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第334話
及川side
ついに、飲み会の日がやってきてしまった……
このまま参加して大丈夫だろうか?
こんな飲み会のせいで、飛雄と電話出来ないとか、本当に腹が立つ。
どうにかして逃げようとしたけど、先輩が俺の頭を鷲掴み、居酒屋へと強制的に連行された。
先輩の顔に、逃がさね~ぞ及川って書いてあるのが丸分かりだ。
貸し切りの個室に入った瞬間、先に座っていたテニスサークルの女の子達が数人勢い良く立ち上がった。
『及川くんやっと来たぁー!』
『もぉ~~おっそいよぉ~』
『及川くんこっちこっち!
私の隣に座りなよ♡』
『えーダメェー! 私のところに来てーー♡』
誰がお前らのことになんか行くかバーーカッ!!
無視して顔を背けて別のとこに行こうとしたら、男子バレー部の奴らに思いっきり睨まれていた。
『やっぱり女子達は皆、及川狙いかよ……』
『ちぇっ! イケメンはモッテモテでいーよなぁ~』
『でも、ここには女子が沢山いるんだ!
及川に興味ない女子、もしくは群がる女子達に圧倒されて近付けなかった内気な女子を狙うんだ!』
『自己主張の激しい女より、内気な女の方が可愛いし、少し優しくしただけで、直ぐにコロッと落ちそうじゃね?』
『お前……女のことなめすぎだろ?
でも、確かに勝ち気な女子より内気な女子の方が可愛いよな……』
男も女も、どっちもウザい!
早く帰りたぁーーーーいっ!!
俺は大きなため息を吐いてから、態と男子達が集まっている真ん中の空いている所に座ってやった。
男子達にすんごい嫌な顔されちゃったけど、これで女の子達は近付いて来られまい!
『ちょっとあんた達ゴッメンねぇ~』
『そこ、空けてよね!』
あぁ……甘い考えだった……
男子達を強引に掻き分けて、女の子達は俺の両隣や正面に無理矢理座ってきた。
ものすんごく迷惑そうな顔をしながら、別の場所へ移動していく男子達。
こいつら本当にヤバすぎだろ!?
ゴメンね男子の皆さん……
俺がまた大きなため息を吐いているけど、それにはお構いなしといった感じで、女の子達は俺の腕に胸を押し付けながら、ピッタリとくっついてきやがった。
前までの俺だったら、笑ってその女の子達の相手をしてあげてただろうけど、もうそんな俺はどこにもいないんだよ!!
そう思っても、どこへ移動してもコイツらはしつこく追い掛けて来るだろう。
もうこれは完全に、無視し続けるしかない。
ただ黙々と飲み食いして、時間が経つまで耐えているしか道はない。
『もぉ~~及川くんってば、私達が呼んでるのに、どうして遠くに座っちゃうのぉ~?
意地悪なんだからぁ~~!!』
『及川くん何飲む? お酒いっとくぅ~?』
『…………
すみませーん! ウーロン茶一つお願いします』
女の子達を無視し店員を呼んで、注文する。
『お酒飲めないのぉ? なんかそんな及川くんも可愛いね♡』
そう甘えた声を出しながら、俺の腕をスルリと撫でてくる。
気持ち悪い……一々触んなよ……
女の子達は俺と同い年の子もいるのに、殆どの子がお酒を飲んでいた。
未成年なのに……
大学生の集まりだし、未成年だけどやっぱり皆大人っぽいし、店員は気付いていない……
忙しいだろうから、全員の年齢確認なんてしてる暇ないよな。
俺もされてないし……
両隣から胸を押し付けられながら腕を引っ張られていては、飲食が出来ない。
イライラしながら利き手の方にくっついている女の子の腕を無理矢理払い除けながらウーロン茶を一口。
『あ~ん、及川くん冷た~いっ!』
『…………』
さっきまで自分のことばっかで、気にしていられなかったけど、そう言えばきーちゃんも参加しているのだろうか?
きっと俺みたいに、無理矢理参加させられているのかもしれない。
だからって声など掛けられないけれど、また俺のせいで酷い目に合っていないだろうか?
心配になってキョロキョロと辺りを見渡す。
そこで聞こえてきた会話に、眉間にしわが寄る。
『あっれ~~木園~、元カレがなんかキョロキョロしてるよぉ~』
『もしかして、あんたのこと探してるんじゃなぁ~い?』
『…………元カレじゃないし……及川くんとは最近話してもないよ。
逆に無視されてるし……』
『当ったり前じゃないっ!
