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【お妃視点】婆やからの手紙(2)
更に数日後、マコトさんが産気づいたと聞いて私と旦那様は直ぐに屋敷にゆきました。
到着すると既に破水して、強い陣痛が始まっていると聞いていても立ってもいられずに旦那様の手を握りました。
竜人の子は人族の子よりも大きいのです。だから人の体でお産をするのはとても苦しいし、下手をすると死んでしまう可能性すらあるのです。
「王様とお妃様は別室で」
そう言われて、別室に移りました。
ソファーに腰掛けて、私は震えていました。
あの小さな体がこれからの出産に耐えられるのか、そればかりが不安でした。こんなに愛し合っているのに、もしもマコトさんに何かあったら。子ばかりが無事ではいけないのです。それではユーリスが可哀想。
「大丈夫だ」
肩を抱いて、旦那様は言ってくれます。でもその旦那様も強ばった顔をしているのです。
やがて分娩室に入って、ユーリスが青い顔で私たちのいる部屋へと入ってきました。
「母上…」
今にも崩れそうな息子を見て、私の震えは止まりました。私がしっかりしなければ、この子は更に不安になる。そう思ったからです。
「母上、子を産むというのはあれほどの苦痛なのか」
側に来たユーリスは、後悔すらしている様子でした。手が、震えていました。やはりマコトさんはとても苦しいんだと感じて、私は抱き寄せてその背を撫でていました。
「こんなに苦しむ彼の姿を見るくらいなら、子など望むべきではなかった」
「違うわ、ユーリス。それは違うのよ」
産まれてくる子を愛してもらわなければ。誰よりも愛情深く育てて貰わなければ。私はその一心でした。
「マコトさんも望んだ事よ。産まれてくる子は、二人の子なのよ。貴方は誰よりも、産まれてくる子を愛して、大事に育てなければならないわ」
「母上…」
「大丈夫、マコトさんは強い子よ。きっと大丈夫、婆もついているんだから」
それでもユーリスは産まれた子が運ばれてくるまで、ずっと震えていました。
産まれた子は黒龍の男の子でした。産着を着てメイドのリーンが運んできてくれた時、ユーリスは真っ先にマコトさんの体を心配していました。
幸い出血は多かったけれど、それも直ぐに止まって治療がされたと聞いて、私もほっとしました。これも付属スキルの「自己治癒」のおかげだと言っていました。
力の抜けたユーリスが座り込み、旦那様が強くその肩を抱いて労っているのを見ながら、私は生まれたばかりの子を腕に抱きました。
小さな頃のユーリスに似ています。愛らしい黒い瞳は、笑っているように見えます。肌の色も良くて、健康状態も問題ありません。驚いた事に、既にマコトさんから母乳を貰ったのだとか。
「ユーリス、ほら」
側に行って、ユーリスの前に産まれたばかりの赤ん坊を差し出すと、どう抱けばいいのか分からずに手がワタワタとしています。
笑って、形を作ってその上に子を乗せると、ユーリスの目にも心配とは違う涙が伝っていきました。
「怖い…な。こんなに柔らかくて…壊れてしまいそうなのか…」
「だからこそ、守ってあげるのよ」
腕の中で笑う子を見るユーリスの目は、確かに父の目になっていました。
こうしてシーグルが産まれて13年、今では3人の孫が出来ました。
喜ばしい事にマコトさんのスキルは産まれた子にも引き継がれているそうです。この子達が将来的には、竜人族を救う一つの希望となってくれる。そう思うと、今からその成長が楽しみです。
今、私たちはユーリスの屋敷で孫達の面倒を見ています。マコトさんに、4人目の子が生まれるのです。
マコトさんのスキルは経験値を積むと更に上がりました。特に出産に関するスキルが飛躍的に伸びて、今では初産のような苦痛は少なくなっています。
陣痛が始まって3時間、分娩室に入って、30分が経とうとしている時、控え室の扉を開けてリーンが可愛らしい赤ん坊を抱いて入ってきました。
「女の子ですよ」
愛らしいふっくらとした頬の子は、どこかマコトさんに似ています。
新しい兄弟が生まれて、孫達も幸せそうに触れている。ユーリスも安堵したような表情で入ってきて、頷いた。
「マコトさんは?」
「元気ですよ、母上。出血も多くはなかったし、治療も済んだ。授乳も終わったから少し寝ると言っていました」
「そう。本当に逞しいわ」
今日は1日婆がついていると言っていたから、そちらは問題がないでしょう。ユーリスも慣れたように赤ん坊を抱き上げ、小さな手に自分の指を絡ませている。
「名前は決まったのかしら?」
「あぁ。フランシェとつけたよ」
「フランシェ! 愛らしい名ね」
新しく産まれた子を愛おしく見つめ、私も幸せを噛みしめています。
竜人族でこんなにも沢山の孫に囲まれる幸福を得られたのは、きっと私と旦那様だけ。これも全て、マコトさんがユーリスを愛してくれるからです。
「でもユーリス、あまりマコトさんに負担を掛けてはいけないわよ」
釘を刺すように言えば、ユーリスは顔を赤くして、そして確かに頷いたけれど、きっと直ぐに忘れるのでしょうね。
なんにしても、愛情深い息子夫婦がいつまでも睦まじくいられることは、私にとってなによりの幸せです。
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