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【メイド視点】シーグル子育て記~とあるメイドは見た~(2)
何はともあれシーグル様の待つ子供部屋までご一緒します。開ければ婆様がシーグル様を抱き上げておりました。日に三度、体調を確かめているのです。
「おぉ、マコト様おはようございます。授乳ですかな」
「はい、婆さん」
ゆったりと椅子に腰を下ろし、胸元を開ければ白魚のような肌が晒されます。その胸元は今だけほんの少し、ふっくらとして見えます。
これも子が生まれて1ヶ月だけの限定レアものです。
シーグル様はマコト様に抱かれて食事の時間です。最初はぎこちない様子だったマコト様も慣れてきたのか、とてもスムーズにこれらを行うようになりました。
竜人族の女性でも、母乳が十分に出るかどうかは個人差が大きいのですが、マコト様は量も質も申し分ない様子です。シーグル様が足りないと泣く事はありません。
お生まれになった時には竜人族としては少し小さかったシーグル様も、今ではとてもご立派です。
「マコト様も、体調に変化はありませんか?」
「大丈夫だよ婆さん。シーグルは元気ですか?」
「勿論ですとも。シーグル様は日々健康に、すくすくと育っておりますよ」
そう言われて、慈母のような顔で微笑まれるマコト様はまさに聖母のようです。
授乳も終わり、揺りかごに寝かされたシーグル様は最初こそニコニコと微笑んでマコト様の指に小さな手を絡ませておりましたが、15分もすれば瞳が落ちてきます。心地よさそうに揺られて、いつの間にかスヤスヤと眠ってしまいました。
「赤ちゃんって、こんなに沢山寝るんだね」
「そうでございますね」
眠ってしまったシーグル様に悪戯をするように、マコト様は指先で柔らかな頬をツンツンとしております。微笑んで、そして楽しそうです。
「もっと、遊ぶ時間とか必要なのかと思ってたけれど」
「もう少し大きくなりましたら、そのような時間も必要になってくるかと思います」
「男の子だからな。どんな事をして遊ぼうかな」
とは言っても、最初はうつ伏せで頭を持ち上げる練習や、寝返りの練習や、腕を突っ張って体を持ち上げる練習などを考慮した遊びになると思うのですが。
「もっと大きくなったらさ、かけっことか、かくれんぼとか、そういう事できるかな」
「勿論ですとも」
もっともっと大きくなってからだとは、思うのですが。
「本日は温かいようです。よろしければシーグル様をつれて、庭を散歩なさってはいかがですか? ユーリス様の公務も午後からは詰めていないはずですよ」
「本当?」
途端、マコト様の瞳は輝きパッと顔を上げました。
冒険者を続けていたユーリス様はこれを機に冒険者を一時やめ、国務を行う事にしました。冒険者はいつでも復帰できるから、と言うことです。
このような経歴の方です、他者との交渉や対話力に優れ、国家間の難しい関係などにも敏感な方です。国王様も外交の仕事を任せられる人材が出来たと、とても嬉しそうになさっていました。
ですが、そのようにお忙しくなった事はマコト様にとってはお寂しいのでしょう。ずっと一緒に旅をして、常に側に互いを感じていた今までとは状況が違います。表に出しはしませんが、ふとしたときにそのような表情が見られます。
マコト様は意地らしいのです。新婚ですよ? もう少し我が儘を言ってもいいようなものを、グッと我慢して微笑まれるのです。
ここは私がなんとか、お二人の睦まじい時間を作らなければ。
「あの、迷惑じゃないかな?」
「迷惑だなんて事はございませんよ。きっと、ユーリス様もそのようにしたいはずです」
むしろ毎日「仕事よりもマコトとの時間を優先したい」とぶつくさ文句を言うのだと、ユーリス様の側近から報告が届いておりますから。
何にしてもそのように伝えますと、二つ返事で了承を得られました。マコト様の嬉しそうなお顔、眼福です。
午後も穏やかに晴れ、温かな日差しが柔らかく注ぎます。庭に柔らかなラグを敷き、シーグル様は私がお預かりしてマコト様はユーリス様と庭を散策しております。それでもそう遠くに離れてしまう事はありません。
ユーリス様と手を繋ぎ、頬を上気させながらも嬉しそうに微笑まれて花を愛でるお姿。そしてそんなマコト様を温かく見守るユーリス様。理想的な夫婦の姿は、なんとも幸せそうです。
少し木陰で、こっそりとキスをなさる所も実は見えております。竜人の目はいいのですよ。
でも、言いません。ユーリス様はきっと私が見ている事を分かってやっておりますが、口外しないのもご存じです。スタッフを信頼してくださる、素敵なご主人なのです。
「リーンさん!」
「マコト様、私の事はリーンとお呼び下さい」
少し離れた所から少し駆け足で戻ってこられたマコト様に、私は困った様に笑って言います。
マコト様は誰かを使う事に慣れていらっしゃらないようで、スタッフの事も「さん」を付けて呼びます。ですが主人とスタッフの区切りは必要です。まずは呼び方から、そう思っております。
「リーン」
「はい、マコト様」
申し訳なさそうに呼ばれ、私はにっこりです。少し後ろからついてきたユーリス様は苦笑しております。
「シーグルを連れて、花のある場所まで行きたいんだけど、いいかな? とても綺麗だし、良い匂いもするし」
「それは素敵ですね。私が抱きますので、マコト様はユーリス様とご一緒に」
「え? あぁ、うん」
私は立ち上がり、腕にしっかりとシーグル様を抱きました。起きていらっしゃる時間も増えたシーグル様は庭先の風や匂い、日差しを浴びて今は楽しそうに起きていらっしゃいます。
マコト様とユーリス様が連れ立って歩き出す少し後ろを追って花の庭園へと向かいますと、そこには沢山の季節の花が咲いております。
私はマコト様の腕にシーグル様をお渡しし、少し離れて様子を見守っております。
ユーリス様がシーグル様の頬や指に恐る恐る手を触れ、髪を撫でて幸せそうに微笑まれ、それを見上げるマコト様も幸せそうに微笑まれます。花を見せるように膝を折って屈み、その香を感じさせるように近づけている姿は本当に睦まじいものです。
ユーリス様の手が花の一つに手をかけますと、マコト様は慌ててそれを止めました。手折ることを断ったのだと、離れたユーリス様の手を見て知りました。
たっぷり午後の時間を使い、いつの間にかマコト様の腕でシーグル様が眠ってしまわれるまで、お二人はそうして庭園を楽しまれ、家族の時間を過ごしていらっしゃいました。
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