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第335話
及川side
きーちゃんに引っ張られながら、居酒屋から飛び出す。
正直助かった……
でも、皆の目の前でこんなことしたら、またきーちゃんが標的にされてしまうじゃないか!!
もしかしたら、女の子達が後を追い掛けてくるかもしれない。
きーちゃんと一緒にいるわけにはいかない。
『やっ、やめてよ! こんなのメーワクだよ!!』
きーちゃんの手をあの女の子にやったみたいに払い除けたくなくて、俺は引っ張られながらも踏ん張ってその場に留まろうとした。
だって……本当は嬉しかったから。
俺のせいであんな酷い目にあったのに、それでもこうやって助けようとしてくれる。
普通だったら見捨てて、絶対に近寄らないようにするはずだろ?
なのにどうしてこんなに優しく出来るの?
君が優しすぎるから、だからもう
傷付いてほしくない
『もう、俺に近づかないで!
本当に迷惑だからっ!!』
苦しい……こんなこと言いたくないよ
声を張り上げて、彼女を思いっきり睨み付ける。
きーちゃんは一瞬ビクッと身体を震わせたが、直ぐ様こちらを睨み返してきた。
『嫌だ!!』
『なっ!? ……なんで?
近付かなければ良いだけなのに、何が嫌なの?』
『私は及川くんと一緒にいたいから!』
『何言って!? 変なこと言わないでよ!!
大学の奴らが聞いてたらどーすんの?』
『聞かれてもいーもん! 他の人達に、何をどう思われてもどうでもいいじゃん!』
『あんな酷い目にあったのに?
もうあんな目にはあいたくないでしょ?
だから、俺に近付かない方が良いよ。
みのっちにも、もう俺には近付くなって言っといてよ』
本当は、もちろんずっと友達でいたいよ。
だって……3人でいた、あの頃がすごく楽しかったから……
『嫌だ!!』
『なっ! さっきから嫌だ嫌だって、何なの!?』
『及川くんっ!!』
強声で呼ばれたかと思った次の瞬間、突然勢い良くきーちゃんが抱きついてきた。
『ちょっ! きーちゃん!?
何してんの!?
あいつらに見られたらどーすんの!?
離れてよ!!』
『……私達の気持ちは無視なの?』
『え?』
『及川くんが勝手に責任を感じて、私達から距離を置いて、話も聞いてくれなくて……
せっかく仲良くなれたのに、こんなことでもう友達じゃなくなるなんて……
無視して逃げて、そっちの方がよっぽど酷いことしてるって分からないの?』
きーちゃんは静かな声でそう言って、俺に強く訴えかけるように真剣な眼差しを向けてくる。
その瞳に映った自分の表情は、苦しそうに歪んでいた。
『だったら……俺の気持ちも考えてよ……
友達が俺のせいで酷いことされて、傷付いてるんだよ?
そんなの、見たくないよ。
辛すぎる……
……俺のせいでまた誰かが傷付くのは、もう嫌なんだ……』
今まで本当に沢山の人達を傷付けてきた……
元カノ達や、梓ちゃん
そして
飛雄…………
飛雄のことは、今まで沢山傷付けちゃった分、これからは俺の持つ全てであいつを幸せにするって誓ったからさ、だから大丈夫。
だけど、
俺に関わる全ての人達を傷付けないで幸せにするのは、無理だってもう分かってるから
それでも、きーちゃんとみのっち
は本当に良い奴らだからさ、
だから……誰よりも笑ってて欲しいんだよ……
俺のせいで悲しむなんて、そんなの絶対に嫌なんだ!!
掌に爪痕が残ってしまうほど強く拳を握った俺に、きーちゃんは抱く腕に力を込めて、静かに唇を開いた。
『……及川くんは優しいね……
誰かのために、一緒に傷付いてくれたり、その本人以上に喜んでくれる、心の温かい人……
そんな及川くんだからこそ、私も三野村くんも、あなたと一緒にいたいって思えるんだよ……
それに、絶対に及川くんは、
私達が同じようになって自分が危険な目に遭ったとしても、傍にいてくれるでしょ?
及川くんはそういう人だって、私知ってるから!』
満面の笑みを見せてくれるきーちゃんに胸が苦しくて、目頭が熱くなっていく。
そうだね……
俺は2人のことを大好きになっちゃったから、2人が悲しんだり困ったりしてたら、傍にいてあげたい。
自分が傷付くから離れようとか、そんなこと考えもしないと思う。
でも……
『それでもやっぱり俺は、2人が傷付くとこなんて、見たくないんだよ!!
