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【イカレ竜・R18】育てた息子が伴侶になるまで(1)

 穏やかな平日早朝、側近の仕事はお仕えしている方達の朝の支度と食事の準備、一日の日程確認から始まる。  とは言え、そんなに苦労はない。俺のお仕えしているランセル様は大体起こしに行く前に起きて、ご自分で支度を整えてるし、奥方のグラース様も同じく。一日の予定を伝えれば、後はご自分で何でも終わってる。  むしろこの二人の大変はその後。執務の多さ。資料を揃えて持って行ったり、手紙の整理だったり。精力的にお仕事する方達なんで、少し休んで欲しいくらいっす。  大変なのはお子様達だ。アンテロ様は寝起きがすこぶる悪い。夜中に何か怪しい事をしてるから起きられないんっす、多分。でも一番危ないのは、起こしに行って起きてる時。これ、寝てない証拠。テンションおかしいっすよ、怖い。  うーん、育て方間違ったかも…。そう思うも、既に矯正不可能で諦め入ってる。  まぁ、そこは適当にしておくとして、俺は第二王子イヴァン様のお部屋を目指して歩いてる。カートに温かいココア(バニラアイス添え)を乗せて部屋の戸を叩けば、中から「どうぞ」という声がかかる。 「失礼します」  声をかけて中に入れば、ご両親と同じくきっちり着替えた第二王子イヴァン様が、木漏れ日みたいな優しい笑顔を浮かべている。  イヴァン様は特に俺に懐いてくれた王子っす。乳母なのか側近なのか何なのかな俺は、一応がっつりとお二人のお世話に携わった。その中でも、イヴァン様はとっても可愛がった王子様っす。  昔は俺の後ろをついて「ハリス!」と声をかけてくれる王子様だったけど…今は本当に成長してしまった。  イヴァン様は特にお美しく育ったと思う。  長く波を打つ銀の髪は兄王子のアンテロ様ほど強い光は放たず、柔らかな光を纏うよう。緑色の瞳はランセル様に似ているけれど、怪しさとか不機嫌とか射殺すような光はなくて、とにかく優しい。顔立ちも甘く、穏やかなイケメンで、想像の斜め上をいった。  なのに身長! 180以上はある長身で、肩幅とかもしっかりしていて、手足が長くて腹筋割れてて引き締まってて凄い。  昔、若いメイドが濡れシャツ姿のイヴァン様見て鼻血吹いて倒れた事があるけれど…気持ちは分かるっす。  今年で200歳。現在は軍の第8部隊を率いる頼もしい隊長をしている。  そんな人が、とても嬉しそうにニコニコして俺に近づいてきて、カートの上の覆いを取って目を輝かせている。子供の頃と変わらないその無邪気な様子が、俺にとってはけっこう救いっす。 「ハリス、いつも私の為に有り難う。手間だろ?」 「そんな事ないっす。アンテロ様起こす苦労よりもずっと楽っすよ」 「兄様、本当に朝が弱いからね」  なんて、とても可笑しそうに笑う姿も子供のまま。なのに大人も感じる。今も俺を見上げてるけれど、それは体を折り曲げているからで、立つと俺より頭一つは大きくなった。 「朝食、こちらに運ぶっすか?」 「メニューは?」 「トーストに、トマトとゆで卵のサラダ、鶏肉と野菜のスープと、ヨーグルトっす」 「食堂で頂くよ。運ぶの大変だ」 「え? いえいえ、平気っすよ?」 「ううん、これを飲んだら行く。ハリスも一緒に食べよう」 「えっ」  椅子に腰を下ろした状態で温かいココアを飲んでる人が、チラリと俺を見てくる。  懇願するみたいな目は、知らない大人のものに見える。いつからか、イヴァン様はこんな目を俺に向けるようになった。 「いけない? 一人で食べるのは寂しいから、一緒に食べたい」 「でも…」 「ねぇ、ハリス」  縋るように言われると、俺もあまり強くは出られない。だって、捨てられそうな子犬の目をする。こんなの反則っすよ。 「分かったっす」 「本当。有り難う」  キラキラぽかぽか、本当に木漏れ日みたいな優しい笑顔に、俺は朝から振り回されている。  イヴァン様は美味しそうに食事を綺麗に平らげて、俺と一緒に部屋に戻って仕事の支度をする。緑竜軍の制服をきっちり着込み、その間に俺が一日の予定をお伝えする。ただ、今日は終業後はこれといった予定は入っていなかった。 「今日はゆっくりお疲れを癒やせるっすね。よければお風呂の香油とか、いつもと違う物を用意するっすよ」  声をかければイヴァン様は嬉しそうに微笑んで頷いている。グラース様と一緒で香り物が結構好きなんっすよね。そして、甘い物も。 「ハリス」 「はい?」 「たまには、ハリスのご飯が食べたいんだけれど、忙しいかな?」  問われて、俺はパチパチと瞬く。そして、ちょっと懐かしい日を思いだした。  王子殿下2人は、よく俺の料理を食べてた。その中でもイヴァン様は俺にあれこれねだって、応えたくて作っていた。オムライス、シチュー、スパゲティ、ハンバーグ。俺はそれらを美味しく作るのに邁進して、料理スキルゲットした。  なんか、懐かしいっすね。 「夕方で仕事終わるっすよ。だから、作れるっす」 「本当! じゃあ、ハリスのハンバーグが食べたい」 「いいっすよ。チーズも乗せて?」 「デミグラスソースで」 「パンとサラダと冷たいデザート付きっすね」 「フルコースだね。うん、今日一日頑張れる気がする」  とても嬉しそうな顔をしたイヴァン様が、機嫌の良いニコニコの笑みを作る。それを見る俺は、ちょっとだけ胸の中が騒ぐ。

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