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第340話
及川side
精神的にかなり不安定だった俺は、リハビリが予定通りに進まず。
順調に進んでいればもう、きーちゃんのように松葉杖を使って歩くことが出来るようになっているはずだった。
なのに未だに俺は、立ち上がるのがやっとで、平行棒を使ってほんの少ししか歩けないような状態だった。
先生は、
『焦らなくて大丈夫だよ。
及川くんのペースでゆっくりでも諦めずリハビリを続けていけば、必ず歩くことが出来るようになるから。
だから焦らず、一緒にリハビリ続けていこう!』
笑顔で優しくそう言われたけれど、俺は内心めちゃくちゃ焦っていた。
焦れば焦るほど、全然上手くいかない。
俺ってこんな情けない奴だったっけ……
もっと夢に向かって我武者羅に走って、立ち止まらず、常に自分の望む1番を追求し走り続けていた。
自分自身を誇れる、そんな生き方をしていた
はずだったのに……
どうして俺は、こんな情けなくなってしまったんだろう……
『こんなせっまい病室に閉じこもったままだったら、良くなるもんもならないよ!
飛び出して、外の空気吸ったら気持ちが晴れて、案外上手くいくかもしれないよ!!』
塞ぎ込んでしまった俺に、みのっち達が先生に掛け合ってくれて、病院から大学に通う許可を取ってくれた。
先生にはめちゃくちゃ反対されたけど、みのっち達の必死な説得に根負けして、渋々OKしてくれたようだ。
『俺達が、完全で完璧なサポートをして見せますから!』
『本当に無理はしないでね。
何かあったら直ぐに病院に連絡するように!
毎日必ず病院に帰ってくるんだよ!
遅くならないように、時間は守ってね。
帰ったら、ちゃんと状態をみせに来るように!
それから……』
などなど色々なことを長々と、言い聞かされた。
『ゴメンね……迷惑ばっか掛けて……
しかも先生を説得してくれて。
本当に2人ともいー奴らだよ……』
ここまでしてくれる人達、なかなかいないよ。
『だって俺達友達じゃんっ!
当ったり前のことをしたまでよ!』
『ふふっ、なんて言いながら、本当はただ私達が及川くんと一緒に大学に通いたいだけなんだけどね♪』
『本当にあんがとう……』
2人に迷惑かけないためにも、早くちゃんと歩けるようにならないと!
歩けないと、日常生活も儘ならないしね。
バレーはもう……出来ないけれど……
きーちゃんの足は順調に回復して、ゆっくりだけど、もう松葉杖使わなくても歩けるようになったみたい。
心配事はまだまだ沢山あるけれど、不安で仕方ないけど
みのっちに車椅子を押してもらって、3人揃って大学の門をくぐった……
学生達が俺の姿を見た途端、突然どよめき始めた。
『ねぇ、あれ見て……及川くんだ……
車椅子座ってる……』
『事故に遭ったって聞いたけど、まさか車椅子で大学に来るとはね……』
『あれもう歩けないのかな?
可哀想に……』
『せっかくのイケメンなのに、あんな姿じゃあ台無しだね……』
『ぷぷっ! こんな時に何言ってんのよあんた!
可哀想でしょ!』
『いや、だってさぁ~……』
俺の方をチラチラと見ながら、コソコソヒソヒソと囁き合っている。
やっぱりね……心配した通り、こうやって言われるだろうと思ってた。
2人と通えるのは嬉しいけど、コイツらのせいで、気分最悪だ。
眉間にシワを寄せてため息を吐いていると、数人の女の子達が駆け寄ってきた。
みのっちは警戒しているのか、一歩後退って、車椅子が揺れる。
『及川くん……久しぶりだね?
足、大丈夫なのぉ?』
『うん……まぁ……』
コイツ、本当に心配しているのだろうか?
