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第336話

及川side 真っ暗で、何も見えない そんな場所だった ここはどこ? 自分は何故こんな真っ暗なとこにいるのだろうか? 何も思い出せない…… 今は何時? こんなに真っ暗なら、真夜中なのかな? ここには窓はないのか、月明かりもさしてこない。 どこかに電気のスイッチはないだろうか? 探そうと身体を動かそうとしたが、何故か手は動かせるのに、身を起こす事が出来なかった。 あれ? どうして動かせないんだ? 幾ら動こうとしても手をバタバタすることしか出来ず、どうして動けなくなってしまったのか全然分からなくて…… そのことが物凄く恐怖で身体が震えた。 『だっ、誰かいないのっ!? 誰か助けてっっ!!』 目を強く瞑り、必死に有りっ丈の声を出して叫んだ。 何度も何度も繰り返し、助けを求める。 枯れてしまうんじゃないかってほどの声を出して、叫ぶことしか今の自分には出来なかった。 それが途轍もなく情けなくて、怖い…… けど、それでもなんとかしなくちゃ! 『ホントに誰もいないの!!? 誰かぁー! 助けて、助けてー!!』 『~~~~!』 必死に何度も叫んでいると、何処からともなく声が聞こえてきた。 『えっ!? 誰かいるの!?』 『~~~~~、~~~~!!』 なんて言っているのか、聞き取れない。 それでも…… 良かった……人がいてくれた…… 自然と涙が零れ落ちた 本当は、動けないと知った時から、泣きたくて仕方なかった。 それでも我慢してたから、人がいるって分かって安心して、涙が溢れないわけないじゃないか! なんて言っているか、それが誰なのかも分からないけど 俺は、それが飛雄だったら良いなって思った…… 願った 何故か動かせない、この身体のことを飛雄には知られたくないけど それでも、どうしようもなく飛雄であってほしい。 飛雄に会いたい!! 『~~~~! ~~~~!!』 この声も  “及川さん” って、飛雄がそう呼んでくれてるような気がした。 いや、そうに違いない! 『飛雄っ!! 及川さんはここだよ!! 飛雄ーっ! 飛雄っ飛雄ーーっ!!』 愛しい名前を、喉が潰れて壊れてしまうんじゃないかってほどの声で叫んだ。 その次の瞬間 突然何かが俺の身体を激しく、乱暴に揺さぶってきた! 何、これ!? くっ、苦しい……っ いや、だっ!! 『やっ、やめっ! とっ、飛雄ーーーーっっ!!!!』 これで完全に、喉が壊れてしまったかもしれない それぐらいの声で愛しい名前を叫んだ途端…… 真っ暗だった辺り一面が一気に真っ白に染まった 『っっ!?』 眩しい!! 『及川っっ!!』 『及川くんっっ!!』 あまりの眩しさに目を開けることが出来なくて、強く強く閉ざしていた俺の脳に 聞き慣れた2つの強声が響き渡った この声は…… 恐る恐る重くなった瞼をこじ開けるように開くと そこには 大粒の涙をボロボロと溢した、 みのっちと、きーちゃんの姿が視界に飛び込んできた。 『よ……よっ、良か、た…… やっと、目ぇ、覚まして、くれた…… ほん、と、に……良かった…… お、いか、わ……及、川、ほんと……良かった!!』 泣きながら片言の声で、俺の両肩を強く掴んで震えるみのっち それがものすんごく痛くて なんでそんなに鼻水垂らしながら泣いてんの? とか、 痛いから離してよバカ とか、 そんないつもの冗談なんか言えるような雰囲気じゃない 『うわあああぁぁぁぁああぁあああぁぁぁぁあぁぁぁぁんっっっっ!!!!』 みのっちの足下に視線を向けると、きーちゃんが蹲って、 大声で、叫ぶように泣いていた…… 『みのっち……きーちゃん……』 どうして、そんなに泣いてるの? そう聞きたいのに、聞けない…… こんな2人に、なんて声掛ければいいの……? きっと……こんなに2人を泣かせてるのは 俺、自身なんだね 『うわああぁぁぁあああぁあぁぁあぁぁぁぁぁんっ!  及川ぐんっ!! ううっ、うあぁぁ、本当に、うぅ、ごめっ……ごめんなざいっっ!!!!』 戸惑い目を泳がせていると 大泣きしながらそう叫んで、フラフラと立ち上がったきーちゃんが、 俺を抱き締めてきた。 何故か動きが変で、 全体重を俺にぶつけるように飛び込んで、抱き締めてくるから 俺とみのっちの身体が大きく傾く そこで、 カラン、ガランと、何かが床に落ちるような音が響いた。 それに目線を向けると、そこには 松葉杖が 転がっていた…… テレビでしか見たことないけど、あれって松葉杖って言うんだよね? どうしてそれがこんな所にあるの? 首を傾げながらきーちゃんに目線を戻すと、彼女の右腕に布が巻かれていることに気が付いた。 これって三角巾ってやつ? どうしてきーちゃんがそんな物をつけているの? 三角巾って、手を骨折したらつける物だよね? それに松葉杖も、足を怪我したら使う道具だよね? それって、つまり…… 『きっ、きーちゃん怪我してるの? 大丈夫なの?』 松葉杖を使わなくちゃいけないなんて、それって大怪我なんじゃないだろうか? 