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【R18】ロアールの初恋(1)

 初めてシエルに会った時、俺は本当に天使が降りて来たんだと思った。  柔らかい金色の髪に、大きな金色の瞳をした白い肌の小さなシエルは恥ずかしそうにハロルド様の影にかくれて、それでもニッコリと微笑んでいた。  母上に「天使みたいで可愛い」と言ったら、母上は笑って「そうだね」と返してくれた。  この時から俺は、この天使が大好きだった。  シエルから告白を受けた夜、俺は父上と母上の私室へ行った。言うべき事を言わなければ、そう思っても少し足が重い。  バカ弟のエッツェルが昨日、ガロン様に対して失礼をしたばかりだ。  反対されたらどうしよう。思いながら、ドアをノックした。  母上と父上が少し驚いた顔をしていたけれど、俺の事を迎えてくれた。  俺はなんて言い出して良いか分からないまま、しばらく無言だった。けれど、このままじゃいけない。意を決して、挑むような気持ちで声を発した。 「俺、お付き合いをしたい人がいます。相手は、シエルベートです」  震えそうになる声を張り上げて、俺は宣言した。どうにか出てきた言葉にほっとしている。  そんな俺を見る母上は、とても驚いた顔をしていた。綺麗な黒い目をまん丸にして、きょとんとした顔だった。  反対なんだろうか。俺は真剣で、シエルも多分真剣で、両思いなんだけれど。 「あの!」 「え、今更なの?」 「え?」  母上の言葉に、俺の方が驚いてマジマジと見てしまった。そんな俺に、母上はとても穏やかに笑っていた。 「だって、ロアールは初めて会った時からシエルくんの事が好きだったでしょ? それにシエルくんも、ロアールの事とても慕っていたし。俺はてっきり、二人はもうそういう気持ちで一致してるって思ってたけれど」 「あ…のぉ…」 「うん、良かった。俺もなんだかホッとしたよ。二人が幸せならね、俺は何にも文句ない。あっ、でも向こうの親御さんにはちゃんと挨拶して、よろしくお願いしますって言ってね」  ピシッと指を立てられて「約束」と言われる。優しくて柔らかいのに、とっても強い俺の母上はさすがだ。俺は緊張が解けて、力なく笑ってしまった。 「俺もマコトの意見に同意する。式はいつにする?」 「あぁ、そこまでは! まずはじっくり、二人の時間を楽しみたいと思って。その、デートとかもしてみたいし。だからまだ、子作りも考えてない」 「そうか。いや、焦らなくていいんだ。出生率も上がっているから、二人のタイミングで行えば良い。ただ、王族の輿入れだ、時間がかかる。その点を考えて、決断したら早いうちに知らせてくれ」  そっか、そういう面倒もあるんだな。なんて、俺はぼんやり考えてしまう。そしてそこで、もう一つ言わなければいけない事を思いだした。 「あの、父上!」 「どうした?」 「あの、俺は将来的にはシエルの子を産むことになるから、あちらの家に嫁ぐ事になる。だから、その…父上の跡を継いだりとかは、出来ないと思う。ごめん」  少しだけ寂しい気持ちがこみ上げる。大事に育ててもらって、一応次男なのに無責任な事を言ってると思ってる。ションボリしていたら、父上は楽しそうに笑った。 「気にするな。俺もまだ若いし、シーグルもいる。そんな事を気にしなくてもいいから、お前はシエルを幸せにしてやれ」 「そうだよ。それに…俺もまだ若いから、これからだって子供産めるしね」  なんて照れたように顔を赤くして母上が言うものだから、父上がすっかりその気になっている。  ちょっと急いで子供作りすぎたって自重してたけれど、一番下のエッツェルもそこそこの年になった。そして母上は本当にまだ若いから、産もうと思えば産める。 「まぁ、そういうことだ。ロアール、お前の思うように生きていい。ただし、相手を大切にしてやれ」 「うん、勿論だよ」  これだけは俺、自信がある。シエルを大事にする。あいつを守るのは、いつも俺の役目だって思ってきたんだから。

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