3 / 9
第3話
教室に戻ると、八神の姿はなくて…
「八神は?」
隣の席のやつに聞くと、
「あー、早退だって。どうせサボりだろ。」
早退なんて最近はあまりなかったのに。
「ちょ、俺もサボり…じゃなくて
早退したって先生に言っといて!」
「は?おい?」
ソイツの声を無視して、
カバンを掴んで廊下を走る。
このまま何も知らずに終わるなんて嫌だ。
ミーンミーンと鳴く蝉の声を振り切るように
熱い太陽が照りつけるなか、
急いで走って八神のアパートに向かった。
【八神】と書かれた表札。
間髪入れずにチャイムを押す。
ピーンポーン、
と、間の抜けた音がして
「…はい。」
八神の声がした。
「…やがみぃー。ごめんー。」
声が聞こえた瞬間なんかホッとして
でもって、あの時の八神が思い出されて
思わず涙が零れる。
「は、待って、」
なんか慌てたような八神の声が聞こえて
バタバタって何かに躓く音がして
「…何で泣いてるの。」
ドアから小さく顔を覗かせた八神が
困ったように俺を見つめる。
「ひっく、…ん、ひっく…」
なんか止まらなくて、
それをやっぱり困ったような顔で
見つめた八神は、
とりあえず、落ち着くまで入れば?と
部屋の中へ招いた。
中はクーラで涼しくて、
水を入れたコップを渡しながら、
八神は俺に問いかける。
「授業は?」
「…っさぼった。」
「いつもはサボらないのに?」
「ん、ひっく、…だって、
八神に嫌われたと思ってっ…」
「…ごめん。ちょっと頭に血が上ってた。」
「なん、で、怒って…たの?」
「…ごめん。今は冷静にできない。余裕ない。」
そういう八神は、
やっぱり少し、俺から距離をとっていて
このまま、離れていくんじゃないかと不安で
服の袖を掴む。
さっきのように振り払われはしないものの
「落ち着いたら帰って。」
って、やんわり断られて。
「な、んで?」
合わない目線。
無理矢理こっちを見させたくて
襟を引っ張って唇に口づけた。
「…っ教えろよ。」
ともだちにシェアしよう!