61 / 162

【イカレ竜】甘味処「スイート&ビター」(2)

 思わず尻尾が揺れている。それを見たエヴァが可笑しそうに笑うのに、俺は顔を赤くした。  こうして3時間ほどスイーツの話や試食、改良したいというケーキやクッキーの案に意見を言ったり議論をしたりをしながら過ごしていた。  のだが、突然扉が開いたことで俺もエヴァも言葉を止めた。 「ランセル?」  戸口には鬼気迫る様子のランセルがいる。目を吊り上げ、怒った様子で近づいてくる奴を見て俺は何事かと思った。  俺がここに来るときは大抵ランセルも会議だなんだとユーリスの所に来るのだが、コイツの用件が終わる前には戻っている。 「ランセル、どうした?」 「どうした、ですって?」  睨みあげる目が確実にキレている。何なんだコイツは。  ガシッと俺の腕を掴んだランセルの手は力が入っていて、痛みに顔が歪む。こんなのは久しぶり過ぎてどうしたものかと思う。焦るが、とりあえずどうしたのかが分からない。 「浮気、です…」 「…は?」  浮気? 誰が誰とだ?  咄嗟に俺はエヴァを見るが、エヴァも分からない顔をする。 「おい、誰が浮気だって?」  聞いてもダメだ。何を思ったかコイツは俺を床に押し倒して俺の上に乗りやがった。そしてそのまま服を剥ぎ取ろうとした。何の冗談だこのアホめ!  顔面パンチは久しぶりだな。怯んだ所で頭を掴んでそのまま床に沈めてやった。そのまま魔力の鎖で地面に縫い付けてやった。 「おい、トカゲ。一体誰がなんだって?」 「グラースさんが浮気しましたぁ!」 「あぁ?」  動けなくなって涙目のランセルがそれでも恨みがましく睨み付けている。一体何だってんだ。そして更に泣き出した。アホか! 「若い女の子がいいなんて…酷いです。私という者がありながら!」 「それは、もしかして…」  俺はおもわずエヴァを見る。エヴァも同じ事を考えたのだろう。呆れてものがいえない。よりにもよって娘と変わらない年の子に手なんて出すか!  だが、さすがエヴァだ。分かった途端にクスクスと笑って荒れ狂うランセルへと駆け寄り、首に抱きついてその頬にキスをした。 「!」 「もぉ、ラン様相変わらず面白い。私に嫉妬なんて可愛いんだから」 「え?」  あぁ、相変わらずだこの娘。本当に見る目は大丈夫かと心配になる。  エヴァは小さな時から何故かランセルに懐いている。彼女くらいだろう、こいつを「ラン様」と言って首に抱きついてキスをする。挨拶みたいなもので、大人になっても変わらない。 「…あの、もしかしてエヴァ?」 「そうよ。もぉ、忘れたなんて酷いじゃありませんか? 確かに100年くらい会ってませんけど、あんなに相思相愛だったのに」 「あぁ、いえ! えっ、相思相愛でしたか?」 「私の事、可愛いって言ってくれて頭撫でてくれたじゃありませんか。一応、私の初恋なのに」 「エヴァ、男を見る目は大丈夫か?」 「もぉ、グラース様もそんな事言って。大好きな旦那様じゃありませんの?」  そう言われると困る。思わず頬が熱くなるのを誤魔化して、俺は魔法を解いてやった。  立ち上がったランセルは未だに首を傾げている。  それもそうだろう、最後に会ったのは成人少し前だ。あの時と比べれば大人の女性として大いに成長している。本当に色気が出てきたものだ。 「え? 胸こんなに大きかったですか? それに、腰もくびれて。顔立ちだって、こんなに大人びて?」 「もぉ、子供の成長は早いのですわよ。ラン様いつまで私を子供だと思ってるの?」  可笑しそうに笑うエヴァにコイツが勝てるとは思えない。俺は溜息をついてそれを見守った。 「お前、どうしてここにいる」 「話し合いが早く終わったので、迎えに来たんです。驚かせようと思ったら窓越しに、なんだかとても近い距離で親密そうにしているのが見て、それで…」 「浮気していると思ったわけか」  ランセルは素直にコクンと頷いた。 「もぉ、ラン様可愛い! 相変わらずグラース様溺愛ですのね」 「お前も相変わらずだな、エヴァ…」  これに関してはもう、言葉が出ないのだ。 「え? でもここで一体何をしているんですか? そもそもエヴァはここで何を?」 「何って、ここ私のお店よ?」 「え!」  これにも俺は頭が痛い。  俺は言ったはずなんだ、エヴァが黒龍王都でマコトの両親の家を引き継いでスイーツショップをしていると。そしてそこで新作スイーツの試食をしていると。  大事な事何にも聞いてなかったのか、コイツは! 「ランセル、俺の話を聞いてなかったのか? 俺はエヴァの店の新作スイーツの試食をして、意見を伝えているんだ」 「え? あぁ…」 「聞いてなかったな」 「…はい」  項垂れたコイツに溜息をつく。もうまったく…何も言えない。

ともだちにシェアしよう!