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【日常】エッツェル留学記1(1)
ガロン様の所で問題を起こした僕は、両親から魔人族の国への留学を言い渡された。
正直、不安だらけで何も安心材料がない。頼れる人もいない知らない国に一人で出されるんだ、怖くて当たり前だ。
僕は今まで両親の側を離れた事はないし、精々が他の竜人族のお城に行くくらいだ。こんなに、自力で帰れない場所に来る予定なんてなかったんだ。
「つきましたよ」
僕を迎えに来た魔人族の王妃をしているシキ様に連れられて、僕は長く暗いトンネルをくぐり抜ける気分だった。実際は魔人族が使う空間移動の方法なんだけれど、体感としてはトンネルを潜った感じになる。
そうして開けた視界に入ってきた景色は、僕には馴染みのないものだった。
街はとても整備されている。石畳で、街灯があって、家もとても綺麗だ。
けれどここに、木や植物はない。公園らしい場所には緑が見られるけれど、その他の場所では乏しい。
竜人の国は違う。街の中に緑が多くて、明るくて。道だって大きな街では石造りだけれど、他では土がむき出しになっている部分も多い。
本当に、知らない場所に来てしまった。それを思い知るみたいで、僕は不安と寂しさと悲しさに胸元を握った。
「不安そうな顔をしていますね」
不意に声をかけられて、僕はそちらを見る。シキ様が苦笑している。
この方は母上の友人で、母上と同じ異世界からこの世界へと来た人。でも、雰囲気はまったく違う。温かい日だまりみたいな母上と違って、シキ様はどこか鋭い切っ先がある。油断は絶対に出来ない感じの人だ。
「警戒していますか?」
「そんな事は…」
「貴方はマコトさんと同じで、嘘の付けない子ですね」
くすくすと綺麗に笑ったシキ様が、城のテラスから中へと促してくれる。それに従って、僕も中へと入った。
城はどこも作りが似ている。ただ、そこを歩く人々の様子はまったく違う。
頭についている角が、魔人族の特徴。その形は様々だ。色も、白、黒、銀、赤などがある。物珍しくて、ついつい見てしまった。
「そんなに魔人族が珍しいですか?」
「え?」
「ずっと見ているでしょ? 角」
指摘されて、カッと熱くなる。お上りさんみたいにキョロキョロしていたのかと思うと、恥ずかしかった。
「あの角は、それぞれ誇りを持っているのですよ。ある意味でセックスシンボルのようなものです」
「セックスシンボル?」
つまり、自分の魅力をアピールしているってこと?
魔人族ではない僕にはその良さが分からなかったけれど、確かに皆色々と違った形や色をしているのは見ていて興味深かった。
「大きく雄々しい角は力強い男の象徴。捻れた一角などは美しいでしょ? 羊のように丸まった物はその巻きや大きさ、形の善し悪しがあります。小ぶりな物は可愛らしい」
「魔人族だけが分かる魅力ですか?」
「まぁ、そうなりますね」
シキ様はそう言って笑っている。この方も人族で、しかも異世界人だ。角のセクシーさは分からないのだろう。
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