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第319話

「だから……俺が影山の一番になりたかった…… 俺が幸せにしたかった……」 拳を強く握り、先輩は呟きながら俯いた。 前からずっと思ってた…… 恋をするって、嬉しさや楽しいことばっかじゃない。 本当は辛くて、切ないことも沢山あるんだ…… それを理解していたとしても、人は誰かを好きになってしまうんだ 止められないんだ 「僕も、日向も先輩と同じだったんですよ。 及川さんに影山取られて、フラれちゃったんです」 及川さんに片想いしていた時や、日向と月島の気持ちとか、色々なことを思い出して、目頭が熱くなった。 そんな俺に、月島が突き刺すような視線を向けてきて、無意識に肩が跳ねた。 「感傷に浸ってるところ申し訳無いけどさ、これ事実だから」 「うっ……うぬん……」 「すごい泣いたし、本当にはらわたが煮えくり返る思いでした」 かんしょうにひたる? とか、はらわたが煮える? とか……良く分からないこと言われたけど、 これはたぶん俺と及川さんに向けた悪口だ。 「そっ、そんなこと言われても、俺だって本気で及川さんが好きで……中学の時とかずっと片想いしてて、俺だってフラれてたかもしれねーし…… こうやって及川さんと付き合えたのは、奇跡みたいなもんだし! それに、3人が俺を好きとか意味分かんねーし! ハッキリ言って、趣味ワリーぞオメーら!!」 段々と口調が強くなるのを感じてたけど、止められず一気に捲し立てる。 3人は俺が言い終わるまで目を見開いて呆然としていたけど、日向が眉を吊り上げ頬を膨らませ、突然ジャンプしたかと思えば、勢い良くチョップしてきた。 「イデッ!?」 「俺の好きな影山をバカにすんじゃねー! それは本人でも許さねぇぞ! 分かったかバ影山くん?」 痛みに頭を押さえながら日向を睨んだが、日向はどこ吹く風でえっへんと言わんばかりに踏ん反り返っていた。 そんな俺達を見て、月島が眉を下げて困り顔で笑った。 「それを言っちゃうと、及川さんも趣味が悪いことになるけど?」 「そう……だからあの人も趣味がワリーんだ。 俺を中学の時からずっと好きだったとか…… ホント変な人だよな」 及川さんはスゲーモテるし、選びたい放題なのに何故か俺を選んだ。 バカだなって思うのに、スゲー嬉しくて、そんで両想いになって。 やっぱりこれは奇跡だなって思った。 無意識に笑って、口がムズムズと動く。 「……本人は、自分の魅力に気付いていない。 本当に影山は魅力的な人で、だから4人はお前を好きになった。 4人だけじゃない、もっといっぱい影山の魅力に気付いてる人は沢山いると思うよ」 先輩の揺れた声。 そんなことないって否定しようと思っていたのに、先輩が瞳を潤ませながら笑っていたから何も言えなくなってしまった。 「及川はすごい奴だって知ってたし、及川には勝てない。そんなこと影山に恋したって気付いた時から分かってた。 二人はホントに想い合ってたし……だから分かってたつもりだったんだけどなぁー 自分で自分を止められなかった。 なぁ? どーやったら、影山のこと諦められると思う?」 質問に月島は少し考える素振りを見せた後、真面目な顔して日向に視線を向ける。 「ねぇさっき、俺の好きな影山って言ってたけどさ、でも、一番は、僕、なんだよね?」 なっ、なんだよそれ……どう言うことだ? 月島の言葉にスゲービックリして、開いた口が閉じられない。 日向の方を見ると、なんと日向は似合わない真っ赤な顔をしていて、それにもビックリしてしまった。 「それ……今答えなくちゃダメか……?」 「じゃないと困る」 「う~~~~え~~と……」 めちゃくちゃ目を泳がす日向、それでも月島は真っ直ぐ日向を見つめる。 「僕も日向も影山が好き。でもそれは大切な人であって、愛する人じゃない。 ねぇ、日向も同じでしょ? 一番は僕。愛してるのは僕でしょ?」 「なっ、う、おっ、つっ、月島、お前~~~~っ!」 愛してるって言葉を月島が言うなんて、まだ開いた口が塞がらない。 それって……つまり? 月島の真剣な眼差しに、日向はこれでもかと言うほど赤面になっていて、頭から湯気が出ている。 だけど、グッと拳を強く握るのが見えて、次の瞬間日向は月島に飛び付いた。 「うわっ!」 「月島のバカヤローーーーっ!! 一番はお前に決まってるだろ! 