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【イカレ竜】スイーツデート(1)
温かな日差しの午後、私は仕事の後で街へと降りました。息子アンテロが産まれて1ヶ月、久々に外でデートがしたくて誘いました。
待ち合わせは街に入ってすぐのカフェ。そのオープンテラスに座る人を少し遠くから見るのが、私の楽しみです。
黒い衣服に身を包んだ長身の美しい人。長く背にかかる銀髪に、同色の少し大きな三角の耳。すごく緩やかに揺れる大きな銀の尾が機嫌の良さを物語っています。
座っているだけで絵になる。この姿が見たくて、いつも少しだけ遅れてくる事は秘密です。
「すみません、グラースさん。遅くなりました」
声をかけると涼やかな青い瞳がこちらへと向き、細められます。整った顔立ちは鋭さがありますが、機嫌がいいのは分かります。私を見つめる瞳が、柔らかな光を宿していますから。
本当に怒っている時は視線だけで心臓止まるかと思いますからね。とりあえず土下座の準備をします。
「遅かったな」
「ガロンとの共同作戦になりそうですからね。その前に必要な事をつめていました」
言うのと同時に嫌な事を思い出しました。実に不快です。
私の父が違法なアイテムを使ってグラースさんの体から魂を抜いた事件は、私の中では未だに万死に値します。グラースさんが取りなさなければ殺しました。
当然でしょ? 私の大切な人になんて非情な事をしたのか。同じ事をしてやりたくなります。
まぁ、それはこの際いいでしょう。グラースさんに「もういい」と言われてしまいましたし、「言う事きけ」と首根っこ掴まれて言われてしまいましたしね。
あの時の目、ゾクゾクしましたね。主に命の危険という意味で。
そんな事で、この件に関わってくれたガロンを含めて調査が行われ、近く国内の闇商人の摘発を行う運びとなったのです。
「ランセル」
「え?」
突然名を呼ばれたかと思えば、額に指が押し当たる。そこをグリグリとされて、訳が分からずに戸惑いながら受けています。少し痛いんですよね、力が強いから。
「皺」
「あぁ、失礼しました」
考え事をしていると、どうも眉間に皺が寄るようです。グラースさんはそれを気にしているらしく、度々指摘されるんですよね。
「まぁ、今日は楽しめ。久々だろ」
「そうですね」
そう、今日は久々のデートなのです。
カフェを出て、二人で連れ立って歩くのも久しぶりです。
息子が生まれると、グラースさんは授乳期間の1ヶ月は息子につきっきりでした。ちょっと羨ましいですが、側に手招かれて息子アンテロを囲み、その穏やかな表情を見て腕に抱く時間は幸せでしたから、我慢できました。
でも今日だけは私のものです。今日は授乳期間が終わって一息ついた、そのお疲れの意味もあるのです。
「どこに行く?」
「この先にある家具屋に少し」
「家具?」
「寝椅子を一つ、寝室用に欲しいと思っていまして」
今あるのは硬めのソファーなんですが、息子とグラースさんと私とで座るのにはかっちりしすぎていて。もっとゆったり座れる場所が欲しいと思っていたんですよね。
あっ、あと子供部屋のラグ。柔らかいのがいいですね。
「では、見に行くか」
そう言ったグラースさんの尾は緩やかに揺れていました。
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