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【イカレ竜】グラースの帰郷(9)

「獣人が多産だとは聞いていましたけれど、こんなに…」 「ん? そういやぁ竜人ってのは子供少ねぇんだってなぁ? 大丈夫か?」 「大丈夫ではないので、焦っているのですけれど」  これはさすがに苦い話だ。俺もあえては言うまい。 「じゃあ、沢山子作りしたらいいよ。ハリス、おいで」 「キシャァァァ!」  兎のレグネルがとてもいい笑顔でハリスに手を差し伸べているが、さすがにな。すっかり威嚇しまくりだ。 「まぁ、抵抗するだけ無駄だ」 「へ?」 「おら、こいよ。別に食わないからよ!」 「えぇ!」  右からフォルコが、左から虎のカーディフが脇を持ってそのままズルズル引きずられていく。「あぁれぇぇぇ!」なんて悲鳴、初めて聞いたな。 「大丈夫ですかね、ハリス」 「うちの従兄弟は全員が肉食系なんだよ、男も女も。しかも獣人ってのは気に入った伴侶一人に複数が跨がっても嫌悪がない。複数婚国家だからな」 「性欲が旺盛ですね」 「だから下半身で生きてるなんて不名誉な事を言われるんだ」  ソファーに連れ込まれたハリスは、かたや酒を注がれ、かたや果物を勧められ、挙げ句の果てに食べさせられようとしている。フォルコが「口開けなさい」とやんわり命令するものだから、従属属性の高いハリスは涙目で口を開けている。 「…貞操、守れればいいな」  思わず呟いてしまった。 「ところで、お爺さまというのも狼なのですか?」  不意に問われ、俺はランセルを見る。そして苦笑して否定した。 「いいや、ライオン族だ」 「…いませんよね?」 「いないな」 「何故ですか?」 「うちの祖父、この国の王ってのは立派な雄々しいライオン族だが、プライベートじゃちょっとした変態でな」 「と、いいますと?」 「簡単に言えば、孕ませるよりも孕まされる快楽に目覚めたんだ。そのせいで奥方にもらったはずの祖母達が子種提供したってわけだ」  なんともどうしようもない祖父だ。しかも若い子が好みで、綺麗な若い男にガンガンに掘られて子供産んでって、威厳もくそもないド変態なのだ。  ランセルがなんとも言えない顔をして、聞き流した。今日のこいつは大人の対応ができる。後で褒めてやろう。  それから2時間、この屋敷はカオスだった。  従兄弟達はどうにかハリスを酔わせてお持ち帰りしようとしていたが、逆に潰された。  当然だ、ハリスは緑竜軍の中で一番酒に強い。それというのも「俺が沈んだら誰が後片付けとか看護するっすか?」という責任感と使命感から気が抜けなくて酔わないのだ。 「うぅ…なんて強い。そこも気に入った…」  最後まで競っていたフォルコがソファーに突っ伏したところで、唯一見守っていた熊のスリュムが抱き上げて、軽々と腕に乗せる。そしてそのまま俺の所に来て、ストンと下ろした。 「ごめんね、悪い人達じゃないんだけれど、気に入った子にはとことんで」 「あぁ、いや…」 「君が可愛いから、ついつい構いたくなったんだと思う。皆独身だし、正直飢えてる所もあるから」  ハリスが青くなった。多分潰れてたら連れ込まれてたな。  スリュムは柔和な笑みで笑い、大きな体を折り曲げた。 「よかったら、また遊びにきて。グラースも、ランセルさんもいつでも。きっと皆喜ぶから」 「…うっす」  下に出られると嫌と言えない。そんなハリスはこの国じゃ受難しかないだろうに。

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