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第312話

「あれ?」 飲み会があった次の日の朝 俺は及川さんとの約束通り、朝起きてから直ぐ様携帯を開き、メールの確認をした。 だけど、彼からのメールはきていなかった…… 「んだよあの人…… 帰ったらメールするとか言ってたくせに、結局酒飲んで酔っぱらって、メール出来なかったんじゃねーか!」 どうせ今頃グースカピースカ寝てんだろ? もしかして俺の予想通り、女の家で寝てるとかないよな……? 別に浮気を疑ってるとかは無いけど、不安になる。 俺が嫌がることはしねーとか言ってたくせに、ちゃっかりしちゃってんじゃねーの? 「いやいや、何考えてんだ俺は……」 変なことばっか頭の中に浮かんできて、勝手に不安になってバカみたいだ。 俺はため息を吐きながら、メールを打った。 《ハザッス。起きたらメール下さい》 それだけ打って、俺は朝の支度を始めた。 「オハーーーーーッス影山くーーんっっ!!」 「うるせーなぁ……」 朝練のため体育館に向かっていると、後ろからバカデカイ声で日向が哮りながら追い掛けてくる。 朝っぱらから本当にうるさい 勢い良くピョーーンと飛び付いて来て、俺はバランスを崩しながらも日向を投げ飛ばした。 「あ"ーーーー朝っぱらから鬱陶しーんだボゲェ!!」 「ギャーーーーーーッッ!!」 投げ飛ばされ空中を飛んでいく日向を、眠そうな表情をした月島が目で追いながらため息を吐いた。 「そう言う君は朝っぱらから機嫌が悪いみたいだね」 地面に墜落した日向を見届けてから、未だ眠そうな表情のままの月島が眉間にシワを寄せてこちらを睨んでくる。 「うるせーボゲェ……」 そう呟いてから、俺は体育館へと歩を進める。 「なんだよ影山っ! ほんとお前機嫌ワリーなぁ? 大王様と喧嘩でもしたのかぁー?」 めげずに立ち上がってまた追い掛けてきた日向に、怒りが込み上がってくる。 なんでそうやって直ぐに、俺の心の中を読んできやがるんだ!? 「ちげーよ日向ボゲェーーッ!! クソボゲェーーッ! テキトーなこと言ってんじゃねーぞボゲェッ!!」 「ボケボケ言い過ぎだろ……」 及川さんとは別に喧嘩はしていない。 だがしかし、場合によっては喧嘩するかもしれないけど…… 日向も月島も直ぐに見破ってくるから、そのことでますますイライラがエスカレートする。 「適当じゃないよ。君はいつも大王様と何かあるとそうやって不機嫌か、悲しそうな顔してるか、口モゾモゾ動かしてるかのどれかだから、分かりやす過ぎるんだよ……」 「……まっ、マジかよ………… ってそんなことねーーよボゲェッッ!!」 月島の言葉に思い当たる節が有り過ぎて一瞬戸惑ってしまったが、直ぐ様我に返り意地を張る。 月島と日向を無視して態とドスドスと音を立てながら、体育館へと踏み入る。 そんな俺を見て、後輩達が蒼白で顔を引つらせていた。 朝練が終わって部室にてチームメイト達が着替えている中、俺は携帯を取り出しメールチェックする。 及川さんからのメールは来てなかった…… 何してんだあの人? まだグースカピースカ寝てやがんのか!? クソッタレがっ! 俺は乱暴に携帯をしまいながら、大きな音をたててロッカーを開けて、イライラしながら着替え始める。 ブツブツと、クソッ、クソッと言いながら 「お前まだ機嫌ワリーのかぁ? いい加減にしろよ……」 隣で着替えていた日向が、ため息を吐いてこちらを睨んでくる。 それにますます怒りがヒートアップする。 「うっせぇクソがっ!!」 「ホントいい加減にしろよな。後輩達が皆ビビってるぞ」 「……あ……」 周りを見ると後輩達が蒼白顔で、俺と目が合うとサッと逸らされる。 ヤベ……ちょっとイライラしすぎたな 「すまん……悪かった」 皆に頭を下げると、後輩達は苦笑いをしてから、気まずそうに着替えを再開させた。 「皆が居る所では我慢して、後で話聞いてあげるから……」 近付いてきた月島がコソッとそう囁いて、俺の頭をポンッと叩いてくる。 「別に……話すことなんか何もねーよ……」 月島がそう言ってくれたのは嬉しかったけど、でも俺は意地を張ってソッポを向いた。 月島はそんな俺にどんな表情をしているんだろう? そう気になりながらも月島を無視して、さっさと着替えをすませ、部室を飛び出した。 「おいっ影山! 置いて行くことないだろ!?」 「別に一緒に出なくても良いだろうがっ!」 早歩きで突き進んでいると日向と月島が追い掛けて来て、俺はまた意地を張って態と速度を上げる。 「なっ! そんなこと言うのかバ影山のくせにっ!!」 「大王様と何があったの? そんないつまでもイライラして、君がちゃんと言わないから、こっちもどう接したら良いか分からないでしょ」 なんでだろ、月島の声が優しい。 前まではあんなに性格悪かったのに、こんなに優しい月島なんて月島じゃない…… 「うっ、うっせぇボゲェっ!!」 