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【日常】エッツェル留学記4(2)
取り次ぎをお願いすると、直ぐにシキ様が来てくれた。僕を見て首を傾げたけれど、特に何かを言う事はしなかった。
「どうしました、エッツェル」
「お願いします。僕を黄金竜の城に飛ばしてください」
「黄金竜? ハロルドの所ですか?」
困った顔をしている。シキ様は僕がここに来る事になった経緯を知っている。だから渋っているのも分かっている。
でもこれは、僕にとってとても大事なんだ。僕が進む為に、大事なんだ。
「お願いします!」
下げられるだけ頭を下げた。足りないなら土下座する。
シキ様は困った顔をしたけれど、次には苦笑して頷いてくれた。
黄金竜の領地、その応接室に僕はいる。隣にはシキ様もいる。シキ様がガロン様とハロルド様に取り合ってくれたのだ。
程なくして、二人が来た。ガロン様は困った顔で笑ったし、ハロルド様は気遣うような顔をした。そんな二人を前に、僕は思いきり頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「エッツェル…」
「ごめんなさい! 僕…まだガロン様を吹っ切れないけれど、でも…いけない事をしたのは分かっています。ちゃんと片付けていかないと、どうしたらいいか分からなくなって、それで…」
一つずつ整理を付ける。それならまず、これをちゃんと終わらせないといけない。怒られて終わりなんて、それじゃ終われない。僕は……。
でも、悲しくなった。ガロン様は優しい困った顔をしているし、ハロルド様は気遣わしい顔をしている。僕はその目に見られるとまた、甘えたくなる。まだ許される気がしてしまう。これを振り切りたくてきたのに。
「ガロン、無理ならすっぱりと終わらせてやることも優しさですよ」
冷静な声がする。見ると僕の隣で、シキ様がガロン様を見ていた。
「こんな場面で受け入れそうな顔をするものではありません。優柔不断になれば、この子が前に進めない。マコトさんに怒られる事を覚悟して、それでもここまで来たこの子の思いを受け入れなさい」
厳しい言葉。でも、優しい言葉だ。
僕は頭を上げられない。泣いているから、恥ずかしくて上げられない。
その肩に、大きくて優しい、大好きな手が触れた。
「エッツェル、貴方の気持ちに応える事はできません」
言葉が刺さって、胸が苦しくなる。息が出来なくなる。
でも、分かっている痛みだ。覚悟していた痛みだ。
顔を上げる。真剣な目をしたガロン様に、甘さはなかった。だから僕はボロボロの顔でも、笑う事ができた。
「私はハロルドを愛しています。彼を大切にしたい。だから、貴方の気持ちに応える事はできません」
「…分かりました」
何かが、ストンと落ちてきた。それはまだ引っかかりながら、それでも前程苦しくはなかった。
シキ様に送ってもらって、また魔人族の城に戻ってきた。そして僕は、シキ様に縋って沢山泣いた。シキ様はそんな僕の背中を撫でて「良く出来ましたね」と言ってくれた。
泣き止む頃には外はすっかり暗くなっていて、僕は泣き疲れてしまっていた。
それでも、スッキリした。希望は欠片も残らない。でも、胸の苦しさも残っていなかった。
城を出る、その門の所にグランがいる。僕を見て、真っ直ぐに近づいてきた。
向き合うのに、少し勇気がいる。迷惑を沢山かけたし、心配もかけた。良くしてもらっているのに、僕はそれを彼に返せていない。
でも逃げたら、二度と向き合えない。だから、逃げない。
「母上から、話は聞いた。大丈夫かい?」
「んっ、そっちは平気」
「そうか。それなら帰ろう」
帰ろう。その言葉が嬉しい。
僕は心から笑って、グランの隣に並んだ。ここに来て、初めて晴れ晴れと笑えたかもしれない。
探してみようと思うんだ。僕に出来る事、喜んで貰える事、大事な人を。やっと、一歩を踏み出せたから。
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