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第329話

及川side やっぱりこうなるだろなと、思ってたよ。 皆好き勝手に、陰口を叩きまくっている。 『及川くんに怒鳴られた子がまたいたんだって!』 『えーーまたぁー!? 優しそうに見えて、実はヤバい男だったんだね~!』 『ショックぅ~私好きだったのにー!』 『掴み掛かられそうになった人もいるんだってぇー!!』 『ヒャーー怖ーーいっっ!! あんなイケメンなのに、なんか勿体なーい! もっとニコニコしてれば良いのにねぇ~』 『しかも及川くんってホモらしいよ!』 『えっ!? マジでっ!! ホモの人って本当にいるんだぁー 初めて見たーー!』 『ホモで、女に興味ないから、怒鳴ったり殴ったり出来るんだよー! 普通女だからって、男は皆優しくしてくれるじゃん? でも、及川くんはホモだから、男に優しく女には酷いんだよー』 女の子達にこうやって陰口を叩かれることは、重々承知していた。 でも、男も言うかなぁ~? って思ってたら、やっぱり言う奴はいるんだよね~ 『及川がホモって噂聞いたんだけど、それってつまり俺も恋愛対象に入ってるってことかな?』 『じゃあ、俺も? ヤッベーーッ! 俺はやっぱ女が良いわ~~』 『及川に近付かないようにした方が良いかもな……体狙われるかもよ?』 男女関係なく、飛雄以外の人を好きになったことはないって、あの女の子にハッキリと伝えたのに…… どうしてそんな大切なことは全部無視して、酷い噂しか流さないんだろう? そんな性格悪い女の子を、選ぶ男の顔を見てみたいよ! でも正直、これで良かったのかもしれない。 女の子達からのアプローチには、正直言ってうんざりしてたし。 飛雄は側にいないけど、でもやっぱり飛雄を不安にさせるようなことはもう、例え見えて無くてもしたくないから。 俺がすんごいモテることによって、飛雄を沢山不安にさせて、傷付けてしまったから。 飛雄には、ずっと笑っててほしい…… だから、逆に嫌われてしまった方が助かる。 幸い、バレー部の皆とは、少し気まずいけど、バレーの実力は認めて貰っているから。 バレーするのに、なんの支障も無い。 『俺に惚れんなよぉ~』 とか言って笑い飛ばして、今まで通り接してくれる奴もいるから。 そー言うサッパリした奴らとは、ずっと仲良くしていきたい。 別に誰かとつるんでないと、寂しくて震える~って女々しい性格でもないし、講義に出て単位さえ取れれば、後はどうでも良い。 誰とも話さず静かに座ってたら、講義が始まり、終わるだけだ。 そんなこと考えている俺の前、後ろや隣から、チラチラと俺の方を見て、コソコソとまたあの陰口が聞こえてくる。 あーあ……早く講義始まってくんないかなぁ~ なんてぼやきながら、スマホを取り出し飛雄の写真を見詰める。 こんな風に悪い噂が広まって、一人でいる時間が増えたから、飛雄の写真をゆっくり見られる時間も増えた。 もう毎日のように、大学で自由な時間がある時は飛雄の写真を見詰め、家では飛雄と電話をしている。 飛雄のことを想ってない時間なんて無いんじゃないかってほど、ずっとずっと飛雄のこと考えてる。 今日も俺のトビオちゃん可愛いなぁ~♡ そろそろ新しい写真が欲しいから、飛雄に送ってってメールでお願いしよっとっ! なんて考えてたら、口角が無意識に上がってしまう。 『何笑ってんのー? つーか何見てんの?』 陰口が聞こえていた反対側の隣から、のんきな声が聞こえてきた。 恐る恐る隣を見ると、ニッコニコなとびっきりの笑顔を浮かべた男がいつの間にか俺の隣に座っていて、俺が振り向いた途端、ピッタリとくっ付いてきた。 えっ!? ちょっと何この人? なんでそんなにくっ付くのさ? 『ねーねー毎日ニヤニヤしちゃって、何見てんの? 俺にも見ーせてっ♪』 この人に、毎日飛雄の写真見てるとこ、ずっと見られてたのか…… まあ、あの女の子にも飛雄の写真見せたし、今更見せないという選択肢は無い。 