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第322話
次の日俺は、さっそく学校をサボって新幹線に乗り……
と言うか、新藤さんに無理やり乗せられたようなものだった。
そして、東京に到着した……
及川さんには大学名は教えてもらってたけど、でも何処にあるのかは全然知らなくて……
道行く人々を捕まえては聞き、迷いまくって
スゲー時間かかったけど、なんとか及川さんの大学に辿り着くことが出来た。
「着いたは良いけど……どうすりゃ良いんだ?」
普通だったら、及川さんに会いに来たとか言ってメール打って、及川さんに出てきて貰うんだけど……
今彼とは連絡が取れない状態だから、出て来てもらう前に、及川さんが大学内に居るのかどうかさえも分からない。
大学名は聞いていたが、家の住所は聞いていなかった……
彼がどこの大学でバレーをするのか物凄く気になったからだ。
でも家の住所は、手紙はメールがあるから書かないし、及川さんの家に遊びに行く時があったとしても、彼が迎えに来てくれるだろう。
聞いても自分では辿り着ける自信はないし……
だから聞かなかった。
あぁ、もう……聞いておけば良かったのに、何やってんだ俺……
どうすることも出来ず、大学前で右往左往していると、周囲の人々に訝しげな目でジロジロ見られていた。
数人の女の人達がこちらを指差しながら、コソコソ何か言っている。
ヤッベェ……これって完全に不審者だよな……
「どーすりゃいーんだ……」
途方にくれてため息を吐いていると、突然大きな声で自分の名前を呼ばれた。
「とびおちゃん? やっぱりとびおちゃんだぁーーっ!!」
トビオちゃんって、そう呼ぶ人はこの世でただ一人、及川さんしかいない。
及川さんが俺を呼んでる!?
だけど……なんか声が違うような……?
そんなことを考えながら、声のする方向へ目線を向けようとしたその時……
「会いたかったぁーー!」
そう叫ばれ、物凄い強い力でギューーっと抱き締められた。
「グェッ!! ウッ……だっ、誰だ!?」
「やっぱり本物だよね? とびおちゃんだよね? そーだよね!
うわーー嬉しーなぁーー!!」
抱き付いてきた人物は、やっぱり及川さんではなかった。
俺を締め付けながら、見ず知らずの男の人がキャっキャとはしゃいでいる。
苦しい……この人、力強すぎだろ!?
呼吸が止まるんじゃないかってほどの、凄まじいパワー。
「ぐる……じ、い……離して、下さいっ!」
「あーーっと! ゴメンゴメン!
ゴメンねとびおちゃん……」
苦しさのあまり男の人の背中を乱暴に叩くと、彼は申し訳なさそうに苦笑して、やっと離れてくれた。
「あの人……やっぱりあのとびおちゃん?」
「ウッソーーっ!?
あり得ないんだけどー!」
「うわーー……もしかして会いに来たの?
ヤバすぎなんだけど~~」
先程こちらを指差してコソコソと話していた女の人達が、態とらしく俺に聞こえるぐらいの声で騒いでいる。
この男の人も女の人達も、どうして俺の名前を知ってんだ?
話したこともないのに……
それに……俺、なんか女の人達に嫌われてる?
不審者みたいなことしてたから?
男の人は変わらず笑顔で話しかけてくる。
「俺ずっととびおちゃんに会いたかったんだ!!」
「……どーして俺の名前知ってんスか?」
「だって及川が毎日とびおちゃんの話をするもんだから、そりゃ覚えるよ〜」
「えっ!? 及川さんが!?」
突然出て来た恋人の名前に目を見開くと同時に、顔が熱くなる。
及川さん、俺のこと皆に話してたのか……
どんな風に話してたのかな?
なんかスゲー恥ずかしいな
そんなことを考えていたら、また突然抱き付かれた。
「カワイーっ!!」
「わっ!? ちょっ、ちょっと!」
「とびおちゃん最っ高にカワイーっ!!
及川の名前出した途端、赤くなったぁー!
名前聞いただけで、ドキドキしたの?
及川のこと大好きなんだね〜♡」
「なっ! べ、別にドキドキなんてしてません!」
「じゃ〜なんで赤くなったのぉ〜?」
「それは……その……うぬん……」
上手い言い訳が思い浮かばず口籠ってしまうと、男の人はまたキャッキャッとはしゃぎだした。
「唇尖らせちゃってカワイー♡
いや〜本当にとびおちゃんカワイーねぇ〜」
「尖らせてなんかいません!」
「そう言う返しもサイコー!
