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【日常】ママ会(1)
晴れた昼下がり、ユーリスの屋敷の中庭は少しだけ賑やかになっている。お茶会の準備がされて、既にお客様が一人いる。
でも表が少し騒がしいから、俺はもう一人のお客様がきたんだと分かって立ち上がった。
「来たか」
「みたいです。ちょっと席を外しますね」
「あぁ、悪いな」
「いえ」
お客様、グラースさんをそこに残して、俺は表へと走っていった。
表にはやっぱりお客様が来ていた。綺麗な黄金色の体が柔らかな日の光に輝いている。その人はグルルッと柔らかく喉を鳴らして、そっと手の平を開いた。
そこには一人の青年と、その膝に乗って楽しそうにしている少年がいる。そして二人ともパッと俺を見て、嬉しそうに笑った。
「マコト!」
「ハロルドさん!」
短く明るい金の髪を輝かせた碧眼の青年が立ち上がり、庭に下り立つ。その側には同じく金色の柔らかな髪に金の瞳をした竜人の少年が、行儀良く立った。
柔らかな光を集めた様な塊が、ふわりと霧散していく。その後に立っていた竜人族、黄金竜のガロンさんも穏やかに微笑んでいる。
「マコトさん、お久しぶりです」
「ガロンさんもお久しぶりです。ユーリスは中で待ってますよ」
「マコト様、ロアールいますか?」
「いるよ、シエルくん」
俺の足元に駆け寄ってきた金髪の少年は、より年の近いロアールと仲がいい。少し儚げな少女のような笑みに頬を上気させ、中へと入って行った。
ガロンさんの伴侶さん、ハロルドさんは人族の元王子様で、俺とはちょっと違う特殊スキルを持っている。
その名も『幸分け』といって、幸福に関するスキルらしい。自分の持っている幸福を誰かに分けてしまうそうだ。
方法はとても簡単。ハロルドさんが誰かの願いを聞いて「叶うといいな」とか、「大丈夫だって」という肯定的な言葉を口にした瞬間、彼の持つ幸福を願った相手に分けてしまうらしい。
ただ分けるだけなら素敵なスキルだけれど、分けたぶんだけの不幸がハロルドさんにきてしまう。そんな厄介スキル。
例えば「犬の糞を踏んだ」とか、「転んで水たまりにツッコんだ」というプチ不幸なら笑えるらしい。でも、叶える願いが大きいとそれだけ反動で大きな不幸がきてしまう。
そんな人がガロンさんとたまたま出会って、少し親しくなって、彼が子作りの為に辛い事を強いられていると知って思わず「大丈夫、きっといい嫁さんと子供できるから!」なんて慰めたものだから大変だ。
彼が持つ幸福ゲージが一気に低下して、ハロルドさんはとっても大変だったという。
ただ、そのハロルドさんの不幸を全部露払いしたのはガロンさんだと聞く。
黄金竜は幸福の竜。そしてこの特殊スキル『幸分け』は、決して一方的に幸福を分けるばかりではなく、相手から貰う事も可能なのだと知ったらしい。
そんなこんなで二人は結婚して、その間に先ほどの子、シエルベートくんも産まれて今は幸せ一杯だ。
本日はママ会。ママ会と言いながら誰一人女性がいないという凄い状況ではある。だがここは異世界。実際全員が子持ちである。
「今日って、グラース来てるのか?」
俺の隣を歩くハロルドさんが聞くのに、俺は頷いた。
「平気なのかよ。確か3人目いるんだろ?」
「元気そうだよ。本人も平気って言ってるし」
俺は笑ってそう言った。
ランセルさんの伴侶であるグラースさんは、銀の髪に長身で、とても綺麗で男前の獣人、狐族の男の人だ。切れ長の青い瞳もとても素敵だ。
そんなグラースさんのお腹の中には3人目となる子がいる。妊娠一ヶ月、順調らしかったが、その間にはまたちょっと大変そうな話がある。
「なぁ、ランセル様が怪我したって話も俺聞いたぞ?」
「あぁ…うん。らしいね」
「今回も相当無茶したんだろうな…」
「うん…」
なんとも言えない、ツッコんだ話だ。
聞いた所によると盛り上がったランセルさんにほぼ強要されて、迫られ続けたらしい。その期間2年。凄い執着だ。
あまりに毎晩何度も求められる事に危機感を感じたらしいグラースさんは、一時期俺の所に逃げ込んできた。
数週間はどうにか庇ったんだけど……まるでゲームのラスボスのようなランセルさんに睨み付けられた時には俺も怖くて動けなかった。なんせ俺、ステータス弱い。8歳のロアールよりも余裕で弱いんだ。
その後大喧嘩のすえにグラースさんがランセルさんを撃退し(これも凄い)て、俺はグラースさんを宥めて説得する事になった。
めでたく戻って、受け入れて、少し前に本当に根性で子供ができたらしい。
「あの夫婦ってさ、愛情あるのかな?」
「うーん、それぞれの形だけれど…あるんじゃないかな?」
としか、俺には言えない。でも、ランセルさんの事が好きなのか聞いた時のグラースさんは、ほんの少し頬を染めた気がしたんだ。それに小さな声で「嫌いな訳じゃない」とも言っていた。
「ちょっとしつこくされて、困っただけだよ」
「マコト、正直な事言ってみろよ」
「…変質者まがいでちょっと怖いのと、ウザかったんだと思う」
「お前のそういう所、俺は好きだよ」
ハロルドさんがとてもいい笑顔でそう言った。
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