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【日常】エッツェル留学記1(2)
そうして城の中を移動したシキ様に連れられて入ったのは、大きな執務室だった。
そこには二人の魔人族の人がいる。
一人は長い黒髪に浅黒い肌の、厳しそうな顔立ちの端正な人だった。紫の瞳がミステリアスに思える。
そしてその人の側に、もう一人立っている。
同じく艶やかな黒髪で、肌は褐色。涼やかな紫の瞳は同じだが、顔立ちはどこかシキ様にも似ている。少し渋い感じのある先の人よりも、中性的な美貌もあるように思う。
「エッツェル、紹介しますね。奥のが私の夫で、この国の王アルファードです」
立ち上がり、こちらへと歩み寄る長髪の人物は背も高い。角は金色で捻れた牛のような力強いものがついている。
にこやかな笑みで握手を求められて、僕は緊張しながらもそれに応じた。
「良く来てくれた、エッツェル。シキから君の話は聞いている。文化の違いに戸惑う事も多いだろうが、実りのある留学にしてもらいたい。困った事があれば、気軽に相談してくれ」
「お気遣い、有り難うございます」
一応は王族としての振る舞いをした。あまり得意ではないけれど、人前に出る事はあるのだから。
「次に、私の息子です。グランレイ」
呼ばれて近づいてきた黒髪褐色のその人は、とても整った顔をしている。静かな中に艶がある。紫色の瞳が僕を見て、ふと人好きのする笑みを見せた。
「初めまして、エッツェル。君が来ることを聞いて楽しみにしていた。こちらにいる間、俺が君の案内をさせてもらう事になった。生活も同じくするから、よろしく」
「えっ、生活も?」
案内というのは分かる。同じ王族同士だし、年齢は彼の方が少し高そうだけれどそこまで離れてはいない。自然な流れだ。けれど、生活ってなに??
「実はこの城に、許可のない者を泊める事はできないんだ」
「天人族とのゲートがありますから、その関係なのですが。でも、大丈夫ですよ。信頼できる人の家に下宿出来るようにしています。ですが、招いた側の人間がいないというのもおかしな話なので、この子をつけます」
「はぁ……」
うん、なんとなく理屈は繋がった。
僕は改めてグランレイを見上げた。目が合うと、彼は少し茶目っ気のある表情で笑って、僕にウィンクする。似合うだけに、ちょっとドキッとした。
「それでは早速移動しましょうか。亜空間移動すれば直ぐですし」
「母上、それでは何の為の留学なんです?」
直ぐにでも送り届けようという感じのシキ様に対して、グランレイが苦笑する。そして、戸惑う僕の横に立った。
「この国を見てもらうのも一つの留学の醍醐味ではありませんか。歩いて行きますよ」
「手間ですよ?」
「徒歩十五分の距離を手間だと言ったらどこにも行けませんよ」
そう言って、僕を見下ろしてにっこりと微笑む顔はとても優しい。穏やかな紫の瞳は僕にだけ向けられていて、ドキドキとしてしまう。
「疲れているか、エッツェル」
「え? ううん」
「では、歩きながら街を少し案内する。下宿先は大通りに面しているから迷う事はないよ」
手を繋ぐわけでもないのに、僕はグランレイの後に続く。シキ様とアルファード様にお辞儀をして、僕は待っているグランレイの横に並んだ。
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