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【日常】エッツェル留学記1(3)

 魔人族の町並みは、なんだか落ち着かない。馬車も綺麗な黒塗りが多いし、地面は石畳。整然としていて綺麗だけれど、綺麗過ぎる。 「そんなにキョロキョロして。珍しいのか?」 「え?」  隣を歩くグランレイが、僕を観察するようにしている。その目はどこか深くを探られているようで、僕は視線を逸らした。 「竜人族の街と作りが違うから、落ち着かないだけ」 「竜人族の街はもっと緑が多いと、母上が言っていた。俺はこの町から出たことがないから分からないが」 「そうなのか?」  なんだ、似てる。僕も今まで自分の国から出たことがない。  そう思ったら、少し距離が近くなった気がした。大人びているだけで、そんな事はないのかもしれない。僕は見上げて、嬉しくて笑った。 「僕も自分の国を出たことがないんだ。だから、不安で…。でも、グランレイも僕と一緒だ」  嬉しくて笑ったら、グランレイは驚いたように目を見開いて、次には視線を逸らしてしまった。  僕はそれが、少し寂しい。何か嫌な事を言ってしまっただろうか。もしかして、「一緒」だなんて言ったからかな? 「グランレイ、僕何か嫌な事言っちゃった?」 「え?」 「視線、そらしたから。ごめん、僕そういうのわかんなくて。嫌な事があったら言って、直したい」  「相手の気持ちをもう少し考えろ」と、シーグル兄上に言われる。不用意な言葉が相手を不快にさせると言われた。僕の場合はまだ子供の域を出ないし、悪意はないのだと伝わるから大事にならないだけなんだって。  怒らせたかな…。不安になって見たら、グランレイは少しだけ耳を赤くして、小さく何かを呟いたみたいだった。残念ながら声は聞こえなかったけれど。 「嫌な事なんてない。ただ、少し予想外だったんだ。エッツェルは旅行や国外視察なんかには行かなかったのか?」 「ううん、僕は行ってない。一番上の兄上が優秀で、僕みたいな末っ子の我が儘な奴がいても邪魔だもん」  言っていて、自分が情けない。結局、王子としての力なんて僕にはないんだ。僕に集まる人はみんな、とても軽い。所詮は賑やかしなんだって思える。  俯いている僕の頭に、ポンと手が乗った。見ればグランレイが、気遣わしい目で僕を見ていた。 「そんな顔をしないでくれ。せっかくこうして知り合ったんだから、俺は君には沢山楽しんでもらいたい。そして、この国の事を好きになってもらいたい」  僕よりもずっと立派で、しっかりとしているグランレイ。年は近いのかもしれないけれど、僕よりずっと大人だ。  俯いた僕はこの顔を上げられない。  僕は本当に、何の為にここに来たんだろう。反省の為なのは勿論。でも、「大切な事を学んで来なさい」と言った父上の言葉の意味は今もまだ理解ができなかった。

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