だって大好きだから!!』
声を張り上げて、気持ちを打つけるようにきーちゃんを強く抱きしめ返す。
『あ~~!』
『見つけらぁーー!』
そこで、もう聞きたくもなかったあの声達が耳に届いてきて、俺は思いっきり顔を顰めた。
やはり予想していた最悪な事態に、直面してしまうようだ。
『あんは達、別れらんじゃにゃかったのぉ~?』
『らに抱きらっへんのぉ? 離れらさいにょぉ~~』
コイツら未成年なのに、完っ全に酔っ払ってやがる……
ろれつ回ってないじゃん。
追い掛けてくるまでに時間が空いてたってことは、あの後飲んで、酔った勢いで追い掛けようって話になったのかもな……
一度諦めたなら、そのまま諦めてくれたら良かったのに。
酔ってなくても面倒臭い奴らなのに、酔っ払ったら更に面倒なことになりそうだ。
『うしょちゅきなやつららねぇ~
こそこしょとらきあったりしてぇ~やっふぁりわらしらちをらましてたんれしょぉ~?』
『ましうさい~!』
『……何言ってんのか全然分かんないし……
もうこんな酔っ払い達ほっといて行こうよ及川くん。
どうせ酔ってんだから、私達が何言っても通じないよ。
まあ、元からだけど……』
ため息を吐きながら俺の腕を引っ張るきーちゃんに、頷いて立ち去ろうとしたけど、1人の女の子が奇声を上げながら千鳥足でフラフラとこちらに襲いかかってきた。
『ギィーーーーッッ!!
ふじゃげんじゃないばよーーーー!!!!』
『まじやがれこんにょろーーー!!』
『あ″ぁあああぁぁあぁあぁぁぁぁーーーー!!』
続いて別の女の子達も、奇声を上げながらこちらへと襲いかかってくる。
もうこれは女の子ではなく、化け物みたいに恐ろしい奴らだった。
『なっ!? なんだコイツら!?
マジでヤバいよ!!』
『及川くんっ! 早く逃げよーよ!!』
顔面蒼白になって、早くこの場から逃げようとしたけど、きーちゃんの腕が掴まれてしまった。
『まじなざいよぉ! このクソ女ぁ!!』
『キャッ!!』
『きーちゃんッッ!!』
このままじゃあ、きーちゃんが食べられてしまうのではないかと思うほどの迫力だった。
後から来た子達も、きーちゃんに掴み掛かっていく。
髪や服を引っ張られるきーちゃんを、何とか助けだそうと必死だった。
『やめっ、やめろよお前らッ!!』
『キャッ!! ちょっとっ、イヤッ! やめてよ!!』
こんなのホラーだろ!??
なんで、こんなことになってしまったんだ?
俺が、きーちゃんが、何か悪いことでもしたと言うのか?
ふざけんじゃねーよ!!
『あんた達っ! 本当にやめなさいよ!!
こんなことしたら、余計に及川くんに嫌われるって分かんないの!?
分かんないんだったら、救いようのない相当の大バカ者よ!!』
きーちゃんの強声がその場に響く
その言葉に、更に女の子達の表情が険しく歪められた。
『ダメだよきーちゃん!! それ以上刺激したらヤバいよ!!』
この騒ぎを聞きつけて、人が少しずつ集まってきた。
やばいぞ喧嘩か?
警察に連絡した方がいいか?
などと、ヒソヒソと声が聞こえてくる。
このまま騒ぎが大きくなると本当にヤバい。
『きーちゃんッ!! 早く逃げよう!!』
『及川くんっ!!』
女の子達を強引に引き剥がし、何とかきーちゃんの手を掴んで、逃げようとした
だが
その時
『逃げんじゃないらよ!』
『このクソあまぁーーーーっっ!!!!』
けたたましい奇声を上げて、女の子達が迫り狂い、きーちゃんを思いっきり突き飛ばした
しっかりと握っていたのに
そのはずだったのに
激しい衝撃に負け
手が離れてしまった
『あっ!!』
『キャーーーー!!』
きーちゃんの身体が、車道へと投げ出されてしまう
迫ってくるトラック
このままじゃ、きーちゃんが轢かれてしまう
咄嗟に動いた身体
駆け寄り
きーちゃんの腕を渾身の力を込めて引っ張り
歩道の方へと突き飛ばした
キキィイイイィィィィィ──────
トラックのブレーキ音が
頭の中で
強く 激しく
響き渡った
きーちゃん……大丈夫?
怪我してない?
俺
助けられたかな?
確認したくても、目を開けることが出来ない
あれ?
なんかおかしいかも?
俺、どうなったんだ?
自分のことなのに、分かんないや
泣き声と
何か、サイレン?
みたいな音が聞こえてくる……
なんか
眠くなってきたかも
ウトウトしながら
浮かんできたのは
飛雄の顔
それが何故か泣き顔で
俺が
また、酷いことしちゃったの俺……?
飛雄……泣かないで
そうだ、朝になったら
電話
しないと…………
そしたら
飛雄……
笑ってくれるかな──────
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