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第311話

あれから、休みの日に母さんに怒られながら、何回かカレー作りをしている。 まだまだなかなか上手く出来ないけど、少しは上達したみたいで 「まだ包丁持たすの怖いけど、ちゃんと焦がさず作れるようにはなったみたいね……」 と、母さんに褒められるようになった。 黛先輩はあの日のことは何も言わず、普通に友達として話し掛けてくれているみたいだった。 俺が作ったカレーを見ると、 「上達したなー! それなら及川も喜んでくれるんじゃないか?」 そう言って笑って、あの日の言葉通り本当に応援してくれているみたいだ。 良かった……これで一安心だ…… ―ー―ー―ー―ー―ー―ー―ー―ー―ー―ー―ー― 『あっ、もうこんな時間か……トビオちゃんはお子ちゃまだから、もうそろそろおねむの時間だね~』 いつも通り及川さんと電話していると、彼がフフンッと鼻で笑ってからかうようにそう言ってきた。 「……ガキ扱いしないで下さい。 確かにいつもこの時間に寝ますけど……」 『ほら、やっぱりそうなんじゃ~ん! まだまだお子ちゃまだね~』 「年寄りだって早く寝ますよ! それでもお子ちゃまになるんスか!?」 『おじいちゃんおばあちゃんと飛雄を一緒にしないでよー失礼でしょー!』 「なんだそりゃ……」 そんな下らない会話も愛おしく思っていると、突然及川さんが思い出したように大きな声を出した。 『あっ!』 「なんスか突然デケー声出して」 『あぁ、ゴメンゴメンっ! そー言えば言い忘れてたことがあって、明日さ~部の飲み会があるんだよねー』 「飲み会? でもあんたまだ19歳で未成年っスよね? 未成年なのに飲み会に参加するんスか?」 『もちろん酒は飲まないよー ソフトドリンク飲んで、食べるだけだよ』 「ホントっスか……? 飲み会のノリで、周りから飲め飲めって言われて、まぁいっか☆とか言って飲んじゃいそうですよねアンタ……」 『今の俺の真似? 全然似てないしっ! いやホント、未成年だから酒は飲まないって』 「ホントっスか?」 『疑り深いなぁ~』 だってこの人誰からも好かれる性格してるし、そう言う人は集まりの場所では中心に立たされやすくて、ノリが悪いとらしくないって言われシラケるし。 飲まざるを得なくなりそうな気がする…… 人気者って大変だよな。 『流石に強制もされないよ。 だって未成年に酒飲ませたら犯罪になっちゃうんだよ。 安心してなよ、絶対に飲まないから。 だから明日は電話出来ないと思うから、ゴメンね……』 及川さんは本当に申し訳なさそうに謝ってくる。 「そー言うことなら仕方ねーっスよ。 飲み会なら夜遅くまでありそうですよね」 『うん……多分、飛雄が寝る時間になっても、まだやってると思う……』 「ちゃんと家に帰って下さいね……」 『帰るに決まってんじゃん? 何言ってんの?』 「なんか前に母さんが見てたドラマで、終電逃して帰れなくなって、女の家に泊めてもらうシーンがあったんで」 『お母さん……飛雄の前でなんつードラマ見てんだよ……』 「?? なんつーって何スか? なんかそれで二人が家に入ったら、その女のストーカーが不法侵入してて、男とストーカーが戦ってましたよ」 『あ……なんだ……てっきりエロいドラマかと思った……』 「なんでエロいのになるんスか? 母さんがそんなもん見るわけねーだろ」 『そんなの分かんないじゃん…… まぁとにかく、終電に間に合うように気を付けるし、女の子の家になんか泊まるわけないじゃんっ! 飛雄が嫌がることは絶対しないって決めてるからさ』 「及川さん……」 彼の言葉に胸がグアーーっと熱くなった。 嬉しくて、また勝手に唇がムズムズと動く。 『ふへへ……トビオちゃん嬉しそうだね』 「なっ! 見てねーくせにテキトーなこと言わねーで下さい!」 『ハイハイ、ゴメンゴメン』 「くっそー……」 なんで分かるんだよクソがっ! フワフワした、優しい声出してんじゃねーよ! 『あっ! じゃあさ、家についたら帰ったよメール送るよ!』 「帰ったよメール? でも、俺寝てるから、返事出来ませんよ?」 『いーんだよそれで。朝起きてメール見て、及川さんが何時に帰ったか知ってほしいんだよ。 その方が飛雄も安心出来るでしょ?』 「あ、そっか。なるほど……」 朝起きた時の楽しみが、一つ増えるんだな…… 今からそのメールがきてるのを、想像するだけで口角が上がる。 「絶対にメール、忘れないで下さいよ!」 『分かってるって! 絶対にメール送るから、お前もちゃんと朝イチでメールチェックしなよ』 「言われなくても、ちゃんとチェックしますよ!」 そう言うと、及川さんはまたふへへってマヌケな、フワフワした声で笑った。 だから俺の唇もまた、ムズムズと動いてしまうんだ

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