なんか、人を小馬鹿にしているような目をしている。
答えたくなくて、曖昧な返事を返した。
『可哀想……痛い?』
『別に、大丈夫だけど……』
『もう歩けないのぉ?』
『いや、リハビリやれば、また歩けるようになるよ』
『そっかぁ! 良かったねっ♡』
『じゃあ、いつ頃から、またバレー出来るようになれるのぉ?』
『私達、また試合見に行きたいなっ♡』
そう言われた瞬間思わず口籠もり、目が泳いでしまった。
それを見た女の子達は、お互いに顔を見合わせてから、苦笑いをしながら立ち去っていった。
『アハハぁ……そーなんだぁ~……
じゃあ、私達忙しいから、もう行くねぇ~』
『それじゃあ、3人ともバイバ~イ』
『木園さん頑張ってねぇ~』
そしてまた始まる、陰口達。
『ありゃもう、バレー出来ないみたいね……』
『あんなにカッコ良かったのに、残念だね~』
『彼女の木園さんも大変だね……
彼氏があんなになって災難だね~』
『流石に私が彼女だったら、別れるレベルだわ~』
『それなっ! あれは気まずいし、一緒にいても、前までのカッコいい及川くんの姿が頭の中チラついて、現実とのギャップに耐えられなくなりそぉ~』
『あれはもう、別れるのも時間の問題だね~』
『あんなにカッコ良かったのに、本当にもったいない……』
あぁ……やっぱ心配事は的中しちゃったか……
『及川……なんかごめんな……
俺、狭い病院から外に出れば、気分転換になって、及川の体にも良いかなとか甘い考えしてた……
コイツらが及川に執着してたの、すっかり忘れてた……』
『いや、別に良いよ……あんがとね……
それより、またきーちゃんまで色々と言われて、ごめんね』
『私は別に前から、あんなの気にしてないよ!』
そう言って、ニコッと笑うきーちゃん。
本当はウンザリするに決まってるよね……
それでも笑ってくれて、本当に優しいな……
あの事故があった前は、あんなにギャーギャー騒いで、直ぐに囲まれていたけど
今は皆、俺のことなんか眼中にないのか、もう近寄って来なくなった。
何なんだよアイツら……
結局、俺の顔と運動神経の良さに騒いでただけで、そのどれかがかけて、
メンタル的に落ち込むであろう俺のことが面倒臭い存在になったと言うことか。
バレーが出来なくなり、泣きわめかれたら迷惑だし、辛気臭いオーラを放つ奴の傍には近寄りたくないってことだろう。
ムカつくけど、騒がれて囲まれるのも面倒臭かったから、それだけは良かった。
だけど……今までで1番嫌な陰口を叩かれ出した。
『あの、とびおちゃんだったっけ?
あれとはどーなったんだろう?
木園さんと付き合ってたと思ってたけど、それは嘘で、本当にとびおちゃんと付き合ってたりしてね!』
『あぁ、あのホモの話ね!』
『もしそれが本当だったら、とびおちゃん可哀想だよねぇ~』
『彼氏と遠距離恋愛中に、事故で歩けなくなって、バレー出来なくなったって知ったら、ショックだろうね……』
『私がとびおちゃんだったら、気まずくて、どうにか自然消滅出来るように、ラインブロックしちゃうわぁ~』
『それ、サイテー! でも、私もしちゃうかもな……』
『とびおちゃん……本当に可哀想……』
あんなに、飛雄と付き合ってると言っても、誰も信じてくれなかったくせに、
こんなことになった途端、付き合ってると認めてくるなんて……
どれだけ、性格がねじ曲がってたら気が済むんだ?
アイツらが近寄ってこないのは、正直助かる。
でも、もし本当に飛雄がこのことを知ってしまったら、どう思うのだろうか……
悲しむ?
それとも、気まずくて目を逸らして、俺から距離を取る?
分からない……想像もしたくない……
飛雄はこんな酷い奴らとは、絶対に違う!
飛雄なら、それでも傍に居てくれるはずだ!!
でも……やっぱり
怖い……
飛雄に、知られたくない
このまま、どうか、
飛雄に知られないまま
綺麗で美しい思い出で
終わらせたい……
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