俺ずっと君のこと気になってたんだよ。
顔がもうほんとどストライクでね、一目惚れしちゃったんだよ〜
あれからずっと君に会いたくて会いたくて、仕方なかったんだ〜!
だからやっと会えて、もうホントに死にそうなぐらい嬉しいんだ〜♡」
「ずっと会いたかったって、俺達初対面っスよね?」
「まぁそーだけど、及川に写真見せてもらってたから」
「写真を!?」
「うん。及川がスマホ見てニヤニヤニヤニヤしてたから、気になって声かけたのが始まり。
俺と及川は、君のお陰で友達になったんだ」
「俺の、お陰……?」
「別に話し掛けるつもりも、友達になろうとか特に何にも思ってなかったんだけどさ、毎日嬉しそうにニヤニヤしながらスマホ見てるもんだから気になってさ。
声かけたら、カワイー写真見せてあげよっか!
とか言って見せてくれた」
「なっ!? カワイー写真って!!」
あの人何、人の写真を勝手に見せてんだよ!?
しかもカワイー写真とか嘘言って! カワイーわけねーだろーが!!
恥ずかしすぎる。無事に会うことが出来たら、一発殴ってやる!
「カワイー写真って、ペットとか動物の写真かなとか思ってたら、それよりも何百倍もカワイー写真だったから、ビックリしたよ!」
「動物の写真の方が可愛いだろーが!!」
「いっつも見せてくるから、顔ももうバッチリ覚えちゃったもんねっ♪」
「そっ、そんなにいつも見せられてたんスか?」
「うん。そーそー!
カワイーカワイーっていっつも言ってた!
俺が一目惚れするぐらい、本当にカワイーよねとびおちゃん♡」
「いやだから、カワイーわけねーだろ……」
恥ずかしすぎて、泣きたくなる……
それでも、及川さんはそんなに俺の写真をニヤニヤしながら毎日のように見てくれていたのか。
それはそれで恥ずかしいけど……スゲー嬉しい……
「で、そんな及川の愛しの愛しのとびおちゃんは、態々新幹線に乗って東京まで会いに来たんだ?
うわ〜〜愛されてるね〜羨まし〜」
「ちょっ、やめてください!」
「及川もう大学出たと思うけど、なんでこんなとこいるの?
早く及川と連絡とって、会いに行けばいーのに……」
「いや……それは……」
その及川さんと連絡が取れないからここまで来たんだよ……
なんて、言えねー……
俺がまた口籠っていると、男の人がニヤ〜っと悪そうな笑みを浮かべた。
「なるほど、サプライズか……」
「あっ、いや……」
「うん。分かった! 俺に任せて♪」
そう言って男の人は、ポケットからスマホを取り出して、電話をかけだした。
及川さんに電話してくれるのか?
でも、あの人は俺からの連絡も、岩泉さんの電話だって出てくれないのに……
そんなことを考えていたら、どうやら電話が繋がったようだ。
「あっ! もしもし及川ぁ〜♪
お前今どこにいんのぉ?」
『なんでそんなに楽しそうなんだよ?
気持ち悪いなぁ……』
スマホから聞こえてきた声は、紛れもなく及川さんの声だった!
どうして? 俺の電話は出てくれないのに、この人の電話には出るんだ?
それでも久しぶりに聞けた彼の声に、涙が溢れそうになった。
愛しい声……ずっと聞きたかった……
「フフフ〜グフフフ〜〜
いや〜〜及川がさぁ〜泣いて喜ぶものを見せてあげようと思ってね〜〜電話したんだよ〜」
『泣いて喜ぶ物? 何それ?
俺、ちょっとやそっとじゃ泣かないし喜ばないよ?』
「いやもうビックリしすぎて、お前号泣しちゃうかもしれないなぁ〜」
『は? 号泣?』
「まあとにかくさ~──」
一通り話し終わった後、男の人は電話を切った。
「よーーしっ、とびおちゃん着いて来て! 及川に会わせてあげる♪」
楽しそうにスキップしながら手招きする彼を、慌てて追い掛ける。
どうして及川さん……俺の電話には出てくれないのに……
スゲー会いたかったのに
なんだよこの気持ち……
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