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【イカレ竜】スイーツデート(2)

 家具屋で寝椅子をあれこれと見て、気に入ったものを見つけました。これで寝室の時間がより充実します。  ついでに馴染みに古書店にも寄りました。そこで興味深い歴史の書籍や文化の本を漁っていると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。  悪い癖で、待たせてしまったグラースさんを探すと、彼は椅子に腰を下ろして本を読んでいました。  多分、子育ての本なんですよね。健やかに育てる為の遊び方とか、正しい褒め方・叱り方の本とか。そんなのをとても真剣に読んでいるんです。  もぉ、すっかりお母さんですね。私は笑って、ゆっくりと近づいていく。青い瞳がこちらを見上げ、本を閉じました。 「終わったのか?」 「すみません、待たせてしまって」 「構わない。楽しかったか?」  手を伸ばし、私の髪に触れて撫でる瞳は柔らかなものです。私にこんなふうにする人って、グラースさんだけなんですよね。 「その本、買いますか?」  彼の手元にある本に視線を向けた。必要なら買おうと思ったんですが、苦笑が返ってきて首を横に振られてしまいました。 「いや、参考までだ。この通りにしたって、そのように育つわけじゃない。結局はその場その場で対処しなければならないだろうからな」 「貴方の子でしたら、真っ直ぐに育ってくれますよ」 「お前の血が半分だ。どんなひねくれ方をするか分からないぞ」  うーん、それを言われるとなんとも言いがたいですよね。私に似てしまうと困りますね。グラースさん、取られてしまいます。 「さて、行くか」  買った本をマジックバッグにしまい、グラースさんに連れられて次の店へ。そうして訪れたのは、美味しいと評判のスイーツショップです。  入った途端、甘い匂いが漂ってくるのに嬉しそうに尻尾が揺れています。この人のご機嫌や感情は尻尾を見るとだいたい分かるのですよね。今は尻尾の先が右に左にと動いています。嬉しいんですね。 「好きに食べていいですよ」 「本当か!」 「勿論」  貴方に喜んでもらいたくて来たのですから、何の問題もありません。  程なく二人で席について、注文しましたが……さすが私の奥様です、ケーキ五つにプリンときましたか。  脂肪分の多い食べ物は乳の出に影響すると医者に言われ、とても落ち込んだのを知っています。1ヶ月も甘い物断ちをしたのですよね。  しかもストレス発散の武術もできませんから、本当に見ていて可哀想でした。その分私が簀巻きになりましたが…いいです、愛する奥様の為なら何にでもなりましょう。 「美味い! ランセル、これ美味いぞ」  嬉しそうにチョコレートケーキを食べて綻んだ顔をしているグラースさんは、本当に可愛いと思います。こちらこそ美味しいですよ、貴方のそんなゆるゆるな笑顔が見られて。  ふと、手元を見た。ちょこんと乗ったオレンジタルトは、グラースさんの皿にはありません。まだ手をつけていないそれを一口分フォークに乗せて、私は差し出してみました。 「食べますか?」  途端に、グラースさんは顔を真っ赤にします。恥ずかしいんですよね、こういうの。しかも外ですからね。  食べないんだろうな…。少し寂しいけれどフォークを下げようとしたその手をガッシと掴まれて、思わず驚いているその目の前で、パクンとタルトが無くなった。  それが驚きで、同時に嬉しくて、私は呆けたまま何度か瞬いた。 「…美味いな」 「グラースさん…」 「…たまにはいいだろ」  そう言うと、今度は食べていたチョコレートケーキを一口フォークに乗せて手を伸ばしてくる。  いいのかな? と近づいて食べても、顔を赤くしてそっぽを向くだけで怒りませんでした。  このケーキ、凄く幸せな味がしますね。  この日のケーキを、私は忘れる事はないでしょう。私にとって何よりの、幸福なご馳走になりました。  思う存分甘い物を堪能したグラースさんと店を出る時には、遠く赤い陽が落ちようとしていました。 「帰りましょうか」 「あぁ、そうだな」  そう言って手を差し伸べてくるグラースさんの手を握って家路につく。  今日のこの日は、私にとって何より幸せな日。愛しい奥様との、また新しい思い出の日です。

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