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第321話
久しぶりに会ったのに、めちゃくちゃ眉間にシワを寄せて、口を歪めながら怒鳴られ、思いっきり睨まれた。
なんでこんなに怒ってんだこの人……
「もう何ヵ月も及川くんから連絡がないんだって?」
その言葉に目を見開きながら岩泉さんの方へと目線を向けると、彼は眉を下げて申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「……ワリーな影山……
言うつもりなかったんだけど、及川となんとか連絡取ろうと電話かけまくってたら、梓に浮気を疑われたんだよ……
正直に言わねーと別れるって言われたら、言うしかねーだろ……」
まさか、俺と及川さんのせいで、岩泉さんにそんな迷惑をかけていたとは……
それで二人が別れてしまったら、及川さんも悲しむに決まってる。
「迷惑かけてすんません!」
声を大にして謝ると、未だにこちらを睨み付けていた新藤さんに、頬を思いっきりつねられた。
「イデデデッ!! イテーっすよ新藤さん!!」
「はじめも影山くんも詰めが甘いのよ!!
何ちまちまと電話だけかけて満足してんの?
出ない相手に何回電話したって、出ないもんは出ないのよ!」
頬を擦りながら、その言葉に圧倒された。
確かに、それもそうかもしれない。
でも、どうしたら良いのかも分からない。
「あの影山くん大好き人間の及川くんが、影山くんに連絡の一つも寄越さないなんて、おかしすぎる! 変よ!
何か連絡が出来ない事情があるに決まってる!」
「それは俺も分かってるんだが……他にどーしよーもねーだろ?」
「どうしようも何も、会いに行けば良いじゃない!」
「えっ!? 学校は?
部活出ねーと……」
「学校なんてそんなもの卒業しちゃえば、授業の内容なんてすぐ忘れちゃうよ。
部活は1、2回休んだぐらいで、そんな体が鈍ったりすんの?
休みの日とかにまたトレーニングとかすれば良いじゃん!」
「新藤さん、体作りってのはそんな簡単な話じゃないんすよ」
「でも! 人の心は、一回離れたりしたらなかなか元に戻すのは難しい……
それに、さっきも言ったけど、あの及川くんが影山くんに連絡の一つも寄越さないなんて……きっと何か大きな事情があるに決まってるよ!
ただ忙しいだけだとか、そんな甘い考え方してると、きっと後悔すると思う……」
そんな考え、思い付きもしなかった。
今までずっと、勉強は嫌だけど学校には絶対に行かないといけないって思ってたから。
親にも怒られるし、何より部活を
バレーがしたいから……
俺にとって、何よりもバレーが大切だった。
大袈裟に言ったら三度の飯よりも、バレーが1番かもしれない。
そうだ。
そうだったはずなのに……最近の俺は……
及川さんから連絡が来なくなって、1番大切だった、大好きだったバレーをしてる時も、ずっと及川さんのことが頭から離れなくて……
部活に全然集中出来なくなっていた。
バレーも及川さんも、どちらも大切で、
どっちを1番にするとか、そんなの決められるわけもなかった
なのに……
バレーよりも俺の中で、及川さんの存在が
大きく膨れ上がっていく
そんな大切な人と連絡が取れないのに、会いに行かずモヤモヤイライラしてるだけなんて……
それに、もしかしたら、俺の居ないところで及川さんに何かあって、彼が苦しんでいるかもしれない。
だから連絡したくても、出来ない状態なのかもしれない。
だったら、恋人である俺が、傍にいて彼を支えてやらなくちゃ!!
グッと拳を握り締めた俺の手を、日向が力強く引っ張ってきた。
「っ! 日向……っ!」
「影山、行けよ!!
本当は新藤さんよりも先に、お前の背中押してやるつもりだったのに、先越されたっ!
スッゲェーくやしーー!!
大王様から連絡無いなんて、そんなの絶対になんかあったに決まってる!
やっぱりお前には大王様が必要で、大王様にも影山が必要なんだよ。
絶対!
だから、影山は東京に行かなきゃダメだ!
こんなとこにいないで、早く大王様に会いに行けよ!!」
「日向……」
日向の言葉に、瞳が揺れそうになった。
そんな俺の隣で、月島が大きなため息を吐いた。
「何があったか知らないけど、連絡もよこさず、影山をこんなに悩ませるなんて、最低な奴だよね及川さんは。
僕と日向は及川さんとの約束を守っていると言うのに、及川さんは僕と日向にした約束を破ろうとしてるってことでしょ?
すんごいムカつくんだけど……
だからさ影山……最低な及川さんがあっちで何してんのか、僕の分まで代わりに見てきてよ!
腹立つから、一発か二発ぐらい殴ってきてよ」
「月島……」
冷たい言葉を言ってるように見えるけど、月島の表情はとても優しかった。
「影山や皆をこんなに心配させるなんて、本当に及川はクズでボケカスでクソ川だよな!
影山、一発二発とか言わずに、俺の代わりに百発くらいぶん殴ってこい!!
あいつが文句言っても俺が許す!!」
岩泉さんは笑いながら冗談を言っているけど、及川さんを心配してるのがスゲー伝わってくる。
皆……及川さんのことスゲー心配してて、そんでスゲー大好きなんだな。
及川さん、皆に愛されて、あんたは本当に幸せ者だよ……
「影山くんっ! もう、新幹線の予約取ってあるから!」
「えっ!?」
皆一斉に新藤さんの方へと目線を勢い良く向けて、その言葉に目を見開いた。
「新藤さん、仕事はえーっ!」
「今じゃないわよ! はじめから及川くんのこと聞いた時に、影山くんには絶対に東京に言ってもらうつもりでいたから。
もう居ても立ったも居られなくなって、気が付いた時にはもう新幹線の予約してた!」
「新藤さん……アザッス!!」
「お礼は良いから、さっさと行きなさい!」
「影山、頑張ってこいよ!」
「事件解決するまで、帰ってきたら許さないからね」
「影山、行ってこーーーーいっっ!!」
「オウッ!!」
俺は、皆に背中を押されて、走り出す。
及川さん、待ってて下さい!
今、会いに行きます
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