦って、不安になって泣いたり喧嘩したりしたのに…… そりゃ遠距離になって、死ぬほど寂しさも感じてるけど きっと東京でも彼はスゲーモテてると思うし、また女子に囲まれたりしてると思うけど でも……もう焦りはない 俺は及川さんを信じてるから 色々と思い出したら、口角が上がっていくのを止められない 「影山……何ニヤニヤしてんだ?」 「へ?」 前方に目線を向けると、黛先輩が訝しげな表情でこちらを凝視していた。 ヤベ……恥ずかしいとこ見られた しかも、俺は別に何とも思ってないけど、日向達に先輩とは関わるなって言われてたのに、見事に関わってしまっている。 もし、日向が俺を探しに来たら、またうるさいことになるなと、心中でため息を吐いた。 「思い出し笑い?」 「いや、えと……そー言えば先輩、さっき女子達に囲まれてましたね」 黛先輩の知らない人の話をする意味もないし、取り敢えず話を逸らすことにした。 「………………変なとこ見られちゃったな……」 先輩は何故か長い沈黙の後、とてもばつが悪そうに口を開いた。 「別に変じゃねーと思いますけど…… モテるのそんな嫌なんスか?」 恋人がいたら困るだろうけど、黛先輩は今いなさそうだし、問題はないと思うのだが。 「誰彼構わずモテるのは嫌だよ……やっぱり俺は好きな人にだけ好かれたいよ」 突然真面目な顔をして、こちらを真っ直ぐ見つめてくる先輩。 そっか、そーだよな…… 俺は別にモテねーからその気持ちは分かんねーけど、でも好きな人に好かれるのが一番だ。 今は両想いだけど、中学の頃は及川さんに嫌われてると思ってたから、その気持ちは痛いほど共感できる。 「黛先輩、好きな人がいるんスか? だったら気持ちは伝えた方が良いっスよ。 伝えとかないと、絶対後悔すると思います。 その人ももしかしたら先輩のこと好きかもしれねーし」 そうだ。及川さんも本当は中学の時から俺のこと好きだったって言ってくれたし、俺がちゃんと気持ちを伝えてたら、あんなに辛い思いをせずにすんだかもしれない。 「黛先輩が後悔しないように、気持ち伝えた方が絶対良いっス!」 「だから……だから、影山にはさっきの見られたくなかったんだ……」 「え?」 黛先輩は眉を下げて悲しそうな表情で、言葉を絞り出すようにそう言った。 何故そんな辛そうな顔するんだ? それに、なんで俺に見られたくなかったんだ? 戸惑いながら首を傾げていると、突然後ろから声を掛けられた。 「あの、お話し中にすみません!」 振り返ると女子が一人真っ赤な顔をして、こちらを見上げていた。 また黛先輩にマカロン?でも渡しに来たのか? そう思い立ち去ろうとすると、女子が慌てた様に俺の腕を引っ張ってきた。 「あ、影山先輩っ待ってください!!」 「あ? 俺?」 「これっ、影山先輩に食べてほしくて……影山先輩のこと考えながら作りましたっ! 受け取って下さい!」 「え? あ……あざっス……」 小さく会釈をして受け取ると、女子は真っ赤な顔で嬉しそうに微笑んで、いそいそと走り去って行った。 「影山も、モテるじゃん」 静かな口調でそう言われて、また先輩の方へと向き直ると、黛先輩は真剣な表情でこちらを見つめていた。 「モテるって……黛先輩程じゃないと言うか、別にそう言うんじゃねーと思いますけど?」 「あんな真っ赤な顔で、影山のこと考えてたとか言われたのに? 他にどんな意味があるって言うんだよ?」 「…………」 思わず言葉に詰まってしまう。 何も言えずにいると、黛先輩は真剣な表情を崩さないまま、何故か一歩近付いてきた。 「影山って男にだけじゃなく、やっぱり女にもモテるんだな……」 「男にもって……それ前も言ってましたね? 俺、別にモテねーと思いますけど……」 日向と月島はもう友達だし、二人ぐらいだから別にモテるとかないと思う。 「いや、影山はスゲーモテるよ。本当は気付いてるんじゃねーの?」 「いや、本当にモテませんって……」 首を振ると、黛先輩はため息を吐いて、眉間にシワを寄せた。 「じゃあ、さっきの話だけど、あの女子が告白してきたら、影山どーするんだ?」

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