312 / 345
第311話
あれから、休みの日に母さんに怒られながら、何回かカレー作りをしている。
まだまだなかなか上手く出来ないけど、少しは上達したみたいで
「まだ包丁持たすの怖いけど、ちゃんと焦がさず作れるようにはなったみたいね……」
と、母さんに褒められるようになった。
黛先輩はあの日のことは何も言わず、普通に友達として話し掛けてくれているみたいだった。
俺が作ったカレーを見ると、
「上達したなー!
それなら及川も喜んでくれるんじゃないか?」
そう言って笑って、あの日の言葉通り本当に応援してくれているみたいだ。
良かった……これで一安心だ……
―ー―ー―ー―ー―ー―ー―ー―ー―ー―ー―ー―
『あっ、もうこんな時間か……トビオちゃんはお子ちゃまだから、もうそろそろおねむの時間だね~』
いつも通り及川さんと電話していると、彼がフフンッと鼻で笑ってからかうようにそう言ってきた。
「……ガキ扱いしないで下さい。
確かにいつもこの時間に寝ますけど……」
『ほら、やっぱりそうなんじゃ~ん!
まだまだお子ちゃまだね~』
「年寄りだって早く寝ますよ!
それでもお子ちゃまになるんスか!?」
『おじいちゃんおばあちゃんと飛雄を一緒にしないでよー失礼でしょー!』
「なんだそりゃ……」
そんな下らない会話も愛おしく思っていると、突然及川さんが思い出したように大きな声を出した。
『あっ!』
「なんスか突然デケー声出して」
『あぁ、ゴメンゴメンっ!
そー言えば言い忘れてたことがあって、明日さ~部の飲み会があるんだよねー』
「飲み会? でもあんたまだ19歳で未成年っスよね?
未成年なのに飲み会に参加するんスか?」
『もちろん酒は飲まないよー
ソフトドリンク飲んで、食べるだけだよ』
「ホントっスか……? 飲み会のノリで、周りから飲め飲めって言われて、まぁいっか☆とか言って飲んじゃいそうですよねアンタ……」
『今の俺の真似? 全然似てないしっ!
いやホント、未成年だから酒は飲まないって』
「ホントっスか?」
『疑り深いなぁ~』
だってこの人誰からも好かれる性格してるし、そう言う人は集まりの場所では中心に立たされやすくて、ノリが悪いとらしくないって言われシラケるし。
飲まざるを得なくなりそうな気がする……
人気者って大変だよな。
『流石に強制もされないよ。
だって未成年に酒飲ませたら犯罪になっちゃうんだよ。
安心してなよ、絶対に飲まないから。
だから明日は電話出来ないと思うから、ゴメンね……』
及川さんは本当に申し訳なさそうに謝ってくる。
「そー言うことなら仕方ねーっスよ。
飲み会なら夜遅くまでありそうですよね」
『うん……多分、飛雄が寝る時間になっても、まだやってると思う……』
「ちゃんと家に帰って下さいね……」
『帰るに決まってんじゃん? 何言ってんの?』
「なんか前に母さんが見てたドラマで、終電逃して帰れなくなって、女の家に泊めてもらうシーンがあったんで」
『お母さん……飛雄の前でなんつードラマ見てんだよ……』
「?? なんつーって何スか?
なんかそれで二人が家に入ったら、その女のストーカーが不法侵入してて、男とストーカーが戦ってましたよ」
『あ……なんだ……てっきりエロいドラマかと思った……』
「なんでエロいのになるんスか?
母さんがそんなもん見るわけねーだろ」
『そんなの分かんないじゃん……
まぁとにかく、終電に間に合うように気を付けるし、女の子の家になんか泊まるわけないじゃんっ!
飛雄が嫌がることは絶対しないって決めてるからさ』
「及川さん……」
彼の言葉に胸がグアーーっと熱くなった。
嬉しくて、また勝手に唇がムズムズと動く。
『ふへへ……トビオちゃん嬉しそうだね』
「なっ! 見てねーくせにテキトーなこと言わねーで下さい!」
『ハイハイ、ゴメンゴメン』
「くっそー……」
なんで分かるんだよクソがっ!
フワフワした、優しい声出してんじゃねーよ!
『あっ! じゃあさ、家についたら帰ったよメール送るよ!』
「帰ったよメール? でも、俺寝てるから、返事出来ませんよ?」
『いーんだよそれで。朝起きてメール見て、及川さんが何時に帰ったか知ってほしいんだよ。
その方が飛雄も安心出来るでしょ?』
「あ、そっか。なるほど……」
朝起きた時の楽しみが、一つ増えるんだな……
今からそのメールがきてるのを、想像するだけで口角が上がる。
「絶対にメール、忘れないで下さいよ!」
『分かってるって! 絶対にメール送るから、お前もちゃんと朝イチでメールチェックしなよ』
「言われなくても、ちゃんとチェックしますよ!」
そう言うと、及川さんはまたふへへってマヌケな、フワフワした声で笑った。
だから俺の唇もまた、ムズムズと動いてしまうんだ
ともだちにシェアしよう!