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第345話
話の最初頃は「それでそれで?」とか「で、で、どーなったんだよ!?」とか一々急かしてきて、俺と月島に怒られていた日向だったが、最後の方は別人のように静かになってしまった。
話し終わった今も日向どころか月島さえも何も言わない。
いや、言わないんじゃなくて何も言えないんだと思う……
こんな辛くて残酷な話、話している途中苦しくて苦しすぎて、何度も言葉が詰まって視界が滲んだ。
三野村さん達は当事者だから余計に苦しかっただろうに、俺にちゃんと話してくれた。
本当に感謝してる……
しばらく三人で無言でいると、日向がやっと沈黙を破ってくれた。
正直俺からは何も言えなかったから……
「……ごめん……
頭の中ぐちゃぐちゃで、何喋って良いのか分かんなくなった……」
「いや……俺も、ごめん……」
「……僕も……」
「ほ……本当に大王様はもう、バレー、出来ないの?」
「三野村さん達もそうだって言ってたし、車椅子から落ちた時自分じゃあ立てねーみたいだったから」
「そんな……本当なんだ……」
日向らしくない声でそう呟いた後、携帯越しに鼻をすする音が聞こえてきて、日向も泣いてるんだって気付いた。
「俺にとってバレーは生きる全てで、魂の源みたいなもんなんだ!!
バレーに出会ったあの日からずっと、俺の日常全てをバレーに捧げてきた!
それを失ってしまったら人生終わったも同然で、そんな自分許せなくて消えてしまいたいって、絶対にそう思うと思う!!
大王様も俺と同じでバレーに全てを捧げてきた人だから、気持ち痛いほど分かるんだ……
今普通に夢を追えてる奴が何知ったような気になってるんだって、何も分からないくせにって怒られるかもしれないけど、それでもバレーに込めた情熱は絶対同じだって分かってるから!!」
そうだよ 俺だって同じだ……
バレーは俺の人生そのものだ。いつもどんな時だってバレーのことばかり考えてた。
バレーをやってなかったら烏野のメンバー達とは話すことどころか、俺のことだから同じ学校なのに顔すらも知らなかったと思う。
日向と月島とこうやって友達にもなれなかったし、笑い合ったり喧嘩したり、悩みを相談することもなかっただろう……
そして……
及川さんと出会うことは、出来なかったかもしれない……
あの美しいプレーを見て、感銘を受けることもなかった
憧れて、追い掛けて
彼に追いついて、追い越して、バレーの頂点に立つっていう目標を持つこともなかった
誰かを恋しいと思い
苦しくなって切なくなって愛おしいと感じる
この感情が生まれることもなかった
恋が実って
及川さんの恋人になれた、この奇跡もなかったことになるだろう……
彼の瞳に映ることも
名前を呼んでもらうことも
彼の匂いが好きだって思うことも、触れ合って抱き締め合って温もりを感じることも
及川さんに好きだって
愛してるって
言われることも
全て……
無かったことになる……
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