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【イカレ竜】グラースの帰郷(6)
砦から近くの街へと向かうその途中に、一軒の屋敷がある。王族が休暇を過ごす別荘のようなものだ。
そこへと踏み込むと、既にエントランスホールは見知った人達が歓談状態だった。
「「グラース!!」」
伯父達が集まってくるその迫力たるやなかなかのものだ。
ハリスなどはたじろいだ。なんせ黒狼に虎に白兎、山猫に熊に大鷲だ。なかなかに皆ガタイがでかい。
「お前、大丈夫だったのか!」
「心配したんだよ? 突然いなくなって」
「そこの緑竜か!」
「へぇ、竜人なんて見た事ないけれど、可愛いねぇ」
「結婚したっていうのも本当なんだな」
「どっちが伴侶だ? 両方か?」
どれもこれもが言いたいように言っている。俺もこれには苦笑するしかないのだが…ハリスが完全に涙目だ。
その中で、ランセルが一つ前に出た。そして、とても優雅に一礼をした。
「私はグラースさんの伴侶で、緑竜のランセルと申します」
一瞬、殺気のようなものが走った。だがそんなものに怯む可愛い奴じゃない。第一俺に日々殺気立たれているんだ、慣れている。
「おい、人様の甥っ子を無断でかっ攫うとは、どういう了見だ」
大柄な虎獣人がズイッと前に出て、今にもランセルの胸ぐらを掴みそうになっている。
俺はハリスにアンテロを預けて、前に出ようとした。だがそれを制したのは、ランセル本人だった。
「まぁ、ユーファ落ち着きなよ。今はグラースだって幸せなんだから」
「カーミュ! お前は何を悠長な事を言ってやがる!」
その大柄な虎獣人のユーファ伯父を取りなしているのが、これまた大柄な熊獣人のカーミュ伯父だ。カーミュ伯父は昔から穏やかな人だったが、今もそうなのだろう。
「まっ、確かにちょっと悠長かな。言いたい事はとにかくあるし」
「だね。本当にさ、こっちは戦かってくらい緊張したんだしね」
そう言うのは山猫獣人のホルティ伯父と、兎獣人のメヴィル伯父だ。体は小柄なのだが、昔っから喧嘩っ早くて切り込み隊長のような人達が睨み付けている。案外本気だ。
一触即発。そんな雰囲気に俺はランセルの横に立つ。未だに頭を軽く下げたままのコイツの頭を、俺は引き寄せる。そして、目の前の伯父たちを一睨みした。
「勝手をしたのは俺だ、伯父上達。確かにコイツは切っ掛けだが、その後は俺の意志だ」
「グラース…」
途端、伯父達はシュンとしてしまう。申し訳ないとも思うのだが、ここは俺が引いちゃいけない。家のゴタゴタに巻き込むつもりなんて全くなかったんだ。それを…。
その時、少し奥から足音がした。全員が道を空ける中に立っていたのは、黒狼と大鷲に連れられた両親だった。
「まったく、お前らいい加減にしろ。一番会いたい奴を差し置いて殺気立つな」
「まったくだ。さぁ、セリセス行っておいで」
二人の伯父に付き添われ、銀髪銀ギツネの父は兎か? と言いたくなるような大きな目に薄ら涙の膜を張って、俺の所に駆けてきた。
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