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【メイド視点】シーグル子育て記~とあるメイドは見た~(1)

 シーグル様のお世話を仰せつかったメイドのリーンと申します。  この度、私のご主人ユーリス様が奥様を迎えられ、あれよあれよとお子様が産まれる事となり、話し合いによって勤続の長い私が奥様のサポートとお子様のお世話を仰せつかりました。  私の新しいご主人様、マコト様はそれは愛らしい方です。男性なのですが、私よりも細く華奢な体つきをなさっております。  異世界人はこの世界の人族よりもか弱い事が多いと聞いておりましたが、その通りなのだと思います。  ですがそれは身体的な事。中身はとても強くていらっしゃいます。  ユーリス様が傷を負って戻られた時、ご自身も体が辛いというのにずっと案じておいでで、それでもジッと耐えている姿は意地らしく思えました。  ですからお姿が見えなくなった時、とても不安でした。  この屋敷に主人の客人に手を出すような不埒者がいない事は分かっておりましたから、屋敷を出たのはマコト様のご意志。  酷く落ち込んでらしたから心配はしておりましたが…。  穏やかな我が主が顔色を変えて必死になり、心労から寝食を疎かにし、朝も夜も自らの手でマコト様を探す姿も見ました。  年の割に落ち着いていらっしゃるユーリス様がここまで慌てられる姿を見たのは初めてです。マコト様がどれほどに大切な存在か、屋敷の者は憔悴する主の姿から知ったのです。  そんなお二人の間に、めでたくお子が産まれました。人族が無事に竜人の子を産んだのですから、それだけでご立派な事ですのに、産まれてすぐに授乳もされて、意識もはっきりしていらっしゃいます。本当にお強い方です。  産着を着せてユーリス様や国王様、王妃様の元へと連れてゆきますと、ユーリス様は真っ先にマコト様の様子を尋ねました。治療も済み、意識もあってお元気にされていると知ると、崩れる様に座り込んでただただ泣いていらっしゃいました。  このような姿も、初めて見るものです。  お生まれになった男の子はシーグルと名付けられ、現在2週間、元気ですくすくと育っております。  この時期の赤子は3時間に1度程度はミルクが必要になります。それは深夜であっても同じ事。  マコト様には休息が必要ですし、このような経験はございませんので、夜間の授乳まではお辛いだろうと話し合い、夜間は私がシーグル様をお預かりしております。幸いにして代替のミルクがありますので困りません。  ですが朝はやはり母乳がよろしいのです。代替品にはない栄養などがありますから。  そういうことで私の最初の仕事は、マコト様のモーニングコールからです。 「ユーリス、あの、そろそろリーンが…んっ、ふっ…あの、これ以上わぁぁ」  扉の向こうから、朝からなんとも艶めかしい声が聞こえたとしても冷静でいなければなりません。内心は「ユーリス様グッジョブ」です。 「はっ…あっ…あぁぁ…」  それにしても朝からこのように悩ましい声を上げるほど、何をなさっておいでなのでしょう。ユーリス様の声を拾う事が出来ないのが実に勿体ない…いえ、何も。  扉を開けるような無作法はいたしませんが、一度覗いてみたいとは思ってしまいます。何にしても、朝からご馳走です。  それから十数分後、中の様子が落ち着いたのを見計らって私は扉を叩きました。 「はっ、ひゃい!」  まだ動揺しているようです。 「マコト様、起きてらっしゃいますか?」 「今行きます!」  決して扉を開けません。隠したいあれやこれやがあることでしょう。主人のプライバシーを守る事も大切な仕事です。勿論、今漏れ聞こえた事も口外など一切いたしません。  やがて身支度を調えたマコト様が、ほんの少し頬を染めて笑顔で出てきました。 「ごめんね、待った?」 「いえ、来たばかりでございます」 「そっ、そっか」  本当の事は言いません。私の主は恥ずかしがり屋なのです。

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