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第313話
《あんたのせいで月島と喧嘩しました。
どうしてくれるんですか
責任取ってください》
自分が悪いのに、及川さんに八つ当たりするなんてバカげてる。
夜になっても、彼からの連絡は一切無し。
まだ寝てるんですか?
早く起きてください!
など、何度もメールしたけど、返信はなかった。
《何か怒らすようなことでもしましたか?
謝りますから、連絡下さい》
そう打っても、返事はなかった。
及川さん……月島、日向……
俺は人を怒らせてばっかだ
どうしてこんなに人付き合いが下手くそなんだ俺は……
大きなため息が自然と口から溢れ出る。
あっ、そうだ! もしかしたら岩泉さんになら、なんで返事をくれないのか、理由を話しているかもしれない。
それならそれで悲しいけど……
それでも理由をちゃんと聞いて謝れば、またメールをくれるようになるはずだ。
《お久しぶりです。
ちょっと聞きたいことがあるんですけど、今日及川さんとメールしましたか?》
藁にもすがる思いとは正にこの事だろう。
10分後、返信が来た。
《今日はしてない。5日前ぐらいにしたぞ》
《毎日やり取りしてるのかと思いました》
《なんであいつと毎日メールしねーといけねーんだよ! 気色ワリー》
彼の言葉に思わず笑ってしまう。
俺にはメールくれないくせに、もしも岩泉さんには返事があったらスゲーショックだけど……
それでも、及川さんの気持ちをいち早く知りたい。
《いくらメールしても、及川さんからメールが帰って来なくて。岩泉さんなら何か知ってるかと思いまして》
そう打つと岩泉さんから直ぐ様メールが来る。
彼も俺達のこと心配してくれてるんだな……
《飛雄飛雄ってうるさかったあいつが、影山のメールに直ぐ返事しないなんて、明日は雪が降るかもな》
《何言ってんスか》
《それだけあいつがいつも、ウザいぐらい影山の話しかしなかったってことだよ》
その言葉に、胸がじんわりと熱くなる。
確かに、俺がメールしたら、返ってこなかったことなんて今まで一度もない。
それだけ、愛されてるってことだ。
だからこそ、不安になる。
《ただ単に忙しいだけだと思うが、俺からもあいつにラインしとくわ!》
《すんません。よろしくお願いします》
本当に岩泉さんは頼もしいな。
岩泉さんに相談したら、直ぐに解決する気がする。
《また連絡するから待ってろな》
《はい》
俺は口角を上げながら携帯を閉じた。
これでもう大丈夫だ
そう思っていたけど……
数日後、似合わなく眉を下げた岩泉さんが、俺に会いに来た。
嫌な予感がする。
「影山、待たせたな」
「岩泉さん……態々来てくれたんスか?
忙しいのに、迷惑かけてすんません」
「いや、それは良いんだ。
あれから何回もあいつにラインしてっけど、一向に返ってこないんだよ」
「……えっ! 岩泉さんでも……?」
岩泉さんが困ると分かっているのに、俯かずにはいられない。
そんな俺の頭を、優しくぽんぽんと叩いてくる。
その感触に涙が滲みそうになった。
「まあでも、東京で忙しくしてるだけだと思うし、あんま気にすんな影山!
その内悪びれもなく『忙しくて返事出来なかった~ごめんごめんウヘペロ~』とかなんとか言ってくると思うから!」
まさかあの岩泉さんが、及川さんの真似をしてくるなんて思わなくて。
しかもそれがどこと無しか似てる気がして、俺は思わずふき出した。
そんな俺の頭を、今度はグチャグチャっと掻き回してくる。
「わっ、わっ! 岩泉さんちょっとやめっ!」
「そうやって笑ってれば大丈夫だべ!!」
「岩泉さん……」
ニカッと歯を見せて笑う岩泉さんに、心は全然晴れないけど、つられて口角が上がる。
「あいつにはまた何回でも返事が来るまで連絡し続けるから、お前もメールとか電話とかやりまくってやれ!」
「……ハイ…」
いつかきっと、いや絶対に返事が来るって思ってはいるけど、もし来なかったら俺はどうすれば良い?
もしかして及川さんの身に何かあったのか?
そんなマイナスなことを考えていると、今度は頭を叩かれた。ベシンッ、と良い音がした。
「イッデェッ!」
「んだその返事は!?
言っただろ! あいつは常に影山影山ってお前のことばっか考えてるうぜー奴なんだから、お前からの連絡に返事を返さねーことなんて有り得ねーことだから。
もっと自信持って、バンバンしつこく電話しまくってやれ!」
「う、ウッス!!」
「ヨシッ! じゃあ、あいつからなんか返事来たらまたメールするからな」
「ウスッ、よろしくお願いしますっ!」
勢い良く頭を下げると、彼はまた歯を見せて笑ってから立ち去って行った。
いつも頼りになって、力強く背中を押してくれる岩泉さん……
本当に心強い
それでも、及川さんからの返事は未だに無し。
携帯を強く握り締め、俯く
そんな俺の横を、月島が何も言わず横切って行く。
「つ、月島!」
「…………何?」
慌てて勢い良く顔を上げて、月島を呼び止めた。
止めたその表情は、冷たい瞳をこちらに向けていた。
思わず喉が鳴る
「……いや、その……」
なんて言えば良い? 謝れば良い?