直ぐ治るのかな? 不安になって首を傾げながらそう問うと、何故だかきーちゃんが涙を流しながら眉を下げ眉間にしわを寄せて、捲し立てるように言葉を紡いできた。 『私の怪我なんて大したことないよ!! 全部自業自得なんだから! それより及川くんの方が……私の、せいで……こんな、ことに……うぐっ……うっうっ…… ごめ、なさ……い…』 言葉が段々と弱々しく消え入りそうな声になって、泣き崩れていくきーちゃんをみのっちが抱きとめる。 『え? 俺の方がって、どー言う意味?』 訳が分からなくて、2人を見つめることしか出来ない。 みのっちがきーちゃんの身体を支えながら、近くに置かれていたパイプ椅子に座らせる。 それを目で追っていると、ここが大学でも、自分の家でもないことに気が付く。 カーテンで仕切られた部屋で、白い布団が目に入って。 自分がベッドの上にいることに、やっと気が付いた。 『ここどこ? なんか病院ぽいけど?』 辺りを見渡してからみのっち達に目線を戻すと、きーちゃんは手で顔を覆って俯き、泣き声を漏らしながら身体を震わせている。 みのっちは瞳を潤ませて唇を噛んでいて、とても辛そうに顔を歪めている。 そして、ゆっくりと近付いてきて、大粒の涙を溢しながら、俺の手を強く握ってきた。 『……みのっち……? 手なんか握ってきて、キモいよ? どうして、そんなに2人とも泣いてるの?』 『ごめ……俺、上手く説明出来るか、分かんないけど…… それでも、ちゃんと話すから……』 言いにくそうに目を泳がせて、俺の手を強く握ったみのっちの複雑そうな表情に、彼の覚悟を強く感じて 本当に俺には言いにくいことを、それでも勇気を出して伝えようとしている優しい彼に、冗談なんてとてもじゃないがもう言えない。 俺も真剣に聞かなくてはいけないと、拳に力が入る。 『及川……2週間ぐらいずっと眠ったままだったんだよ…… もう目を一生覚ましてくれないんじゃないかって、ほんと怖くて……』 『俺、2週間も眠ったままだったの? どうして?』 『……部活の飲み会に参加したことは、覚えてる?』 『飲み会…………あっ! そー言えば!』 そう言われて、やっと思い出した。 あの時、女の子達にきーちゃんが襲われて、車道の方に突き飛ばされて、 助けようときーちゃんの腕を引っ張った所までは思い出した。 それからの記憶を全然思い出せない。 もしかして、きーちゃんのその大怪我は、あの時のもの? 『きーちゃん! もしかして、あの騒ぎで怪我しちゃったの!? 大丈夫? 俺、ちゃんと助けられなくてごめんね!!』 きーちゃんを俺の問題に巻き込んでしまい、更には怪我をさせてしまった。 女の子の体に傷が残ってしまったら、俺はこれからどうやって償えば良いの? おろおろしながらきーちゃんに頭を下げると、彼女は手で顔を隠して俯いたまま、絞り出すように唇を開いた。 『及川くんは、ちゃんと私を助けてくれたよ…… 及川くんがあそこで助けてくれなかったら、私はもしかしたら死んじゃってたかもしれない……本当にありがとう…… 私が女子達を挑発して、興奮させちゃったから、あんなことが起きてしまった…… 私がもう少し大人になっていれば、あんな騒ぎは起きなかったはずなのに…… あの時、及川くんの手を引っ張って行かなければ、女子達が外に出て騒ぐこともなかった! 及川くんに止められてたのに、私が女子達を煽るようなことを言っちゃったから…… 全部、全部私が悪いの!! どうやって、責任を取れば良いか…… 本当にごめんなさいっ!!』 『違うよ!! きーちゃんは悪くない! あれは全部俺の問題だったんだ! 巻き込んでしまったのは俺の方なのに、きーちゃんが謝る必要ない!』 『いや、あれは全部、騒ぎを起こした女達が悪いだろう!! 2人は全然悪くない!! そんなことより今は、誰が悪いとかそんな話をしてる場合じゃないんだ!』 『そんな場合じゃないって……?』 『及川……その、落ち着けないと思うけど、それでも落ち着いて聞いてほしい……』 みのっちが本当に言いにくそうに顔を歪ませている。 そんな重大なことを言わせようとしているのか俺は…… みのっちが俺の両肩をグッと強く掴んできた。 『……っ…! みっ、みのっち……』 『及川……今、お前……足、動かせるか……?』 『え?』 そう言われて、動かそうとしたけど、なんかそこに足があるような、そんな感覚が全然しなくて、上手く動かせなかった…… 『……あれ? ……動、かせない…… どうして……みのっち? きーちゃん……?』 途端に、物凄く恐怖を感じた 嫌な汗が、全身から吹き出る 『……あの時、及川が、爽香ちゃんを助けた時に、トラックに轢かれて……』 『え? ひかれ……た?』 『もう………… 歩くことも……出来ない、って……』 『…………』 な、に……それ…… 俯く2人 嘘を言ってるようには見えなかった 俺の足 もう動かせない? それって……つまり、 もう バレー出来ないってこと────

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