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第317話

「影山を幸せに出来るのは、及川さんだけなんだよ!」 聞き覚えのあるその声 暗闇に包まれていた頭の中に、光、そして色が徐々に戻ってきた。 滲んでいた視界が少しずつ晴れて、その瞳に映ったのは、険しい表情で黛先輩を睨む月島の姿だった。 「つっ、つ、き、しま……」 月島……! 月島が助けに来てくれた! そう理解した瞬間、さっきまでとは違う涙が零れ落ちた。 「影山から離れて下さい!」 俺から黛先輩を引き剥がし、守るように前に立ちはだかってくれる。 怒らせてしまったのに…… 素直になれなくて、暴言吐いて傷付けて もう友達じゃないって言われて それなのに、助けに来てくれるなんて…… 申し訳なさでいっぱいで、それでも嬉しさに涙がもっと零れる。 震える手を必死に伸ばし、月島に触れる。 「つき、し、ま……ゴメ……」 「なんでこんなとこにいるんだよ! もっと見つけやすいとこに居ろよバカっ!」 「なっ……」 突然怒鳴られて、言葉を失う。 確かに、こんな誰も来ないような所に来てバカだったとは思うけど、黛先輩から逃げるためにここしか思い付かなくて…… でも……探してくれたんだな 「あーーーー! 影山ぁっ!!」 バカデカイ声を出して今度は日向が駆け付けて来て、俺を力強く抱き締めてきた。 「っ!? 日向っ!」 「やっと見つけたっ!! 心配しただろバ影山!」 「……心配したって、どうしてそう思ったんだ?」 「それはなぁ──」 「おい……邪魔しておいて、何勝手に話始めてんだお前ら……」 低い声でそう唸った先輩の方へ目線を向けると、分かっていたけど眉間にシワを寄せて、物凄い恐ろしい形相でこちらを睨んでいた。 「……影山にこんな酷いことしておいて、よくそんな態度でいられますよね?」 負けないぐらいの形相で、月島も先輩を睨み返す。 そんな月島に表情一つ変えず、先輩は舌打ちした。 「邪魔しやがって、後もう少しだったのに……」 その吐き捨てるような言葉に、月島が素早く距離を詰めて、先輩の胸倉を掴み上げた。 鼻先が当たってしまうほどの距離まで、顔を近づける。 それに先輩は苦しそうに顔を歪めたが、それでも相手を睨むことをやめない。 「後もう少しだったって、影山に何をしようとした!?」 「……見たら分かるだろ。影山を抱こうとしたんだよ」 「あんた、何平気でふざけたこと言ってんだよ!!」 先輩の低いドスを利かせた声に、月島が強声を張り上げて、更に首がしまるように胸倉を高く上げた。 先輩が苦しそうに咳き込む。 これは流石にヤバいかもしれない 俺は慌てて月島の腕を引っ張った。 「おっ、おい月島! やり過ぎ、首絞まってるぞっ!」 「酷いことされたくせに、なんで庇うんだよ!? て言うか、さっさとズボン履いたら?」 「アッ!?」 そう言えば先輩に脱がされたんだった。 日向達が来て、月島と先輩が睨み合いになってしまったから、すっかり忘れてた。 俺は急いでズボンを履いていたらヨロロっと転けそうになって、それを見た日向と月島がプっと吹き出した。 それで力が弱まってしまったのだろう、突然先輩が月島の手を払い除けたかと思ったら、次の瞬間にはもう首を乱暴に掴んで月島の身体を壁に叩き付けていた。 「グッ!!」 「何笑ってんだよ? 余裕だなぁ」 「まっ、黛先輩っ!?」 「ゲホッ、ゲホッ! ウエッ!」 月島が激しく咳き込む姿に、血の気が引く。 日向も顔面蒼白で、俺と一緒に黛先輩を止めに入った。 「黛先輩っ、やめてくださいっ!!」 「まっ、まま、黛さん! それは流石にヤべーっすよ!!」 「先にやったのはコイツだ……」 「や、でもそれは、黛さんが影山に酷いことしたからだろ!」 日向の言葉に一瞬先輩の目が泳いだけど、直ぐに険しい表情に戻り、今度は日向を鋭く睨んだ。 「ビェッ!」 睨まれてしまった日向は 背筋をピンッと伸ばし、蒼白顔で硬直状態になった。 それを見た月島が、苦しそうに顔を歪めながら口を開いた。 「ゲホッゲボッ、うっぅ……ひっ、日向に、酷いこと、しないで下さい……僕なら、良いけど、日向、には……」 途切れ途切れの懇願に、先輩が顔を歪めてやっと首から手を離した。 俺と日向はくずおれた月島に、急いで駆け寄った。 「月島っ、大丈夫か!?」 「ゔ、うん……」 日向は大粒の涙を溢しながら、月島を助け起こしてギューっと抱き締めた。 「づぎじまぁっっ!! ゴメッ、ゴメンなぁーー!! だずげられなぐでぇっっ!! こんななっでも、お前は俺のごと守ってぐれるのにぃー! 俺はなんにも、でぎなくでぇーー!」 「苦しいし、うるさいよ日向……」 ギュウギュウと抱き締めて喚く日向に、月島は文句言いながらも、口角をあげていた。 「うっ、うぅ……ゴメ……ゴメンなぁづぎしまぁ……」 鼻をすする日向の頭を、月島が優しい手付きで撫でる。 「君が無事で良かった……」 「づぎじまぁ……」 月島の優しい言葉に、日向はまた叫んで強く月島を抱き締めた。あの月島があんなに優しそうな手付きで、日向に触れるなんて…… 意外すぎてビックリした 「別に……お前らを傷付けるつもりは無かった…… 悪かった……」 先程までとは打って変わった先輩は、俺達から視線を逸してばつが悪そうな表情をしていた。 そんな先輩に月島は、また鋭い眼光を向ける。 「じゃあ……影山のことは傷付けるつもりだったんですか?」 「なっ!?」 そんな言葉に、先輩が慌てた様に俺の方へ向き直った。 その表情は、眉を下げて悲しそうに歪められていた。 「ちっ、違うっ!! 違うんだ影山!!」 「何が違うって言うんですか!? 実際に影山に酷いことして、傷付けたじゃないですか!」 「いや、本当にそんなつもりじゃなかったんだ影山……影山……」 揺れた声音で先輩が、俺の方へと震えた手を伸ばしてきた。 触れられそうになる……そう思った瞬間先程までの恐怖が蘇ってきて、俺は身を怯ませた。 その次の瞬間、突然後方へ腕を引っ張られ、気付いた時には月島に守られるように肩を抱かれていた。 そのもう片方で、日向も俺と同じように肩を抱かれている。 「影山に触らないで下さい。影山も日向も 僕が守る!」 月島の温もりと、その言葉に 涙が溢れ落ちた

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