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第332話

及川side あれからまた、女の子達に告白されたり黄色い声をあげられ、囲まれる日々が始まった…… その度に自分には恋人がいると伝えたり、トビオちゃんの写真を見せたりしているのに、もう誰も信じてくれない。 『その人、友達かなんかでしょ? 木園さんと付き合ってるけど皆に秘密にしときたいから、男が好きとか嘘ついて友達の写真見せて、皆を騙してるんでしょ?』 『いやだから、きーちゃんは友達だって!! どーしたら皆信じてくれんの?』 『きーちゃん呼びうっざっっ!! それラブラブアピール? 流石に痛いよ及川くん……』 『ねぇ、木園さんとはいつ別れるのぉ? あんな子より私の方が、及川くんを満足させられるよぉ?』 くねくねしながら吐息混じりの甘えたような声を出され、腕をスルリと撫でられた。 キッッッッモォォォォ!!!! 気持ち悪すぎて、めっちゃくちゃ鳥肌が立った…… 何を言ってももう皆否定しかしないから、きーちゃんの言う通りこんな人達無視しとこうって思っているのに…… 気付いたらいつもこうやって囲まれてしまう。 『あーーーーもうっ!! どいつもこいつもホントウザいっ!』 『モテるってのも大変なんだね~~』 皆が面倒臭過ぎて、もう我慢の限界だった。 イライラムカムカが治まらず、せっかくセットした髪をグッチャグチャに掻き乱した。 そんな俺にみのっちは、のんきに笑いながら乱れた頭をポンポンと叩いてくる。 恨めしい気持ちを込めて、思いっ切り睨んでやったけど、みのっちはどこ吹く風。 また笑いながら、スマホを弄り出した。 『ところで及川~爽香ちゃん見なかったぁ? さっきからLINE送ってるんだけど、全然返事ないんだよね~ ヤレヤレ~寝坊でもしたのかなぁ?』 『みのっちじゃあるまいし、きーちゃんが寝坊するわけないじゃん!』 呆れたように眉を下げて笑いながら首を振るみのっちに、チョップをかましてやる。 いてて~と言いながらもヘラヘラと頭を擦るみのっちにため息を吐いていると、彼はまたスマホを弄りながら首を傾げている。 『じゃあなんで連絡ないのかなぁ~こんなこと今までなかったのにぃ……』 そう言った彼の表情はずっと笑っているのに、何処となしか眉間にしわが寄っているように見えて、おちゃらけながらも本当はきーちゃんのことを心配していることに気付いた。 それと同時に、不安もよぎる…… 俺と女の子達の問題に、きーちゃんを巻き込んでしまった。 彼女は優しいから俺には心配させないように大丈夫、どうってことないよと言うけれど、絶対に何もないわけがない!! 俺には言えないけど、もしかしたらみのっちになら何か話しているかもしれない。 『……あのさ、みのっち……きーちゃんさぁ……最近何か困ってることとか、何かあったとか、みのっちに話したりしてない?』 『どーして? 爽香ちゃんがそんなこと俺に話すわけないじゃ~ん! ちゃんとしたアドバイスとか、俺には出来ないしぃ~』 ヘラりと笑ったみのっちの目が一瞬泳いだことを、俺は見逃さなかった。 『やっぱりみのっちには、相談してたんだね……そりゃそーだよね』 『いや、だから……ないって……』 『……俺の周りにいる奴らは、皆嘘をつくのが下手くそな奴らばっかだね……』 飛雄や岩ちゃんも嘘をつくのが下手だったし、そんな奴らばっかだったから今までずっと一緒につるんでいられた。 救われてきた…… でも、俺はいつも貰ってばっかだ 『ゴメンね……2人に迷惑かけて……』 女の子達は俺に友達を作るな、お前なんかずっと独りぼっちでいろ。友達なんか作るから、巻き込んで苦しめてしまうでしょ? ……って、皆そう言っているの? 楽しい楽しい大学生活を、送ることを許してはもらえないの? 『みのっち、きーちゃん……俺と友達になったばっかしにこんなことに…… ほんとゴメ────うぐっっ!?』 頭を下げて謝ろうとした俺の鼻を、突然みのっちが力強くつまんで、乱暴に引っ張ってきた。 『イデデデデデデッッ!! なっ、何すんだよっ!?』 あまりの痛さに叫びながらみのっちの手を払い除けて思いっ切り怒鳴ったが、彼は今まで見たこともないような表情でこちらを睨み上げてきた。 『みっ、みのっち……?』 『やっぱりそうゆーと思ったよ! それに俺、嘘ついてないし。爽香ちゃんはいつも俺の前では笑顔で、及川の話をする時は笑い話ばっかだよ……』 『……えっ……?』 『及川にはものすんごく悪いとは思っていたけどさ、俺にとって爽香ちゃんは大切な存在だから、皆が爽香ちゃんの悪口を言うのが堪えられなかった。 だから、俺から聞いたんだよ、悩み事とかあるんだったら俺に話してほしいって。 