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第315話

黛先輩に言われた言葉達が、頭中で渦巻く。 前から心の片隅に、ずっとあるもので 及川さんがあまりにもモテるから、誰かに及川さんを奪われないか、 心変わりしてしまわないか ずっと不安で、心配してて 彼はそんなこと絶対に有り得ない ずっと俺を愛してくれると誓ってくれた だから及川さんのこと、信じる 俺も心からあなたを愛して もう彼の気持ちを絶対に疑わないと、そう決めた 決めた 誓ったくせに…… 黛先輩のあんな言葉なんかで、こんなにも心が掻き乱されて、揺らいでしまう 情けない…… もう迷わないって決めただろ! それなのに何考えてんだボゲェ! 首を振り、思いっきり両手で頬を叩いた 「グゥッ……ん、よしっ!」 痛む頬をそのままに グッと痛くなるほど、掌に爪痕をつけるほど強く拳を握って、気合を入れる。 あの人は追ってくるだろうか? 後ろを振り返るが、誰も追って来てはいないようだった。 でももしかしたら探しに来るかもしれないから、取り敢えずどこかに隠れておかないと。 普段人が来なくて、静かな目立たない場所 そうだ! 前にオナニーが出来なくて、それでイライラムズムズして、熱を発散されるために人気が無いとこを探した。 あの時に行った場所、俺はプール横にあるトイレへと足を進める。 季節や時間のこともあり、やはりそこには誰も居らず、静寂に包まれていた。 俺はホッと一つ息を吐いて、あの時と同じようにトイレの個室に身を隠そうと決めた。 ほとぼりが冷めたらコッソリ抜け出して、さっさと家に帰ろう。 なんて考えながら個室に入り、ドアを閉めようとしたその時、それを誰かに阻まれた。 「ッ!?」 ドンッと大きな音がしたと思ったら、険しい表情をした黛先輩がドアを閉められないように腕で押さえ付けてきた。 「……影山っ……」 「まっ、黛先輩っ!!」 黛先輩の額は汗で濡れていて、慌てて走って俺を探しに来たことが丸分かりだった。 「どっ、どうしてここに俺が居るって分かったんスか?」 「……前に、お前の様子がおかしかった時に、ここから出て来たのを見たから」 そう言えば、あの時トイレから出た後黛先輩に話しかけられていたのを今更思い出した。 俺の考えが、詰めが甘かった…… 散々月島と日向に先輩は危ないと、近づくな話すなと言われていたのに 俺はそれの意味が分からなかった。 それで月島達に愛想を尽かされて、今こうして痛い目にあっている。 本当にバカだった……ごめんな月島、日向…… お前達が言っていたことが、ようやく理解出来た。 もう先輩には近付かないから! 「あっ、あのっ、退いてくださいっ! 俺帰りますから!!」 トイレの個室の入口は当たり前だが一つしかなく、先輩が立ちはだかっていて外に出られない。 俺は黛先輩を無理矢理押し退けようとした。 「行くな影山っ!!」 強声が響いた次の瞬間にはもう、黛先輩の力強い腕の中に閉じ込められていた。 「やめっ、やめて下さいっ!! 離して下さい!」 腕の中で必死にもがく俺を、先輩は苦しくなるほど強く抱き締める。 「行くなっ、俺のものになれよ影山!」 「本当に困ります! 俺には及川さんが居るのにそんなこと」 及川さんの名前を口にした途端、更に腕の力が増した。 「くっ、苦しっ……」 「なんでなんだよ……捨てられたのに、まだ及川を求めるのかよ!」 「捨てられてない! 及川さんはずっと俺を愛してくれると、誓ってくれたんだ!」 「それは昔の話だろっ!?」 「む、昔……?」 「そうだ! 昔、過去の話だ! 及川はもう、そんな約束なんて忘れてるよ。連絡がないのがその証拠だ!」 ついさっき及川さんを信じると決めて、気合いを入れたばかりなのに……また心が揺らいでしまいそうになる。 情けない、しっかりしろよって活を入れたはずなのに…… 自然と目が泳ぐ 黛先輩にどう返したら良いのか、分からなくなってしまった。 そんな俺の頬を両手で包み込んで、先輩が唇を近付けてくる。 慌ててそれを阻止しようと先輩の手を掴んだが、それでもビクともしない力強い手が力を増して、また強引に奪われてしまった。 「んんぅっ! んっ、は、うグゥッ!」 黛先輩の舌が口腔内に忍び込み、舐め回され、 翻弄される 「んーーーーっ! んっ、ふぅっ……」 二人の唾液が合わさって、泡立ち クチュッ、チュプッと厭らしい水音が脳内で響いておかしくなりそうだった。 口腔内を掻き回され、飲み込むことの出来なかった唾液が口端から伝い落ちる。 その感触が気持ち悪くて、感じたくなくて 搦め取られそうになる舌を必死に逃げ惑わせる。 押し出そうとするけど、それがヌルリと滑って、擦れる感触に身体が慄いてしまう。 嫌だ、嫌だっ! こんなの……っ 必死に抵抗しているはずなのに、全然敵わなくて 肩を押され、ジリジリと後ろの方へと身体が下がって行く。 肩を押し返すが、やはり相手の方が力が強く、簡単に壁に押し付けられてしまった。 トイレもあるせいで上手く身動きが取れなくて、頭を後方へ反らすことも出来ず、口付けをより一層深くされる。 「んくっ、ふっ、うぅ……ンウゥ……」 抵抗も虚しく舌を搦め取られ、キツく吸い上げられた。 「ングゥッ! くっ、うぅ……」 何度も連続で舌を吸われ、甘く痺れてしまう。 身体の力が入らなくなってきて、目の前がボヤけていく。 どうしてこの体は、自分の意思を無視して勝手に感じてしまうんだ? こんなにも嫌なのに、気持ち悪いのに こんなの自分の体じゃないっ! ムカついて、悲しくなった…… 情けなくて、腹が立って、泣きたくないのに勝手に涙が滲む。 そんな俺に気付いたのか、黛先輩は唇を解放して 涙をそっと優しく指で拭ってきた。 無理矢理やってるくせに、その優しい感触にも益々腹が立った。 「影山……大丈夫。 俺が及川を忘れさせてやるから。 俺に身を委ねて」 何が大丈夫なんだよ? 俺は……俺は…… 「及川さんを忘れるなんてことは、絶対に有り得ない。忘れられるわけないだろ!」 そんな俺の言葉に、先輩は小さく首を振った。 「大丈夫だから、俺に任せて」 何を言ってんだこの人? 眉間にシワが寄る。 先輩がフワリと笑ったかと思えば、今度は膝を立てて、突然俺の股間を思いっきり刺激してきた。 「あ"ぁッ! ~~~~~~ッッ!!」 突然の衝撃に震え強く目を瞑り、声に出来ない悲鳴が上げる。 身体がグワッと熱くなって、嫌な汗が吹き出た。 さっきまでのキスで身体が甘く痺れてしまっていたから、その刺激に耐えることが出来ず、身体が自分の物ではないかのように反応して言うことを聞かなくなってしまった。 上手く立っていられず、その場にくずおれそうになる。 そんな俺を黛先輩が抱き締めて、先輩の身体にもたれ掛かり、身を預けるような形になった。 「うっ……あ……うぁ……」 上手く力が入らない。 身体が震えて、自分でちゃんと立つことが出来ない。

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