てゆーか、飛雄のこと自慢しちゃおっと♪ 『そんな見たい?』 『うんっ!! 見たい見た~いっ!』 『んじゃあ、カワイー写真見せてあげよっか!』 『カワイー写真!? うん、見たい! 見せて見せてっ!!』 『フフフフ~ハイッ、カワイー写真!』 『お? うっわっ!! 本当だ! すんごいカワイーじゃんっ!』 『え?』 まさか、同意されるとは思ってもいなかった。 飛雄を見せて、カワイーと言ってくれた人は初めてかもしれない。 それがものすんごく嬉しかった。 『でっ、でしょー! すんごいカワイーでしょっ!』 『うんうんっ、可愛すぎてビックリしたぁー! めちゃくちゃカワイーじゃんっ! この人誰なの??』 『……俺の、恋人だよ……』 また、男が恋人? 気持ち悪い…… とか、言われんのかな? 『えっ恋人!? なんだ……フリーじゃないのか……』 『え?』 なんでそんなに残念そうなんだ? てゆーかこの人……男が男を恋人って言ってるのに、全然驚かないんだな…… その事に、逆にこっちが驚いた。 残念そうにするってことは、この人も同性が好きってことなのかな。 『すんごい俺の好みドストライクなのにぃ~~……付き合ってんだ?』 『……うん』 『別れる予定は?』 『あるわけないでしょ!!』 『うわ~~すごいデッカイ声~! 冗談なのにぃ~』 周りの奴らがますますジロジロとこちらを睨みつけてきて、俺は苦笑した。 『名前なんてーの?』 『聞いてどうすんの?』 『いーじゃん教えてくれたってっ!』 『奪うつもり?』 『まっさかぁ~~さっき冗談だって言ったじゃーん。 それに、君からもう好き好きだぁーーい好きっ! ってゆーオーラがビシビシと伝わってくるから、奪うなんて無理だって分かってるよー』 『そうだよ。君の言う通り、俺はこいつのこと本当に大好きだよ。 だから、誰にも絶対に渡さない!』 俺は本気、真剣だよ。 そんな気持ちを込めて相手を真っ直ぐ見据えると、彼はニンマリと笑った。 『見てただけで気持ちはよぉ~く分かってたよ。 でも、その自慢の恋人の名前ぐらい教えてくれたって良いじゃん?』 『………………トビオちゃん……』 『とびおちゃんかぁ~♡変わった名前だね!』 『まぁ、そーかも?』 『で、君の名前は?』 『俺にもトビオちゃんがいるから、無理だよ』 『誰も君を狙ったりしないよ~~自意識過剰~ 君なんて全っ然好みじゃないし~』 好みじゃないとか初めて言われて、ちょっとカチンときたけど、でもこー言う奴とは仲良くなれそうな気がした。 『先に名乗りなよ』 『え~~? 素直に教えてくれれば良いのに~! 自意識過剰で性格悪ーいっ! まぁ、先に名乗ってあげてもいいけど~』 『……一言二言多い奴だな…… さっさと名乗りなよ』 『もぉ~~本当に性格悪いなぁ~ 俺はね~たつきって言うんだ~! 皆からはたっちゅんって呼ばれてるよ~ たつきさんでもたっちゃんでも、もちろんたっちゅんでも良いし、好きに呼んでね~』 『……あのさ、たつきって名字?』 『んーん、名前』 『名字はなんてーの?』 『たっちゅんって呼んでいーよ!』 『いや、名字は?』 『ワガママだなぁ~じゃあ、たっちゃんでも良いけどー?』 さっさと名字答えろよ…… もう、飛雄以外の人を、名前で呼びたくないって思ってるんだよね…… だから、前までは女の子達も名前呼びしてたけど、もう絶対に呼ばない。 特別な人だけ、名前で呼びたい。 『絶対に呼びませーん! で? 名字は?』 『ほっ、本っ当に性格悪いなぁーー! いーじゃんたっちゅんで!!』 『い、や、だ!!』 ギャーギャーと騒いでいると、斜め前の方に座っていた女の子が、慌てながら振り返ってきた。 『あ、あの、この人三野村って言うの!』

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