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【イカレ竜】グラースの帰郷(10)

 何にしても俺達は用意された部屋へと移動した。内扉で繋がった隣り合う部屋で、俺達に一室、ハリスとアンテロで一室だ。  ちなみにアンテロはすっかり伯父達を虜にした。各獣人の尻尾や耳を触りたがり、触らせると嬉しそうに声を上げて笑うものだからメロメロだ。多少痛くても我慢する伯父達や両親の顔を見ると、ここにこれて良かったと思ってしまった。 「疲れましたね。仕事で来たはずなんですが」 「悪かったな、色々と巻き込んで」  風呂も入って、疲れたアンテロが眠りについてハリスもぐったりで部屋に引っ込んだ。俺とランセルは隣り合ってベッドの縁に座り、互いに苦笑している。 「賑やかなお家で過ごされたんですね」 「賑やかすぎるがな」 「少し、羨ましいです」  言ったランセルは苦笑し、少し遠い目をする。俺の隣で、遠い日を思うような。 「私は王太子宮で一人でしたし、周囲は大人ばかり。その大人だって、私をどう扱っていいのか分からない様子でした。思えばハリスがくるまで、私の周囲に同じ年の子供というのはいなかったんです」  ハリスから聞いたランセルの子供時代は、とても寂しいものだった。屋敷が軍の宿舎になったのは、ランセルが軍役についてから。それまでは屋敷のスタッフとランセルだけだったそうだ。その屋敷のスタッフだって、ランセルの扱いに困っていたらしい。 「私も貴方の家の中に、入れたのでしょうか」 「当たり前だ」 「本当に?」 「俺の母が言っていただろ。息子どもと。お前はあの母の息子になったんだよ。それなら間違いなく親族だ」  言えば、ランセルはパチクリとして、次にはふやけた顔で笑った。 「ハリス、大丈夫でしょうかね?」 「あいつは獣人の国に置いとけないな。来る度に貞操の危機だ」 「あれって、本気なんですか?」 「冗談が本気になる奴が大半だ。そもそも気がなけりゃ誘いもしない。あわよくば味見して、美味しければ本気で食うつもりだったろうよ」  しかも複数がハリスを好んでいた様子だ。あのままならあそこに群がっていた従兄弟全員にグチャグチャにされただろう。 「ここに来る時は、ハリスは外してあげましょうか」 「そうしてやろう」  言って、互いに顔を見て、「あれは凄いな」という思いがあって笑った。  ランセルの手に腕を回し、俺は数日ぶりにキスをする。少し驚きながらも、ランセルも受けた。気持ちよさそうにするコイツを見て、俺も少しだけ鼓動が早くなる。 「奥様…」 「今日は、有り難うな。なんか、スッキリした」 「いいえ、大した事ではありません」 「そのわりに余裕なかったようだが?」 「ライバルならば奪い取れますけれど、親族となればそうはいきませんから。少しだけ、心配でした」  俺の肩に頭を凭れかけさせたランセルの頭を、俺は撫でてやる。妙に大人な対応をしたり、俺の側を離れなかったコイツの不安を、俺も今察している。 「たまに、遊びに来よう」 「奥様?」 「心配なんていらない。俺の場所は、お前の隣だろ?」  言えばランセルは本当に嬉しそうに笑っている。そして一言「疲れました」と呟いた。 「国に戻ったら、ご褒美やるよ。たっぷりな」  呟くように言えば、ランセルは眠りかけながらもふにゃりと笑う。まったく、こんな部分は可愛い奴だ。  互いの体に触れるように眠る夜を、俺は心地よく過ごす。俺も疲れていたんだろう。そうして眠る時間は、俺にとって安らぎとなっていった。

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