そうだとしても、何故か上手く言葉が出てこなくて……
そんな俺に、やはり彼の瞳は冷たいままだった。
「気安く話しかけてこないでくれる?
君と僕はもう、友達でもなんでもないんだから……」
そう言って、俺の返事も待たずに立ち去って行く月島。
それにまた何も言えず、拳を握ることしか出来なくて。
日向も心配顔でこっちを見ては来るけど、話し掛けては来なかった。
分かってる。
悪いのは全部俺だ
月島は俺のことを心配してくれて、優しく手を差し伸べてくれていたのに、それを無下にしたのは俺の方だ
似合わない優しさで、俺に歩み寄ってくれていたのに、裏切ったんだ。
なんであの時の俺は、月島達じゃなく黛先輩に言ったんだ?
自分のことなのに、意味が分からない
あの時月島と俺の立場が逆だったら、俺だって月島と同じように怒っていたに決まってる。
本当にバカだった
あんなに心配してくれていたのに、大切な友達なのに
何やってるんだ……
「最近、元気ないな……」
気まずい、チームワークもバラバラでギクシャクした部活を終えて、俺は帰れば良いのに
校庭のベンチに座って俯き、動く気力もなかった。
そんな俺の肩を叩いて、隣に黛先輩が座ってきた。
「及川から、まだ返事無いのか?」
この人は何も悪くない。
ただ、俺のことを応援してくれているだけ。
分かっているのに、月島と喧嘩してしまった原因の一部がこの人で
悪いのは全部俺なのに、この人に怒りをぶつけてしまいそうだ。
「……まだ、無い、です……」
「えっ!? なんで?」
俺の言葉に、目を大きく見開く先輩。
「なんでなんて、こっちが聞きてーっスよ……」
及川さん……本当になんで連絡くれないんだよ?
そう叫び、暴れまわりたい気分だった。
「そりゃ、辛いな……」
うるせーよ……
お前に、俺の気持ちが分かってたまるか
なんて、言っちゃあダメだ
この人は何も悪くない。
また八つ当たりして、誰かを怒らし傷付けてはいけない。
何もかもグチャグチャだ……
及川さんからの返事も無く、友達と喧嘩して、この人にも八つ当たりしそうになる。
なんでこんなに上手くいかねーんだ?
涙が滲んできて、俺はそれを見られまいと、慌てて俯く。
「影山っ!」
突然、黛先輩が大きな声を出して俺の名前を呼んできた。
それに驚いて、無意識に顔を彼の方へ向けた。
「影山、泣くなよっ!」
「なっ、泣いてませんっ!!」
「泣いてるじゃん! なんでそんな嘘つくんだよ!?」
「…………」
何を言って良いか分からない。
先輩の瞳も揺れ出して、彼は本当に俺のことを心配してくれているのに
月島のあの時の顔が、声が、俺の心を震わせる。
「もうっ、もう、大丈夫なんで、先輩帰ってください!」
「大丈夫なわけねーだろ!?
こんな影山を置いて、帰れるわけねーじゃん!!」
月島、ごめん……っ!
俺はなんで、こんななんだ?
「本当に大丈夫なんでっ!!」
「影山っ! もっと俺を頼ってほしい!
俺……影山が、そうやって泣いてるの見たら、俺……」
先輩の頬に涙が伝う。
「なんで、あんたが泣いてんスか!?」
「だって、だって俺は……
あぁ、ダメだ……っ!」
先輩は暫く俯いて黙り込んだ後、勢い良く顔を上げた。
「俺は、影山がやっぱり好きだからっ、
笑ってて欲しいし、俺がお前を幸せにしたい!!」
「はぁっ!? 何言ってんだあんた!?」
先輩の突然の言葉に、俺は目を見開いた。
そんな俺を、黛先輩は眉間にシワを寄せて、涙を流しながら
強く、抱き締めてきた。
「っ!! なっ、何やって!?
離してください先輩!!」
「嫌だっ!! 俺、本気なんだ!
応援するって言ったけど、やっぱり無理だった」
「そんな、何言って……!」
「影山、好きだっ! 好きなんだ!!」
そう叫んで、先輩が俺の唇に自分のを近付けようとしてきた。
「やっ、やめっ!?」
「影山……好きだ……」
必死に顔を背けようとするけど、先輩が囁き、俺の両頬を包み込んできて、顔を近付けてくる。
なんでこんな!?
触るな! 近付くな!
嫌だっ! 及川さん以外の人と、こんなこと嫌だっ!
及川さんっ!!
心の中で、及川さんが泣いてるような、笑ってるような、複雑な表情をしていて。
それが苦しくて、嫌で
及川さんにこんな顔をさせる、自分も先輩も許せなかった。
「触るなボゲェッ!!」
俺はそう叫び、黛先輩を突き飛ばした。
「影山ぁ!!」
それでも先輩は俺の名前を喉が張り裂けそうなほどの声で叫んで、そして強引に身体を引き寄せられ
唇を奪われてしまった
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