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【R18】ロアールの初恋(2)
それから数日たって、俺達は最初のデートをすることにした。黒龍の王都で待ち合わせると、シエルはとても心細そうな顔をして立っていた。
シエルは綺麗だ。金色の柔らかい髪は、背中くらいまで伸びている。大きな金色の瞳はそのまま、お日様みたいな優しい色をしている。色が白くて、線が細くて、俺みたいな奴が力を加えたら折れるんじゃないかと思って心配になる。並べば、俺よりも頭一つ分は小さい。
「シエル」
「ロアール」
不安そうな瞳が俺を見て、パッと花を咲かせたみたいに輝いて綻ぶのは、もの凄く危ない。一瞬クラッとする。
「待たせてごめん」
「ううん、平気だよ」
嬉しそうに頬を上気させるシエルが可愛い。俺は凄くドキドキしながら隣に並んだ。
「今日は何をするの?」
「えっと……まず、ご飯食べようか。それで…なんだっけ?」
お付き合いなんて経験がない俺は、一生懸命リサーチをしてきた。
まずは食事が大事らしい。でも、高い店とか俺は苦手でどうしたら良いか分からない。シーグル兄上なら、きっと素敵にエスコートとか出来るんだろうに。
「あの、ロアール」
「え! あぁ、なに?」
「黒龍の王都を抜けた先にね、気持ちのいい湖があるんだ。良かったら、行かない?」
遠慮がちな提案に、俺は乗った。というか、大歓迎だ。結局そういう事の方が俺はむいている。恥ずかしく笑って了承したら、シエルも嬉しそうに笑っていた。
それならと、俺はランチをテイクアウトの店にした。美味しいサンドウィッチの店でサラダも一緒に籠に詰めてもらって、それに飲み物を添えて。
そうして来た湖は、光を反射してキラキラしていて、気持ちの良い風が吹いている。
「気持ちいぃ!」
大きく伸びをした俺の少し後ろで、シエルが可笑しそうに笑っている。そんなシエルに向き合って、俺は周囲を少し確かめた。周りに人がいないか、それを気にして。
「あの…さぁ。えっと…まず座ろう!」
「え? あぁ、うん」
俺がエスコートしないと。思って力んで、結局上手くいっていない。そんなのが恥ずかしくてたまらない。俯くと、シエルがそっと俺の手に触れた。
「あの、緊張してるの?」
「あ……。うん」
「僕もね、とても緊張してる。お付き合いなんて初めてだから、良く分からなくて」
そう言ったシエルが申し訳なさそうにしているのは、なんか嫌だ。俺は情けない俺を叱責して、笑った。
「俺も、わかんないんだ」
「そうなの?」
「あぁ。俺もさ、誰かと付き合うなんて初めてだ。だから、どうしたら良いのか分からない。つまんなかったらごめんな」
言ってシエルの柔らかい髪に手を梳き入れる。やっぱりサラサラとして柔らかくて、とても気持ちが良い。
シエルは俺に甘えて、小さく笑った。
「つまんないなんて、そんな事ないよ。僕ね、ロアールと一緒にいられるだけで嬉しい」
そんな事を警戒心ゼロの満面笑顔で言ってくる。俺の天使は無自覚に欲望を駆り立てている。
でもまさか、昔から遊んでた相手だったとしても一応は初デートだ。清い関係で終わるのがセオリーだと思う。
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