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【ほのぼの】シーグルの日記(2)

「もうそろそろ、産まれますね」  母の腹は1日の間にも大きくなる。おそらくあと3~4日で産まれてくるだろう。  大きくなりつつある腹を愛しげに撫でる母は慈母のようで、その笑みを見ると温かな気持ちになる。 「そうだね。シーグルにも沢山お世話してもらって、ごめんね」 「そんなこと! 俺はそんなに世話なんて…」 「ううん、遊んでもらったり、寝かしつけてくれたりして助かってるよ」  ニコニコ笑う母が甘やかすように俺に言う。俺は少し照れてしまった。  弟や妹の面倒を見る事は嫌じゃない。だって、可愛いから。俺の膝にちょこんと座って本を読んでとねだる妹や、ヤンチャに遊ぶ弟の相手。全部が楽しいし、全然苦じゃない。勿論これを兄の責務だとも思っていない。 「そういえばさ、シーグルも小さな時には可愛い事があったよね」 「え?」  思いだしたようにクスクス笑う母が何を言おうとしているのか、俺はドキドキしている。本当に小さな時の事を覚えているのだ。鮮明に。 「ほら、3歳くらいの時にあったじゃない。おねしょ事件」 「あれは!!」  一番思い出したくない記憶に、俺の顔はカッと熱くなる。母にしては幼い時分の良き思い出なのだろうが、当人からすると消してしまいたいエピソードだ。 「初めておねしょして、大慌てで泣きながらリーンに内緒にしてってお願いしたの。今のシーグルからは考えられないくらいだよね」  そう、そんな事もあったのだ…。  まだ3つの時、前日にスイカを食べ過ぎておねしょをしてしまった事があった。こんな失敗初めてで、お世話係だったメイドのリーンに泣きながらお願いしたんだ。怒られると思って。  実際はそんな事もなく、リーンも「大丈夫ですよ」と微笑ましい顔をして慰めてくれた。同時に「母上には言わないで」ともお願いしたんだけれど……ばれていた。  いや、リーンが言ったんじゃない。洗われた俺の寝具や寝間着が干されているのを見た母が、「おや?」と思って察したらしい。その日のおやつ、母は俺の好きなプリンを作って慰めてくれた。恥ずかしい…。 「この子もさ、そんな可愛いエピソード盛りだくさんにしてくれるのかな」  そう言って、再度自身の腹を撫でる母は同じ柔らかな視線を俺にもくれる。本当に、木漏れ日のような人だ。 「可愛いですか?」 「可愛いよ。大人になったらあり得ない、小さな頃の思いでだよ。シーグルにしたら恥ずかしい失敗談かもしれないけれど、俺からしたら懐かしい思い出だしね」  そんな風に言ってくれるなら……忘れないで覚えておこう。  そうしているとドアがノックされて、父が帰ってくる。執務の合間に母を訪ねるのが、父の日課のようだ。 「マコト、大丈夫か?」  父は母が子を成すといつも心配する。とても苦しい事を知っているからだと言う。俺の頭も撫でながら、母に問いかけている。母は「心配しすぎ!」と笑いながら頷いている。 「平気、流石に慣れてきたよ。それに、出産関係のスキルのレベルが上がってるしね。ほんと、産めば産むほどレベルあがるってどうなんだろうね」 「俺としては君の苦痛が少しでも軽減されるのは喜ばしいんだが」 「でもまたしばらくはいらないからね!」 「…分かってる」  うん、父はもう少し子が欲しいのだろう。都合悪そうにしているのがその証拠だ。  父は本当に母を溺愛している。そして、子供が大好きだ。  幸いここに暮らしているスタッフの人達は子供が好きで、よく相手をしたり世話をしてくれるから、母の負担も軽減されている。でもそれを良いことに子沢山でもある。  母も拒まないからな。何でも母は子供の頃寂しかったらしくて、子沢山の賑やかな家庭が憧れなのだという。そんな事もあって、誰も父の溺愛を止めない。まぁ、険悪よりはずっと幸せな事だ。  俺はこれから何人の弟妹が出来るんだろう。思いながらもそれが嫌じゃない。  温かい、愛情溢れる両親の間で沢山の兄弟と笑っている。そんな未来が容易に想像できて、それもいいなと思うある日の昼下がりだった。 END

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