爽香ちゃんの力になりたいって…… だけど、爽香ちゃんは悩みなんてないって、逆に及川の力になりたいって言ってた。 及川は本当に良い奴だから、皆好き勝手に悪口言ってるけど、及川を信じてるから、負けないでほしいって! 傍にいて、支えてやりたいんだって言ってた……』 『きーちゃん……』 きーちゃんの気持ちが、ものすんごく嬉しかった。彼女はこの騒ぎには無関係なのに、巻き込まれただけなのに、それでも俺のことを気遣ってくれている。 何でこんなに優しいんだよ…… 鼻が痛くなって俯いていると、みのっちがボソリと呟くように言葉を発した。 『これは周りがただ悪口言ってるだけで、及川にはとびおちゃんがいるけどさ…… でも爽香ちゃんは、本気なんだろうな……』 『ん?』 みのっちの言葉に首を傾げていると彼は真剣な顔で1つ頷いてから、またいつもの変わらない笑顔を俺に向けてきた。 『でもさでもさっ! 俺だって及川のこと良い奴だって思ってるし、信じてるし、面白くて最高な奴と友達になれて嬉しいなって思ってるよ! 及川ととびおちゃんのこと応援してるし、力になってやりたいって本気で思ってる!! 爽香ちゃんとおんなじ気持ちなんだからねっ!!』 エッヘンと言わんばかりにふんぞり返るみのっちに、笑みが溢れる。 こんなことに巻き込まれてハッキリ言って迷惑なはずなのに、2人はどうしてこんなに良い奴らなんだ…… また鼻が痛くなるじゃん!! 『だから……迷惑だとか、友達になったばっかしにとか、そんなつまらないことゆーなよ! 爽香ちゃんが聞いたら、絶対怒るよっ!!』 『……うん、そーだね……ありがと、もう絶対に言わないよっ!!』 みのっちが晴れやかな笑顔をいつも見せてくれるから、俺もいつもつられて笑顔になれる。 2人で笑い合ったところで、さっきみのっちが言ってた言葉に、引っ掛かるものを感じた…… 『あのさ……さっきのきーちゃんは本気って、あれどーゆー意味? 俺の思い違いだったらいーんだけど、みのっちなんか誤解してない?』 恐る恐る訊ねると、みのっちは何故か身体をクネクネモジモジさせだし、なんか気持ち悪い。 『いや、だからね……及川の傍にいて支えてやりたいって……どー考えてもそーゆー意味じゃない? まあね、及川はイケメンだし、女子が騒ぐ気持ちも分かるしさ。 良い奴だし、爽香ちゃんが及川を好きになっても不思議じゃないよ…… でも、及川にはとびおちゃんがいるから、 爽香ちゃんが傷付くところ見たくないよ俺……』 みのっちの声が段々と小さくなって、モジモジしながら俯いていく。 そんな彼に、俺は1つため息を吐いた。 『やっぱり誤解してるよみのっち…… きーちゃんはね、他に好きな人がいるんだよ』 『えっ!? うっそぉーーっ! でも、傍で支えてやりたいって、言ってたよ!』 『それはきーちゃんの言い方がおかしかったね……友達としてって意味だと思うよ』 『え? え? じゃあ、その、好きな人って、誰なのさ!?』 みのっちは赤面になって、俺の腕を鷲掴みにし、ズイッと詰め寄ってきた。 鼻息が荒くて、気持ち悪いよみのっち…… これはもしかしなくても、脈ありだよきーちゃん。 良かったねっ!! にんまりと笑っていると、突然ギャハハハハと馬鹿にしたような、下品な笑い声が聞こえてきた。 その笑い声の方へ2人揃って目線を向けると、3人の女の子達が、俺達を見て笑っていた。 『な、何?』 『なんか及川くん、浮気みたいなことしてるけど、大変だよぉ~』 『浮気って……今度は俺とみのっちで噂話するつもり? 何度も言ってるけど、俺にはトビオちゃんっていう恋人が────』 『キャハハッ! 及川くんの彼女、さっき中庭で大変なことになってたよぉ?』 『カッワイソ~♪』 俺の言葉をわざと遮り、大袈裟に笑いながら言われた言葉に、自然と眉間にしわが寄る。 『何それ、どーゆーこと?』 そう口を開くよりも前に、突然みのっちが走り出した。 『えっ!? あっ、みのっちっ!!』 俺は慌ててその後を追いかけた。 後ろの方で、ゲラゲラとまた馬鹿にするような笑い声が響いている。 嫌な予感しかしない…… 俺達は中庭へと全力疾走していた。 後もう少しで中庭が見える。 そう思った次の瞬間、いつも聞き慣れた声と一緒に、怒号が俺達の耳に届いてきた。 『こんなことしたって、及川くんはあなた達に振り向いてはくれないよ?』 『ハァッ!? お前、マジでウザいっ!! 死ねよブスッッ!!!!』 『爽香ちゃんッッ!!』 みのっちが叫んだのと同時に、女の子達がきーちゃんを突き飛ばしていた。

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