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【ほのぼの】マコトの帰省(2)

 ふと、俺は一つおもいついた。そしてそれを、二人に提案してみた。 「あの、お二人がよければお店、手伝わせてください」 「手伝うって、マコトがかい?」 「俺だけじゃなくて、シーグルやロアール、可能ならエヴァも」  この俺の提案には大人しくお菓子を食べていた子供達も驚いたみたいだった。特に分別のあるシーグルは、ちょっと難しい顔だ。 「母上、それはじぃじとばぁばに迷惑がかかると思う。俺はまだしも、ロアールは落ち着きがないし、エヴァはまだ幼い」 「あぁ…うん、そうだよね…」  息子シーグルは13歳にしてとてもまっとうな正論を言う。既に俺は論破されそうになっている。  でも、仕事をするって事の大事さとか、大変さを体験させてもみたいのだ。みんなユーリスみたいな王族の仕事風景しか見ていないから、そうじゃない仕事だって見せてあげたい。そう思ってしまった。 「私は構わないよ」 「え?」  見れば穏やかな笑みを浮かべたモリスンさんが、俺とシーグルを見ている。 「シーグル、君は特に長男で、未来の王太子になる。だから、こうした庶民の生活を見る機会はこれからどんどん減っていく可能性が高い。だが、私たち庶民は寄り添ってくれる王様が好きだ。その点、ユーリス殿下は皆に人気があるんだよ」  シーグルは少し驚いた顔をして、その後ちょっと考えている。けれど隣のロアールが服をクンと引っ張るから、顔を上げた。 「兄ちゃん、やってみよう」 「ロアール」 「俺、気を付けるからさ。それに、エヴァだって出来る仕事あるだろ?」  エヴァの方は何を話されているのか、いまいちピンと来てはいなさそうだ。けれど、きっと楽しい事なんだってのは分かっている。黒い瞳が輝いている。 「エヴァ、やりたい!」  弟妹のお願いに弱いシーグルは、困った顔で俺を見て、マーサさんとモリスンさんも見る。でもその全員が頷くから、最後にははにかんだような笑みを浮かべた。 「頑張ります」 「あぁ、そうしなさい。沢山、失敗していきなさい」 「失敗なんて!」 「マコトだって最初は沢山失敗したんだ。注文を間違って聞いたり、運ぶテーブルを間違ったり」 「ちょっと、モリスンさん!」  そりゃ、やったけれど。でもバラされるのは恥ずかしい。顔を赤くした俺に、モリスンさんもマーサさんも声を上げて笑った。 「さぁ、今日は沢山作らないと! お買い物行ってくるわ」 「俺も行きたい!」 「あたしも!」  買い物に行くというマーサさんに便乗すべく、ロアールとエヴァが元気に手を上げて立ち上がっている。そんなの絶対に負担になるんだからダメだ。放っておくと二人ともあちこち行ってしまうんだし。  そう思って俺が何か言う前に、シーグルが俺の服を引いて、少し困ったみたいに微笑んでいた。 「俺も一緒に行くから、平気。母上はここにいて。父上も来ると思うから」 「シーグル…」 「いいわよ、マコト。じゃあ、ロアールにエヴァにシーグル、行くわよ!」  元気なマーサさんに連れられて、三人の子供達が出ていく。それを見送る俺は、少しだけ複雑だった。 「立派に育ったな、シーグルは」  俺の気持ちを察するみたいに、モリスンさんが言ってお茶を追加してくれる。それを飲みながら、俺は少し俯き加減に頷いた。 「ちょっと、良い子すぎると思うんです」 「ん?」 「13なら、親にべったりではないと思うんですけれど、それでも言いたい事とかあると思うし。それにロアールが産まれてから凄く聞き分けがよくなって。その分、我が儘とか言わなくなって。本当は沢山我慢をさせているんじゃないかって思うと、可哀想で」  シーグルはとても聞き分けがいい。それに、我が儘を言わない。王族の子だからって、とても努力しているし、そんな事全然表に出さない。  でもそれはそれで心配なんだ。本当は寂しいんじゃないかって、思ってしまうんだ。子供らしいはしゃいだ姿なんて、本当に少ししか知らない。  モリスンさんが大きな手で、俺の頭を撫でて頷いてくれる。これにとてもホッとする。 「確かに、少し我慢をしているのかもしれない」 「…ですよね」 「でも、家族を愛しているのも本当だと思うよ」 「え?」 「今はまだ、マコトの手を必要としていないのだとしても、いつか必ず欲する時がくる。いつでも受け止めてあげられるように、マコトはシーグルを見ていてあげなさい。そして、小さなSOSを見逃さないようにしてあげなさい。それもまた、愛情だよ」  諭すように言われて、俺も少し考える。反発なんてしないシーグルだけれど、ここから先は成長がゆっくりになるらしい。  自己防衛出来るくらいの大きさまでは急激に成長していくけれど、ここからは人間の1歳を10年くらいかけて大きくなるんだとか。  もしかしたらその過程で、あるのかもしれない。俺が助けたり、怒ったりしないといけないようなこと。もっともっと愛情をかけてあげること。  自然と笑った俺に、モリスンさんも笑う。俺のお父さんは本当に素敵な人だ。

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