あんたみたいな可愛くない女が、及川くんに相手にされるわけないじゃん!!』
『最初から遊ばれてたって、まだ気付いてなかったのぉ!?』
『及川くんは、ここにいる誰のことも相手にしないよ……
及川くんにはとびおちゃんって言う、恋人がいるんだから……』
『あんた……ちょっと及川くんに遊んでもらえたからって、彼女面して調子乗ってんじゃない?』
『今の話のどこをどう聞いたら、そんな解釈になるの?』
『いやお前、マジくそウッザ!!』
『調子乗ってんじゃねぇーーよ!
このくそブスがッッ!!』
『いったぁっ! ちょっ! イッ、やっ、やめてよっ!!』
きーちゃんが女の子達に連続で頭を叩かれている。
どうしようっ! 助けに行かないと!!
でも、ここで俺が助けに行ったら、またきーちゃんがもっと酷いイジメを受けるかもしれない……
でも、だからって、ただ見ているだけなんて、そんなのイジメている奴らと同じなんじゃないのか?
『ヤッベーー……女子達のイジメえっぐぅーー……』
『飲み会で、皆が見てる目の前で、あれは流石にヒデーだろ……』
『あれって、及川の元カノって噂の子?』
『イケメンと付き合うと、あんな仕打ちされんだな……』
『イケメンって羨ましいけど、あーゆーいざこざに巻き込まれるんだな。
俺、イケメンじゃなくて良かった……』
男子達が俺ときーちゃんを交互に見ながら、ヒソヒソと話している。
そんなことしてないで、早くきーちゃんを助けに行ってやれよ!!
なんて……俺が言える立場ではない……
どーすれば良いのか焦っていると、俺の腕を掴んでいる女の子達が笑い出す。
『キャハハッ!! 木園かっわいそぉ~~!』
『及川くん元カノが大変だよぉ~?
助け行く??』
『…………』
何を言えば正解なのか分からない。
ここで下手に発言すると、この事態がもっとエスカレートしてしまうかもしれない。
『あれぇ? 助けに行かないんだ?』
『もう、捨てた女がどうなろうと、及川くんにはどうでも良いことだもんねぇ~
悪い男♡』
『爽香ちゃ~ん! 元カレ助けに来てくれないみたいだよーー?
可哀想だね~』
『この悲しい気持ちを皆に伝えるために、失恋ソングでも歌っちゃう?』
『キャハハッ!! 歌っちゃえ歌っちゃえ~~!!』
『ほら爽香っ! 歌えよ!!』
『アッ!!』
きーちゃんの身体が乱暴に押されて、その場に倒れ込んだ。
どうすれば!! どうすればいい!?
『及川く~ん、木園を助けたかったら、私と付き合う?』
『はぁ?』
『木園がブッサイクで、及川くんと釣り合わないのに付き合えたから、皆怒ってるんだよ。
だ~か~ら~私みたいな超絶美人と付き合っちゃえば皆文句言わないし、木園もイジメられなくなるかもねぇ~』
『はぁ? 何言ってんの君……?』
『あんたその顔で何超絶美人とか言っちゃってんの??
私の方があんたの何百倍も美人だし!!
及川くんは私と付き合ったら、誰も文句言わないよ。
ね♡付き合お及川くん♡』
そう言って手を掴まれ、無理矢理胸を触らされる形にさせられた。
これは逆セクハラだ!!
その感触が気持ち悪くて、鳥肌がブワッと立った。
『やめろよっ!! 気持ち悪いっ!!』
俺は怒鳴って、乱暴にそいつを払い除けた。
『キャアッ!! 痛ーーーーいっっ!!
突然胸を触っておいて、何すんのよ!!
この顔だけの最低男!!』
『はぁっ!? 何言ってんだお前!?』
『及川がセクハラ? ヤッベーー!』
『イケメンだからって、何しても良いとか思ってんのか?』
『及川くんサイテー!!』
なんだよこれ……なんでこうなるんだ?
皆に責められながら立ち竦んでいると、突然腕を引っ張られた。
『及川くんっ!! こんなとこ早く出よう!!』
そうきーちゃんの強声が響き、腕を引かれ、走り出した。
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