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第344話

どうしてこんなことになってしまったんだろう? 完全に失敗した…… 俺は一体何をやっているんだ 及川さんの心に寄り添って傍に居るつもりだったのに、自分でも理解出来ないほど意地を張ってしまった。 真正面から自分の気持ちをぶつけて、及川さんにもぶつかってきてほしかった。 及川さんは、心に深い傷を負ってしまっている。 そう簡単に凍った心を溶かすことは容易なことではないと重々承知していたはずなのに。 それでも俺達には今まで過ごしてきた時間、築き上げてきた愛と信頼がある。 それだけは誰にでも誇れるほどの自信があった。 だから及川さんにも真正面からぶつかって、全てを打ち明けてきてほしかった。 俺の口からは、事故のことは触れたくなかった。 三野村さん達からも何も聞いていないというていで、全てをぶつけ合いたかった。 それに、俺の中での引っ掛かってる部分もあったから、不安であんな意地を張ってしまった。 黛先輩の、あの時の言葉…… 〝連絡が無いってことは、及川はお前との関係を絶ちたいって思ってるってことだよ〟 〝及川はお前を捨てて、あっちで女でも作ってる〟 俺は及川さんを信じてる。 俺達にはこれまで二人で過ごしてきた時間と絆がある。 それがあったから、心と心が繋がってるって自信があったから、離れててもどんなことでも乗り越えていけるって思って来れたけど…… でも及川さんに直接会いに行って、彼の真正面に立ったら 好きだと言って欲しい 抱き締めて ちゃんと言葉と態度で愛していると伝えてくれないと、幾ら信頼しているという気持ちがあったとしても、揺らいで崩れ落ちそうになってしまう。 他人から言われた言葉と、及川さんから直接言われた言葉 同じ言葉でも意味が全然変わってくる 例え本心じゃなかったとしても、拒絶されたら 今まで二人で築き上げてきた全ての物が、俺の夢、幻想だったのではないかと錯覚してしまいそうになる。 だから、 〝君には関係ないことだよね?〟 そう言われてすごくショックだった。 飛雄じゃなくて、君って呼ばれたこともショックだったけど 俺が及川さんの恋人だったってこと、全てを否定されているみたいで、悔しかった 東京で沢山辛いことがあったと、教えて貰ったから知ってはいるけど 夢を追える自分…… 俺が恋人でいると、及川さんを苦しめてしまうことになってしまうのだろうか? 俺はもう……及川さんには必要の無い いらない存在ですか……? でも、俺は……何もかも終わっただなんて、 そんなこと、微塵も思っていないのに! あれから俺は、及川さんを探した。 でも、見つけることが出来なくて、仕方なく三野村さんの家に戻ることにした。 戻ると木園さんはまだ三野村さんの家に居て、暗い顔で一人で戻って来た俺を見て二人は、全てを察したのか悲しそうな表情をしながら中に入れてくれた。 「……及川くん、やっぱりまた嘘ついたの?」 「俺も意地張っちまって……最初は及川さんも前みたいに飛雄って呼んでくれてたんすけど、俺が色々と失敗しちまって…… 心配いらないとか格好付けて出て行ったくせに、本当何やってんだろ俺。 すんません……」 「それで及川逃げちゃったんだ…… あの事故以来、ずっと塞ぎ込んでたから、仕方ないのかもしれないけど…… それでも、あんなに大好きだったとびおちゃんに嘘ついてまで逃げるなんて 俺、スゲーショックだよ……」 「三野村さん……」 「……とびおちゃん、もう宮城に帰らなくちゃいけないの?」 「俺、学校サボって東京に来たんです。及川さんと連絡が取れなくなって心配で、学校よりも及川さんが大切って思ったからここに来た! だから、及川さんとこんな状態のまま、帰るわけにはいかないんです!」 拳を握りながら声を大にして言うと、三野村さんと木園さんがまた涙ぐんだ。 この2人、泣きすぎでは? 「良かったっ! とびおちゃんがこのまま帰ったら、及川くんもっともっと塞ぎ込んじゃうだろうから、だからまたちゃんと話し合って欲しいって思ってたの!」 「とびおちゃん、今日はもう遅いしウチに泊まってってよ」 「えっ!? いーんすか?」 「もっちろん!! あのとびおちゃんに泊まって貰えるなんて、感激過ぎるよ!」 「アザッス!! 及川さんちに泊めて貰おうって甘い考えしてたので、助かります!」 本当に良い人達だ…… こんな人達と友達になれるなんて、流石は及川さんだなって思う。 及川さんは出会った中学の時からずっとキラキラ輝いてて、及川さんの回りにはいつも人がいっぱいいた。 俺はずっと、そんな及川さんを尊敬してた。 憧れていた。 そんな彼だからこそ、沢山の人が集まってきて スゲーことだと思う。流石は及川さんだって思うよ。 だけど、それで…… 皆が及川さんに夢中になって、独り占めしたくなって、我慢出来なくなった。 あんな事故が起きてしまった…… ただ、キラキラ輝いている及川さんの傍にいたかっただけなのに…… 三野村さんは風呂を貸してくれて、怪我した腕や膝の手当てをしてくれた。 「……明日、及川に会いに行こう。 今度は俺と爽香ちゃん二人がかりで逃げれないように、しっかりと捕まえててやるからさっ! 本当は及川を俺と爽香ちゃんの友情パワーで支えてやりたいって思ってたけど……でもやっぱりとびおちゃんが必要だよ! あいつがどれだけとびおちゃんを好きで、求めてたか、俺達にいっつもウザいぐらい自慢してきてさぁ~ だからお願い、とびおちゃんの愛の力で、及川をあの闇から救い出してくれよ!」 「三野村さん……俺──」 そう言ったところで、突然俺の携帯が着信音を響かせた。 「っ!? あっ……日向からだ……」 「友達?」 「はいっ! 俺と及川さんのことを応援してくれてるんです!」 「及川のことも!? 早く出てあげなよ!」 俺は急いで通話ボタンを押して、電話に出た。 三野村さんは気を遣ってくれたのだろう、そっと部屋から出て行った。 それに申し訳なく思いながら、携帯から漏れ出る元気なバカでかい声に返事を返した。 『オーーーース影山ぁーーーー!!!!』 「ウッセーぞ日向ボゲェ!! んなデケー声出さなくても聞こえてるっつーの!!」 『ゴメンゴメン! 大王様のことがスゲー気になってさっ! なのに、影山全然連絡よこさねーからさぁ~待ちくたびれたっ!』 『ずっと大王様大王様って日向うるさかったからさ、ホント早く連絡して欲しかったよね~』 携帯から月島の声も聞こえてきた。 二人とも一緒にいるなんて、相変わらず仲良いよな…… 今の俺と及川さんは、ぐちゃぐちゃになっちまってるから、本当に羨ましい…… 「悪かったな……こっちはこっちで、マジで大変だったからさ……」 俺は日向達に、東京であった出来事を全部話した。

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