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【日常】同郷の旅人(3)

 暗殺者だろ言った志輝さんは、今俺と一緒にカレーを作っている。とても綺麗なナイフ使いで野菜の皮を剥いたばかりか、リンゴに綺麗な彫り込みを入れて繊細な蝶や花を彫りだしてしまった。これにはシーグルも目を輝かせて興奮気味だった。 「志輝さんは、魔人族の国に落ちたんですね」  カレーの鍋を見つつ、俺の近くに座る志輝さんに話しかける。ちょうど、自分たちの境遇について話していたのだ。 「えぇ、魔人族の王都、そこにある黄昏の城に落ちたのです」 「黄昏の城だって?」  ユーリスが驚いた顔をして問い返す。それに、志輝さんは静かに頷いた。 「黄昏の城って、なんですか?」 「魔人族の王城だ。魔王の居城でもある」 「魔王!!」  いや、魔人族にも王様ってものがいるなら、その名称は魔王なんだろうけれど。でも、魔王って単語で俺が思い浮かべるものはRPGのラスボスとか、そんな姿だ。もの凄く大きくて、怖くて、顔色も肌色じゃなくて…。  そんな俺の思考が分かったのか、志輝さんが楽しそうに笑った。 「魔王と言っても、私や誠さん、ユーリスさんと同じ人の姿ですよ。角があって、細い尻尾がある程度の違いです」 「あっ、はは…」  うぅ、恥ずかしいかも。 「黄昏の城は地上の中心にあります。全ての国と隣り合う、とても静かな世界でした。私はそこの、魔王の寝所に落とされたのです」 「大丈夫だったのか? あの国はある意味特別な場所だ。侵入者に対して厳しいと聞くが」 「そうなの?」 「魔人族の国にだけ、天人の国に行ける橋がある。だから、よっぽどの用事がなければ入国が難しい国だ。天人の国も、その橋を通らなければ行けないからな」 「そうなんだ…」  思えば俺はあまり他国の事を聞かなかったから、そういうことは初めて知った。俺、この世界に10年もいるのに知らない事ばっかりだ。 「幸い、魔王アルファードは直ぐに私が異世界人だと分かったようで、手厚く保護してくださいました。そしてこの世界の事を私が理解するまで、側に置いてくれたのです」 「いい人に最初に出会ったんですね」  何の気なしに俺が言ったら、志輝さんはどこか憂いのある顔で「そうですね」と呟いた。  程なくカレーが出来て、志輝さんはとても嬉しそうな顔で食べている。 「美味しいですね! やはりカレーは家庭の味がいいのでしょう。大手チェーンにはない温かさがあります」 「そんなに言って貰えると嬉しいです」  少し照れてしまう。そして俺と志輝さんの会話はユーリスとシーグルには分からないらしく、首を傾げている。

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