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【ほのぼの】マコトの帰省(4)

 翌日、俺は久々にエプロンをつけて店に立った。まずは店内の掃除。床を掃いて拭いて、テーブルも拭き上げていく。厨房ではモリスンさんとマーサさんが料理の仕込みだ。  それらが終わるくらいにシーグルがきっちりと支度を調えてきた。 「おはようございます、母上、じぃじ、ばぁば」 「おはよう、シーグル。ロアールよエヴァは?」 「まだ寝てる」  困ったように笑ったシーグルは俺と同じくエプロンを着けた。そうして少し、店はいつも通りに開店した。  ドアベルが鳴って、懐かしい常連さんが入ってくる。そして俺を見つけて、みんな驚いたような顔をした。 「いらっしゃいませ!」 「「マコトちゃん!」」  駆け寄ってきたのは大工さん一行。朝の仕事の前にここにきて食事をしていく常連さんだ。みんな元気そうで俺も嬉しくて、ニコニコ笑った。 「いつ戻ったんだい?」 「昨日から。今日はお手伝いです」 「なんだ、ここに本当に戻ってきたんじゃないのかい」 「んなわけあるかよ。マコトちゃんは今やユーリス殿下の奥方だぞ」  そんな事を言って笑ってしまう。 「いらっしゃいませ」  俺のそばに来て、ニッコリと笑ったシーグルに全員が目を丸くする。俺は少し誇らしげにシーグルの隣に立った。 「息子のシーグルです」 「初めまして。母がお世話になっております」  なんて、大人みたいな事を言って俺は少し赤くなり、大工のみなさんは目を丸くして、次には大笑いした。  店は相変わらず忙しい。俺が教えたレシピが大ヒットらしくて、更にお客さんが増えたんだとか。  そんな事で俺は忙しく厨房とホールを行き来している。シーグルは水を出して注文を取ってとしてくれるけれど…やっぱりちょっと大変そう。それでも間違えないのは凄い。  朝の三時間、忙しい時間が過ぎて落ち着いてきてからロアールとエヴァが起きてきた。ユーリスは起きているけれど、フランシェのお世話をしてくれるらしい。本当に出来た旦那様だ。 「ごめん母上!」 「ごめんなしゃい」  遅く起きた二人は泣きそうな顔をしている。その二人の頭をヨシヨシと撫でながら、俺は穏やかに笑う。 「いいんだよ。それに、お昼も忙しいから手伝ってな」  そう言うと、二人はコクコクと可愛く頷いてくれた。  今のうちに皿洗いと、もう一度床の拭き掃除とテーブルの拭き上げ。マーサさんとモリスンさんはお昼の仕込みがある。  テーブルを拭いて床を拭く俺のそばで、シーグルも同じようにしている。心持ち、少し落ち込んで見える。 「母上」 「なに?」 「仕事をするって、大変なんですね」  とても神妙な様子で言うから、俺は少し驚いた。けれど直ぐに微笑んだ。分かって欲しい事を、シーグルはちゃんと受け止めたみたいだ。 「もっと上手くやれると思っていました。でも、やってみると違いました。効率よく出来ると思っていたのに、そのようには体が動かなくて。母上のようには上手く出来なくて」 「シーグルはよく出来てるよ。間違わなかったしさ。俺なんて初日ボロボロで、本当に迷惑かけちゃったもん」 「母上でもそのようになるのですか?」  凄く驚いた顔をされたから、俺の方が笑ってしまう。この子には俺がどんな風に見えているんだろう。こんな平凡な俺をスーパーマンみたいに見ているんだろうか。 「でも…」  そこには少し子供っぽくはにかんだシーグルがいた。 「嫌いじゃないです。色んな人が褒めてくれたり、『有り難う』って言ってくれたり。笑顔を向けられるって、素敵な事ですね」 「うん、そうだね」  ちゃんと、大事な部分が育ってる。それを感じた俺は、感無量だった。  お昼、少し忙しくなりそうな時間に身支度を調えたユーリスがフランシェを抱いて降りて来た。これからお城だ。  いつもの癖で行ってらっしゃいのキスをしたら、ユーリスはとっても照れていたけれど…背後でした「おぉぉ!」という声に場所を思いだして赤くなってしまった。  エヴァは一生懸命水の入ったグラスを運んでいる。彼女には「お水のない人の所に、お水を届けてね」とお願いしておいた。それだけをひたすら頑張ってくれる姿は愛らしくて、数十人単位で大人をメロメロにしている様子だった。  ロアールはシーグルについて出来た料理を運ぶ手伝いをしている。少し慌ただしいロアールは何度かお皿をひっくり返しそうになっていたけれど、すかさずシーグルが料理を取り上げてセーフ。そんな様子に客達は大いにはやし立てていた。  楽しい時間が過ぎて、俺もモリスンさんもマーサさんもニコニコしながら見ている。そしてはっきりと、子供達の成長を見る事ができた。

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