「影山っ!!?」 らしくない月島に戸惑って思わず強声を上げたところで、突然後ろから名前を呼ばれ肩を掴まれた。 「なっ!? あ……黛先輩……」 慌てて振り返ると、そこには眉を下げて悲しそうな表情をした黛先輩が、こちらを真っ直ぐ見詰めていた。 「どうしたんだ影山っ!? そんな悲しそうな顔して、大声出して! 何か、辛いことでもあったのか?」 俺の両肩を掴んで、言葉を捲し立てて詰め寄ってきた。 あまりにも緊迫感を漂わせる先輩に、無意識に目をさ迷わせてしまう。 「影山、悩みとかあるなら何でも言ってほしい! 俺言ったろ? 影山の応援するって。 だから……だから……」 そう言って絞り出すように言葉を紡ぐ黛先輩が、震えているように見えて…… この人は本当に、俺を心配してくれているのか……? そんな先輩に、何故か嘘を吐いてはいけないような気がしてきた。 「あの……ちょっと、及川さんから連絡が無くて……」 「そーなのか!? そりゃ心配だな」 「いやでも、どうせあの人今頃グースカピースカ寝てるだけだと思うんで、心配はいらねーと思うんスけど……」 「そっか……寝てるだけか…… しかし、及川はしっかりしてそうに見えて、寝坊助なんだな」 「……そっ、そうみたいっスね」 「まぁでも、大事じゃなさそうで安心したよ。 もしまた何か悩んだり、困ったことがあれば、遠慮しないで何でも俺に相談してほしい。 俺、絶対に影山の力になってやりたいんだ」 「あ、ハイ……アザッス……」 先輩の真剣な瞳、言葉に戸惑いながらも頭を下げておく。 彼はニカッと嬉しそうに笑ってから、じゃあなっと弾んだ声で俺の肩を叩いて立ち去って行った。 応援してくれるのは嬉しいけど、先輩に及川さんのことを相談するのはなんかすごい気まずいんだよな…… そんなことを考えながら立ち去って行く先輩を見ていると、突然肩を強く掴まれた。 「イ"ッ!! なっ、何すんだボゲェ!!」 掴まれた方に怒鳴り勢い良く目線を向けると、月島の鋭い眼光がこちらを真っ直ぐ捕らえていた。 なんだよその目は…… 「今の何なの?」 「はぁ? つーかイテーよ、離せボゲェ!」 低く冷めた月島の声に、困惑し眉間にシワを寄せながらも、肩を掴む手を乱暴に払い除けた。 だがしかし、今度はその手を素早くまた掴まれてしまう。 「なっ!? んだよ一体っ!!」 「黛先輩にはそんな簡単に答えてあげるんだ?」 「はぁ? 何言ってんだ?」 「何言ってんだじゃないよ!! 僕達が何回聞いてもはぐらかして、何も教えてくれなかったくせに、先輩にはすんなりと答えてたことに腹が立ったって言ってんだよ!!」 俺の手を力強く掴み上げて、声を荒らげる月島。 こんな月島、久しぶりに見た。 あの日、及川さんが烏野の校内に入って来て、及川さんと月島が喧嘩したあの時…… あの日以来、こんな荒々しく怒鳴る月島は久しぶりで、俺はただ目を泳がすことしか出来ない。 「黛先輩には答えられて、何で僕達には答えられないんだよ!?」 「いや……あの人は先輩、だし……」 「そんなの関係ねーだろ!! ずっと一緒にいる友達より、ついこの間出会って話し出しただけの先輩の方がお前にとって上なのかよ!!」 いつも月島は人を呼ぶ時は、名前か君って言うのに、今の月島は俺をお前と呼んだ。 本気で怒らせてしまったと言うことか。 「……あ、その……」 「所詮、お前にとって僕達は悩みも何も言えない、頼りにならないいらない、ただそれだけの関係…… 友達でも何でもなかったってことか……」 「ちっ、違う!!」 「違わねーだろっ!? あんな奴には言えて、なんで僕達には言えないんだよ……」 「月島……」 「もういい……お前なんか知らない。勝手にイライラして、怒鳴って暴れて、好きにやってれば? じゃあね……」 背を向けて手を振り、月島は立ち去って行く。 それを呆然としたまま見詰めていると、静かに近付いてきた日向に頭を叩かれた。 「イデッ!! 何すんだボゲ日向!!」 思わずそう怒鳴ってしまったけど、日向は真剣な瞳で真っ直ぐ俺を見詰めていた。 そんな日向に何も言えなくなる。 「今のは完全にお前が悪いぞ影山。 月島は、スゲーお前のこと大事に思ってるよ。 それはもう恋とかそーゆーのじゃなくて、本当に大切で、大王様と幸せになってほしいって、あいつは心底そう思ってるよ。 俺も一緒だし……」 「日向……」 「あんな奴より、誰よりもお前と大王様のこと応援してんのは俺達なのに……」 「……それは、分かってる。スゲー感謝してる……日向、その、悪かった……」 「俺……月島を追い掛けるわ…… 今はお前より、月島の傍に居てやりたいから……ごめんな……」 静かな声でそう言って、日向は走り去って行った。 俺はしばらく、その場から動けないでいた……

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