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【初恋】シエルベートの決意(2)
翌日、僕は早速黒龍の領地へと飛びました。
王都から離れたユーリス様のお屋敷に来たのは、久しぶりです。母様とマコト様はお友達で、よくお茶会を開いています。
僕も小さな頃は一緒に来てお菓子を貰いました。マコト様の作るお菓子はとても美味しいです。
でも最近は、父様のお仕事のお供でしか来ません。父様の仕事を手伝うようになって、あちこちを飛ぶようになりましたが、ユーリス様のお屋敷は久しぶりです。
「シエルベート?」
「あっ、シーグル様!」
僕が来たのを見たのか、屋敷の窓を開けたシーグル様が声をかけてくれます。
ロアールのお兄さん、シーグル様はとてもしっかりした方です。長い黒髪に、穏やかな黒い目で、とっても冷静でお仕事ができます。
僕はお仕事でよくお会いしますが、とっても頼りになる方です。
「どうした? 仕事だったか」
「あぁ、いいえ! あの、ロアールいますか?」
僕はドキドキしています。だって、彼に会うのは久しぶりです。
僕は仕事を始めて、幼馴染みのロアールも軍に入ってお仕事を始めて、会う時間が合わなくなってしまっていました。
忘れていたら。そう思ったら少し怖くて、でも会いたくて。僕は不安で服を握りしめていました。
「ロアールなら、もう少しで帰ってくるはずだ。あぁ、ほら」
「!」
シーグル様が指を指してすぐ、空が暗く陰っていました。見上げた僕の前には、大きく優美な黒龍が旋回しています。その影は直ぐに高度を下げてきて、そして途中でパッと光を放って人の姿に変わりました。
「シエル!」
「ロアール!」
目の前に現れた人に、僕の心臓は高鳴りました。
一つ年下のロアールとは幼馴染みで、小さな頃から沢山遊びました。
僕は弱虫で、のろまで。ロアールはそんな僕の事をずっと助けてくれました。絶対に見捨てたりしない。ずっと、頑張れって手を差し伸べてくれる大事な人。
そんな彼の事が、僕はずっと好きでした。
大人になったロアールはとてもカッコいいです。癖のある長い黒髪に、大きくて強い光のある黒い瞳はいつも輝いていて、向けてくれる笑顔は今も元気をくれます。
好きで好きで、たまらないんです。でもそれを口にするのは恥ずかしくて、拒まれたら潰れてしまいそうで、ずっと言えずにいました。
でも、勇気を出すって決めたのです。母様が泣かないように、僕は一つ大人にならないといけないんです。
「どうしたんだ、シエル? 何か、困った事があるのか?」
側に来たロアールの大きな手が、僕の細い肩に触れて心配そうにしている。
彼に比べたら、とても貧相な僕は自信が無くて俯いてしまう。だって、体の厚みも身長も敵わない。父様は大きいのに、僕は全然で。
「シエル?」
「あの、ロアール! あの!」
言わなきゃ! 服の裾を握って、僕はギュッとお腹の底に力を入れた。そして、ブンッと音がしそうなくらいの勢いで頭を下げた。
「ロアールを、僕にください!!」
「…え?」
ロアールが、とてもびっくりした顔をしている。
僕は、ポロポロ泣いていた。だって、あんまりいい感じがしなかった。もっと沢山、言えばよかった。言葉が出てこなくてこれしか言えなかった。
父様なら、もっと沢山言えたのに。どこが好きとか、いつから好きとか、沢山言える事があるのに。大事な事が出てこない。
「あの、シエル…?」
「好きです、ロアール。好きなんです、ずっと。ずっと小さな時から、貴方が好きでした」
涙声でただそれだけを言っている。顔なんて当然上げられなくて、拒絶の言葉だけは聞きたくなくて、怖くて震えている。
撃沈覚悟だなんてカッコいいこと言えない。撃沈なんてしたくない。だって、大好きだった。僕に大丈夫って言ってくれるロアールが、側で笑ってくれるロアールが、大好きなんだ。
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