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【日常】黒龍発スイーツパニック(グラース・3)
「そういえばさ、今黒龍の王都にあるスイーツ店が大人気なんだけどさ、知ってるか?」
ハロルドが行儀悪くフォークを持ち上げながらそんな事を言う。こいつ、一応は王子だったのに時々行儀が悪い。
そして勿論、俺はその店を知っている。噂を聞いたランセルの側近ハリスが買ってきた事がある。食べて、マコトの味に似ていると思ったのだ。
「小さな店だけど、すっごく美味いって噂でさ。この間、シエルが買ってきてくれたんだよ。でもあの味さ、マコトの味に似てるんだよ。知ってるか?」
「あぁ、それならきっとエヴァの店だよ」
「「ん?」」
俺もハロルドも驚いた顔をしてマコトを見た。
マコトの所の長女エヴァは、見た目こそマコトに似た大きな黒い目をしているが、中身はユーリスに似ているのかもしれない。勝ち気で男勝りで、女性でありながらレイピアを極め乗馬を楽しむ。男なら立派な軍人になれる、そんな凛とした女性だ。
その子が、まさかスイーツ店なんて…想像ができない。
マコトはニコニコと嬉しそうに笑って、話してくれた。
「俺の両親がさ、2年くらい前に年だからって宿屋をたたむって言ってね。それを聞いたエヴァが『勿体ない』って言って、そこでスイーツ店を開くって言い出したんだ。俺と一緒によく作ってたし、レシピ書きためてたからそれでやるって。両親もさ、喜んじゃって。お店閉めるの、ちょっと寂しく思ってたみたいでね」
マコトが「両親」というなら、黒龍王都に住むモリスンとマーサ夫妻の事だ。小さいながらに宿屋を営んでいて、食事処としては人気だったとか。
「俺の国のケーキ屋のイメージを話したら、面白そうだって言って中を少し改装して、テイクアウトメイン、テーブル数席のお店に改装したんだ。だから、味が似てるのは当たり前かな」
「じゃあ、エヴァちゃん今は王都に住んでるの?」
「うん、俺の両親の家に一緒に住んでるよ。引退なんて言ってたけど、エヴァがそうやってお店始めたから手伝うようになってね。結局今も完全に引退はできてないみたい」
そう語るマコトはとても嬉しそうだ。あまり親孝行が出来ていないと言って気にしていたから、娘のエヴァがそうして気にかけてくれる事が嬉しいのだろう。そういう優しい奴だ。
「娘はしっかりしていて良いですね。それに比べて息子はどうも頼りない」
「シキは若いだろ。まだ産める」
「誘いかけてはいるのですがね。どうもトラウマからか乗ってこないんですよ。案外奥手でヘタレでしたね、魔王ともあろう者が。今では私の方が魔王だなんて言われるんですよ、失礼にもほどがあります」
優雅な笑みは、いっそ毒が強く見える。これを妻とできる時点で、相手の男はかなり度胸があるかドMなんだろう。
「でもさ、離れると寂しくないか? エヴァは年頃だろ? しかも美人だし。彼氏とか彼女とかいるんじゃないのか?」
「いるみたいだけどね」
「まじか!」
「まぁ未満らしいけれど、気になっている人はいるって言ってたかな。恋人になったら教えてって言ってある。今でも月に1回くらいは帰ってくるし」
マコトの子供は既にいい年だ。俺の息子のアンテロも十分な年齢になっている。あっちもそろそろ結婚話の一つも持ってくればいいのに、まったくだ。
そんな話をしている間に、俺の皿の上は綺麗に片付いておかわりをしに行く。その後ろ姿を見た皆が、楽しそうに笑うのは気にしないでおこう。
甘いものは幸せの味なのだから。
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