言わなくても分かれバカっ!!」 「分かってたけど、君の口から聞きたくなったんだよ!」 「うぅーーバカヤロー!」 月島は幸せそうに笑って、日向を抱き締め返す。 日向は耳まで真っ赤になって、拗ねているように見えるけど、やっぱり幸せそうだった。 「なんだよ、これ……つまり、日向と月島は付き合ってるってことか……?」 「えっ? 今更知ったのか? 見てたら分かるだろ?」 え? 先輩は知ってたのか!? ますます開いた口が塞がらなくて、顎が外れてしまうのではないかと思うぐらいだった。 「日向と月島が、影山のこと好きだったのも見てたら分かったけど、二人が普通の友達じゃなくなったってことも、見てたら分かるだろ?」 「なっ、なんだそりゃ!? そんなの、見てても分かんないっスよ!!」 「えーー……なんか空気で分かるだろ……」 「影山らしいな……」 「まあ、そう言う鈍感なところも好きなんだけどね……」 「俺も……」 「それで、さっきの答えなんですけど、つまりこう言うことですよ!」 突然月島はどや顔して、先輩の前に日向を立たせる。彼はそんな月島が何を言いたいのか分かったらしく、長いため息を吐いた。 「僕には日向がいてくれた。だから立ち直ることが出来た。 ドン底にいた僕を日向が救ってくれた」 「つまり、俺に早く恋人を作れって言いたいのか? そんな簡単に出来ないし、影山のことまだこんなにも好きなのに……」 「それでも、よく言うでしょ? 失恋の痛手は新しい恋が癒してくれるって」 「なんかそれ、無責任な言葉だよな!」 「確かに僕もずっと、影山を忘れられるわけないって思ってたけど。 未練がましく影山を想ってて、日向も強がって影山を応援するとか言いながら、僕以上にまだ影山を好きなことに気付いて…… もう僕達はずっと影山のこと忘れられず、好きで生き続けるんだなって思ってたんです。 けど、それでも及川さんと幸せそうに笑う影山を見てたら、やっぱり例え僕が及川さんから影山を奪ったとしても、影山をあんな幸せな笑顔にさせることは出来ないって分かって…… 日向は僕よりも早くに、その事に気付いていたんです。 影山の幸せを願いながら、好きだって気持ちを押し殺して前を向いて歩く日向を見ていたら、 自分も前を向いて、なんなら日向を追い越して先を走ってやろうって思えたんです。 そしたらコイツ……」 「なっ、なんだよ?」 月島が日向を睨んで、肘で日向を小突いた。 「バカでチビガキのくせに大人ぶって、僕は一人じゃない、吹っ切れるまで自分が傍にいてやるからとか言ったりして、励ましてくるから…… 僕はもう前に進んで、なんなら日向を追い越してる筈なのに、日向に勇気付けられて、救われてる自分がいたんです…… そこで気付いたんです、日向に恋してるって…… 先に前へ進んで追い越してやるとか思ってる時点で、実は日向のこと意識しまくってて、いつの間にか影山以外の人を好きになってたんです」 「…………」 「失恋の痛手は新しい恋が癒してくれるって、本当だったんだな……」 月島が語り終わって、先輩が俯いたその時、ボソッと日向が呟いた。 呟きの後、月島が思いっきり日向の頭をぶん殴った。 「イッデええぇぇぇぇっっ!! 何すんだ月島コノヤローー!! 本当のことだっただろ!?」 「日向に言われたら、なんかすごいムカつく!」 「なんでだよ!?」 「そんな奴!」 二人が喧嘩し始めそうで、慌てて止めに入ろうと思ったその時、先輩の声が二人の動きを止めた。 「日向と月島みたいに支え合えるような奴と、出会えるかどうかも分かんないだろ?」 「黛さんの気持ちには応えられないですけど、影山を好きだった者同士、支え合い助け合うことは出来ますよ! それで前向けたら、黛さんももしかしたらまた誰かに恋出来るかもしれねーし!」 「気持ちには応えられないって、まるで俺が日向を好きみたいじゃないか!? やめてくれよ!!」 「まあ……僕も気持ちには応えられないですけど、他の人には話せないようなこととかでも、相談に乗れるかもしれませんし」 「いや、相談に乗ってくれるのは有り難いけど、その言い方やめろって!」 やめろとか言いながら先輩は楽しそうに笑ってて、 こんな先輩の笑顔初めて見たかもしれない。 それがなんだか、とても嬉しかった

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