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【イカレ竜】夫婦の時間(1)

 今日も緑竜軍宿舎は何かと賑やかだ。元々人が多いのもあるが、ここ数年は特に。それというのもここに、アンテロとイヴァンがいて、軍人共をメロメロにしているからだ。 「母様!」  執務室のソファーで書類に目を通していた俺の所に、5歳のアンテロが駆け込んでくる。  書類をテーブルに戻せば俺の胸の中に躊躇いもなくダイブする我が子を受け止め、俺も笑みを浮かべる。 「どうした、アンテロ」 「今日は母様と昼食が食べられなかったので、おやつのお誘いに来ました」  抱き上げると首筋にすり寄るようにするアンテロの頭を撫でてやりならが、俺も嬉しく笑う。本当に、子供というのは癒やしだ。  長男アンテロはすくすくと育っている。俺から引き継いだ銀の髪は竜人族にはない色らしく、とても珍しがられた。瞳は緑竜の証しである緑色、瞳の際に入る赤い紋もある。そして前髪にはちゃんと、金の房がある。竜化した時、ここが角になるらしい。 「母様、おやつは紅茶とココアシフォンです。ご一緒してください」 「あぁ、勿論だ」 「本当! 母様、大好き!」  ギュッと首に腕を巻き付けて抱きしめる我が子の愛しさと可愛さと言ったらない。特にアンテロは利発な方で物怖じもしないのだ。 「ねぇ、母様。尻尾ふさふさしてもいい?」 「ん?」  至近距離から緑色の瞳が少しウルウルと見上げる。これに俺は弱い。「うっ」と困るものの、否とは言えないのが現実だ。 「少しだけだぞ」 「わぁ!」  スルスルと俺の腕から降りたアンテロは、俺の尻尾を両手で触り、ふさふさと遊ぶ。少しくすぐったいんだが…仕方がない。俺も尾を揺らして遊んでやった。  その時、他の客人と会っていたランセルが戻って来て、尻尾で遊ぶアンテロを見て明らかに不機嫌な顔をする。 「ずるいですよグラースさん。私には尻尾触らせてくれないのにアンテロばかり!」 「お前は息子と張り合うな!」  それでもツカツカときて、俺の足元に膝をつくコイツは何を思ったのか俺を見上げる。捨てられた子犬の目をしてもダメだ。 「私にも触らせてくださいぃ」 「断る」 「むぅぅ。アンテロ、少しだけ!」 「母様がダメっていうならダメだよ、父様」 「うぅぅぅぅっ」  何と言っても息子だ、強くは出られない。俺の膝に顎を乗せてエグエグするな、気持ち悪いぞお前は。そして父親の威厳がないぞ。 「ずるいですよぉ。アンテロとイヴァンは遊ばせてるのにどうして」 「お前は尻尾だけじゃないだろ」 「そんな事ありませんよ? ほら、無邪気な子供と同じ目をしています」 「邪気の塊のような奴が何を言ってる。退散しろ」  まったく、これで二児の父親だ、頭が痛い。  アンテロを産んで2年後、コイツに迫られてどうにか2人目の子供ができた。  男児で、名はイヴァンとした。現在2歳と少しの可愛い息子だ。こちらも俺と同じ銀髪に、緑の瞳だが顔立ちはアンテロよりも幼顔だ。頬の辺りが丸くぷっくりとして、大きな緑色の瞳が愛らしい。  普段は仕事の合間に俺かランセル、手が空かない場合はハリスが面倒を見ている。  そしてそのハリスがイヴァンを連れて入って来た。 「あっ、ランセル様お疲れ様っす。グラース様、イヴァン様の食事終わったっすよ」 「あぁ、すまないな」  立ち上がり、ハリスの手からイヴァンを受け取る。  最近少しずつ言葉を覚えたイヴァンが最初に発した言葉は「ママ」でも「パパ」でもなく「はちゅ」という舌足らずなハリスの名だった。ちなみにそれを聞いたハリスは泣いて喜んだ。イヴァンに骨抜きにされている。 「はぁちゃま、おいちかた」 「あぁ、良かったな。ハリスが食べさせてくれたのか?」 「ん! はしゅ、しゅき」  大きな緑色の瞳をキラキラに輝かせた2歳の息子の言葉に俺は笑い、ハリスはますます子育てスキルを上げている。本当はコイツが父親じゃないのかと思えるくらいにアンテロに対してもイヴァンに対しても手を焼いてくれるのだ。 「ハリス、母様をおやつに誘ったよ」 「あっ、了解っす。どこに準備するっすか?」 「僕の部屋。イヴァンもねんねでしょ?」 「了解っす」  イヴァンを俺の腕に預けたまま、ハリスはそそくさと出て行く。本当にまめまめしい奴だな。 「ランセル、あいつを見習え」 「えぇぇ。あの属性がついた私を見たいんですか?」 「…いい、そのままでいろ」  今でも厄介なのに、更に従属とか、もう下僕だろ。そのくせ変態ってどうしたらいい。これ以上何かを拗らせたら正直手に負えないぞ。  アンテロはそんなやりとりを聞きながら何かを考えて、ランセルの腕を引きその耳元に囁きかけている。何かを言われたランセルは途端に目を輝かせるとアンテロをギュゥッと抱きしめて「お前はいい子ですね!」と嬉しそうに言っている。  何やら企んでいるのか。思うがもう今更だ。何をしたって巻き込まれるのは間違いない。そしてコイツの馬鹿は俺が刈り取り、コイツの行為を俺は受け入れる。結婚した俺の、これが覚悟ってものだ。

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