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【日常】黒龍発スイーツパニック(グラース・1)

 ランセルの幼馴染み、ユーリスの嫁マコトは人族の青年だ。  異世界人であり、特殊なスキル「安産」を持っている波瀾万丈な青年とは思えない柔らかな雰囲気と穏やかな気性の彼は、多くの子を産んでなおも逞しい、見た目に反する人物だ。  俺はランセルを通じて彼と知り合ったが、柔らかな中にしなやかな強さを見て驚いてしまった。そして俺としても、マコトの持つ雰囲気は好ましい。  直ぐに個人的に親睦を深め、今ではガロンの嫁ハロルドと、最近増えたシキという人族の青年も交えて「ママ会」なるものが、月に一度くらいの頻度で開かれるようになった。  ママ会の日、俺は朝から機嫌がいい。ランセルもそれを察するのか、笑って「可愛い」などとほざく。俺を前にこういう言葉を選ぶのはコイツだけだろう。  マコトに話したら「特殊なフィルターがかかってるんだよ」という謎の言葉をもらった。ようは脳みそ湧いてるんだろうと認識した。 「グラースさん、いらっしゃい!」  ニコニコ笑って俺を迎えたマコトに、俺は頷いて手土産の紅茶を手渡す。いつも貰ってばかりは申し訳ないし、聞けばこの世界の紅茶が美味しいと言っていたので差し入れるようにしている。  そうして向かう庭先のテーブルに、俺は目を輝かせた。  ハート型のクッキーには苺やオレンジ、レモン、ブルーベリーのジャムがトッピングされている。他にも二種類のトリュフ、苺のレアチーズケーキ、苺をトッピングしたフルーツショート(スポンジはココアだった)などのスイーツが乗っている。 「グラースさんは本当に、スイーツすきだよね」  俺の尻尾がひとりでに揺れているのを見たマコトが、口元を手で隠して嬉しそうに笑う。俺は照れ隠しに「見るな」と言うが、言う奴が頬を火照らせたんじゃどうしようもない。  俺は甘い物が好きだ。  俺の様なガタイのいい目つきの悪い軍人がスイーツというと大抵バカにされる。だが、好きな物は好きだし、美味いんだから仕方がない。  部下になめられたくないと虚勢を張って軍では食べないが、疲れると特に恋しくなる。  大抵の部下が酒や肉を好む中、俺は酒が体質に合わず5杯も飲めば寝る。周囲が軽く10杯は飲む中で俺はこうだ。だいたい、1杯で顔が赤くなるのだから仕方がない。  その分甘い物だ。チョコ、生クリーム、カスタード、ジャム。マコトが前に作った「苺大福」というのもなかなか良かった。 「おっ、始まってるな!」 「ハロルドさん!」 「こんにちは、マコトさん」 「志輝さんもお久しぶりです!」  こうしてメンバーが揃い、お茶会が開始された。  ガロンの嫁のハロルドとはもう何度も顔を合わせている。気の良い明るい性格の奴だが、少し気を使いすぎる部分がある。  特殊スキル「幸分け」なる面倒なスキルを持っている。他人の幸せを願い口にすると自分の幸せを分けるという、本人にしたら厄介なスキルだ。  こうなると発言に慎重になったり、無口になるのが普通だろうが、こいつは人一倍口数が多くて、同時に迂闊だ。友人として非常に心配になる。  そしてもう1人、ここ数年で知り合ったシキという男はマコトと同じ異世界からきた人族だが、どうにも気が抜けない。  柔和であり、一見は柔らかい。だが彼はその底に言い知れぬ物を持っている。しかも本人も「前職は殺し屋です」とニッコリ公言した。  今は魔人族の王に嫁ぎ、王妃をしているというとんでもない男だ。

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