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【ガロン】幸運の女神に愛を囁く(4)
「愛してるよ。それでも、どうにもなんない事ってあるだろ」
「どうにもならない事?」
「俺はヘタレで、お前との子をこれ以上産めない!」
叫ぶような言葉は、いっそ私に深く刺さった。それを、ずっと気にしていたのか。ずっと言わずに、ため込んでいたのか。
ポロポロと落ちていく涙が、頬を濡らす。それを煩わしそうに服の裾で拭いながら、ハロルドは私に恨み言を言うように続けた。
「俺はもう産んでやれないんだよ! 体が耐えられないから、無理だって言われてるんだ! それでもお前は王族で、お前かシエルしかいなくて、そのシエルに万が一の事があったら跡取りいなくなる。それでも俺はこれ以上は無理なんだ。俺は…それなら耐えるしかないだろ…」
私の服を掴んで項垂れ、今にも崩れそうなハロルドの言葉に、私はハッとする。この言いようは、彼の言葉じゃない。
「もしかして、ずっと言われていたのですか?」
確認すれば、緩く頷かれる。こみ上げる怒りは父に半分、そして守れなかった自分に半分向いた。
「俺は、ダメな嫁だ。周りは何人か子供がいるのに、俺は一人で、もう増やせない。それならいい相手をお前に娶せて、産んでもらうよりほかない。そんな風に言われて、俺が何か言い返せると思うのかよ。事実突きつけられちゃ、お終いだろ。我慢するしかないだろ」
苦しみに耐えられないように、語尾が消えていく。その体を、私はそっと抱いた。金の髪を撫で、包み込むように愛した。
「私は貴方しかいりません。子など、これ以上はいりません」
「だって!」
「いりません! 貴方との子でなければ、愛せないでしょう。だからもう、いらないのです」
腕の中で、ハロルドはなおも泣いていて、それでも背に腕を回してくる。たったこれだけが愛しいのだ。屈託なく向けられる表情の全てが、愛しいのだ。
「私の側に、いてくれますか?」
「そんな…だって俺、他に行くとこない…」
「えぇ」
「ガロンの側にいたい…」
小さく陥落したその言葉に、私は目を細めて頷いて、そっとキスをする。愛しい気持ちを沢山に詰め込んで、傷つけた心を覆うように願いを込めて。この人に沢山の幸せを分けるように祈って。
「私こそ、側にいたい。ずっと、貴方の側にいさせて下さい」
涙で目を真っ赤にした愛しい人は、ゆるゆると頷いた。
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