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第337話

及川side 『……え? 嘘でしょう? ねぇ、嘘だよね?』 2人が俺をからかって嘘をついているようには全然見えない、分かってるけど…… それでもその言葉をどうしても信じることが出来なかった。 受け入れられる訳がない 信じられない、そんなことが現実に、俺の身に起きたって言うの? 俺の人生まだまだこれからじゃん それなのに……そんな 俯いて何も言わない2人 震えた肩、漏れる声音で、泣いてるんだって分かった 『……本当……なん、だね……』 もう、これ以上何も言えなかった 言う気力もない 3人で沈黙のまま 病室にくぐもった声達だけが響いていた。 そこで、失礼しま~すと明るく高い声が、その場の重い空気を破ってくれた。 病室の扉が開かれ、ひょこっと女の人が顔を覗かせた。 ナース服を着ているから、看護師さんなんだと分かった。 『あっ、及川くん、目を覚ましたのね! 良かった…… 直ぐ先生を呼んできますね!』 そう言って慌ただしく出て行った看護師さんが、しばらくして医者を連れて戻ってきた。 医者は挨拶を手短に、俺に話があるからと、2人に席を外すようにと言った。 きーちゃんは扉の方に向かいながらも、何度も泣き腫らした瞳で俺に視線を送りながら病室を出て行った。 みのっちもやっぱり目が腫れていて、辛そうに眉を下げながらそれでも俺の肩をポンっと叩き、 『及川、また、来るからね……』 言葉を絞り出すように告げて、立ち去っていった。 みのっちの手、震えてたな…… 誰も悪くない、これは不運な事故なんだ…… 2人をあんなに泣かせてしまい、罪悪感を抱かせて本当に申し訳ないと思ってる。 それでも俺は、自分のことで頭ん中いっぱいで、気の利いた言葉とかを掛けてあげられる余裕なんて一ミリもなかった。 だからみのっちに声掛けられても、返す言葉が思い付かず、俯くことしか出来なかった。 そんな俺の気持ちに気付いているのだろう、先生はベッドの近くに椅子を持って来て寄り添うように座り、優しくとても穏やかな声を掛けてきた。 『及川くん、無理に顔は上げなくていいからね。君の1番楽な姿勢で話を聞いて欲しい』 『……はい…』 『ありがとう。いくつか質問しても良いかな?』 『……はい』 『こたえたくなかったら、こたえなくても大丈夫からね』 先生がいくつかの、簡単な質問をしてきた。 頭を揺さぶられ記憶障害になっていないかの確認だと、丁寧に説明された。 年齢や生年月日、俺の身の回りの人々はどのような人がいたか。 後は簡単な計算問題と外国の首都などを聞かれた。 質問にはスラスラと答えることが出来た。 『うん。問題はなさそうだね…… でも、目眩や吐き気などの症状が出た時は、直ぐに呼んでね』 『はい、分かりました』 『救急隊員が言ってたんだけどね、駆け付けた時に、及川くんが丸まって頭を抱え込むような体勢で倒れていたそうだよ。 咄嗟に頭を守ったんだね。 それが無かったら、もしかしたら助からなかったかもしれない。 すごいことだよ及川くん!』 先生が本当に嬉しそうに微笑んだのが分かって、なんだか少しだけ気持ちが楽になり、ずっと落としていた視線をやっと先生に向けることが出来た。 それに先生がまた、優しく微笑みかけてくれる。 咄嗟に自分を守ることが出来たんだ。 それって本当にすごいこと? それとも人間の本能的な部分が働いただけで、当たり前のこと? そうだとしても、こんな事故が起きてしまって、絶望を感じていたけど でも、自分のことを少しは褒めてやろうと思った。 あのまま死んでいたら、もう飛雄に会うことも出来なくなっていたんだ。 飛雄をまた悲しませるところだった。 また、飛雄に会える!! 奇跡を自分で起こせた!  だから……もしかしたら…… もう1つ奇跡を起こせるかもしれない そうだ! 絶対にそうだよ!! 『あの先生!』 『なんだい?』 先生の目を真っ直ぐ見つめると、穏やかな笑みが返ってきて、なんだかもっと自信が生まれた。 『友達が言ってたんですけど、俺はもう歩くことは出来ないって言われたんですけど、それって友達の勘違いですよね? 俺、また歩けるようになりますよね?』 『そうだね。時間はかかると思うけど、リハビリを重ねれば、日常生活を送れる程度には回復出来るよ』 その言葉に笑みが溢れる。 そっか……良かった! リハビリ頑張ればまた歩けるようになる。 なんだよみのっちのヤツ! ビビらせないでよ! ホントに人騒がせな奴だよまったくぅ~! 先生もずっと笑顔で、それがものすんごく嬉しかった。 安堵の溜め息が溢れる。 『じゃあ、じゃあ! 俺、バレーやってるんですけど、どれぐらいリハビリ続けたら、復帰出来ますかね? 俺、早く復帰したいんです! バレー界の頂点に立つのが俺の夢なんです!!』 そう意気込んで、先生に笑顔をぶつけたけど…… さっきまで笑顔だった先生の表情が、一瞬曇り顔になった。 だけど、直ぐに笑顔に戻る。 でも、その笑顔がさっきまでのとは全然違っていて、明らかに無理に作り笑いを浮かべているのが丸分かりだった。 優しい先生は俺を無理矢理、安心させようとしているの? 嫌な汗が背中を伝う…… 『日常生活を送れるまでには回復出来るよ…… でも、もとのようにバレーをすることは不可能だよ……』 『え……? そんな…… 俺は、もう、バレー出来ない? そうなの先生……?』 俺の落胆した様子に先生はもう、あの優しい笑みは見せてはくれなかった。 医者が言ってるから、間違いないんだと思った。 俺はもう、本当にバレーが出来なくなってしまったの……? 俺の夢は、バレー界の頂点に立つこと ずっとずっと、飛雄の目標でいてやるために、もっともっと上に行かないといけないのに…… そしたら飛雄は俺を追い掛けて来てくれる。 ずっと見つめてくれる…… なのに、バレーが出来なくなった俺を 飛雄はどう思う?

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