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第314話
“日記みたいな、そんなメールでいーから、沢山ちょうだい”
“心と心はずっと繋がってる
どんなに二人が離れていても、心は飛雄の傍にいるよ”
旅立ちのあの日、及川さんが言った言葉達。
今もあなたの言葉は、俺の心の支え。
《こちらは今日は良い天気です
そっちは晴れてますか?》
今日も俺は、あなたになんてことないメールを送る。
どんなことでも良いんです
返事を下さい
俺はずっとあなたを求めてる……
強引に奪われた唇
あまりにも信じられない現実に目を見開き、
全身に嫌な汗が滲む
どうしてこんなこと!?
嫌だ! 及川さん以外の人とこんなこと有り得ない!
「~~~~っ! やっ、やめろボゲェッッ!!」
黛先輩の肩を必死に押して力ずくで唇を離れさせ、ありったけの声で怒鳴った。
先輩は眉間にシワを寄せて悲しそうな顔をしたが、肩を押す俺の両手を顔を歪めるほどの力で掴み返してくる。
「イ"ッ!」
「影山っ!」
掴まれた手を引き寄せられ、また唇を塞がれそうになった。
「ホント、やめっ……ボゲェッ!!」
顔を背けて、引き寄せられまいと必死に手を払い除けようとした。
だけど、先輩の力が思っていた以上に強く、強引にまた唇を奪われてしまった。
「んンッ! ん……ふ、ぅっ……っ!」
舌で唇をなぞられ、身体がゾワッと震えたかと思えば、顎を掴まれ乱暴に口を開けさせられた。
「ンウッ!?」
口腔内に忍び込む濡れた生温い感触に、身体が大袈裟に反応してしまう。
歯列をなぞられ、ゾワゾワと感じる身体に、自分の体なのに怒りが込み上がってくる。
何感じてんだよっ! 腹が立つ
自分で自分を殴りたくなった
抵抗したくても、先輩の力が強すぎる。
なんでこんなに強いんだこの人!?
同じ男なのに、ここまで違うのか?
先輩は糸も容易く俺の両手を片手で一纏めにし、抵抗出来ないようにさせて、もう片方の手で後頭を押さえ口付けを深くしてくる。
「んうっ……ふっ、うぅ……」
なんでこの身体は、自分の気持ちを裏切り勝手に感じてしまうんだ?
抵抗したいのに、上手く出来なくて
俺はこんなにも弱い
掴まれた手が、痛む
逃げ惑う舌を簡単に搦め取られ、何度も何度もキツく吸い上げられた。
口腔内を傍若無人に犯され、痺れたそれでは押し出すことも難しかった。
「ふぅ……んっ、んうぅ……ングッぅう……」
「ん……ふ……か、げ…やま……ふぅ…」
吸われる度に漏れ出す厭らしい水音が、脳内に響いておかしくさせる。
頭がクラクラして、眼前が滲んで来たその時、やっと唇が解放された。
「ぷぁっ……はっ、はぁ、はぁ……」
「はぁ……はぁ、はぁ……かげ、やま……」
息苦しさに荒い呼吸を繰り返すしか出来なくて。
突き飛ばしてやりたいのに、上手く力が入らず。
それにまだ、両手は掴まれたままだった。
「どう、して……こんなこと、すん…だよ?」
なんとか言葉を絞り出し、力無く睨みつけると、黛先輩は瞳を揺らした。
「どうしてって……だから、影山のことが好きだから……」
「好きだからって、こんなことして良いわけねーだろ」
なんとか呼吸が落ち着いてきて、スムーズに言葉が発せられるようになってきた。
「好きだから……キス、したかった……」
なんだよそれ……自分勝手すぎる
「応援、してくれるって言ったじゃねーか! あれは嘘だったのかよ!?」
「嘘じゃないっ!!」
突然の強声がその場に響き渡る。
それに目を見開きながらも、黙ってなんかいられない。
「嘘じゃねーか! 応援してる人が、こんなことするわけないっ!
最低なことしてるって分かってんのかよ!?」
「分かってる! それは自分が一番分かってるよ!!
だけど、傷付いて涙を流してる影山を見たら、止められなくなった。
もう、及川のことは忘れて、俺を見てほしいって思ったんだ!」
「及川さんのことを忘れるって、何言ってんだよ!!」
そんなこと出来る訳ない。及川さんの存在は大きく、今も膨れ上がっているというのに。
「もう忘れろよ! 及川のことなんか忘れろっ!」
「なんでだよ!? 止めろよそんなこと言うの!!」
「もう何日も連絡がないんだろ?
それが及川の答えだよ……」
「……なっ、何言って……」
黛先輩の言葉に、戸惑いを隠せない。
及川さんの答えってなんだ?
連絡が来ないのは……及川さんがなんだって言うんだよ。
そう思いながらも、先輩の次の言葉を聞きたくなくて。
「本当に、応援してたよ。お前らが仲良くやってるならそれで良いって。及川には絶対に敵わないし、影山が幸せならそれで良いって思ってた。
でも、今のお前は、お世辞にも幸せそうには見えない……」
「…………」
「何も言わないってことは、影山も分かってんだろ?
連絡が無いってことは、及川はお前との関係を絶ちたいって思ってるってことだよ」
「ちっ、違うっ!」
そんなのあり得ない。
違うと思いたくて、必死に首を振った。
「何も違わないよ……じゃないと連絡が無いっておかしいだろ?
今頃、及川は影山のこと忘れて、あっちで楽しくやってるよ」
「そんなわけない!! 及川さんが俺のこと忘れるわけない!」
「どうしてそう言い切れるんだ?
大丈夫だよ。影山には俺がいる。
ずっと傍にいるから……
及川みたいに、お前から離れたりしないよ」
優しい声でそう囁いて、黛先輩は俺の手を解放し、そっと背中に腕を回して抱き締めてくる。
先輩の言葉なんて信じない。全て嘘だ。
俺は何度もそう心中で叫び、首を振る。
「及川さんは……なんか忙しいことがあるから、連絡出来ないだけだ。
絶対にそうだ。俺のこと忘れたりしない……」
「もう俺の所においでよ影山。
及川はお前を捨てて、今頃あっちで女でも作って楽しくやってるって」
「そんな、わけないっ!」
違う、違う違う!!
及川さんはそんな人じゃない!
「そうなんだよっ! 影山は及川に捨てられたんだ!!
そんな最低な奴もう良いだろ!?
俺の物になれよ!!」
黛先輩はそう哮り、力強く、苦しくなるほど俺を抱き締めた。
嫌だっ! 嫌だ嫌だ嫌だっ!
違う違う違う違う違うっっ!!
ずっと恐れてた。
心変わりして、及川さんは俺を捨てて
別の人の所へ行ってしまった?
及川さんは本当にモテるから、今頃女と……
「そんなの……違う……」
「影山も及川なんか忘れて、俺の物になれよ!」
「そんなの信じられるわけねーだろ!!
及川さんは、及川さんはずっとずっと、俺だけを好きだって言ってくれたんだ!!
離せっ! 離せボゲェッッ!!!!」
俺はありったけの声を張り上げて、先輩を突き飛ばした。
「かっ、影山っ!」
突き飛ばされて、その場に派手に倒れた先輩が、顔を顰めながらこちらに手を伸ばしてくる。
先輩の言葉も、及川さんからの連絡が無いことも、全て信じられなくて
辛くて、涙が零れて、俺は黛先輩からも、
この現実からも逃げるように
走り出した
「影山っ!! 待てよ影山ぁっ!!」
及川さん、及川さん
俺はあなたを信じてる
信じてるんだっ!!
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