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【イカレ竜・R18】育てた息子が伴侶になるまで(2)

 時々、そういうおかしな時がある。特に、最近。  ちょっと仕事しすぎかと思って城の医者に診せたら、いたって健康だって言われたし…。でも、何か落ち着かない気分の時がある。  イヴァン様が俺に近づいて、ギュッと抱きしめてくる。  そう、こういう時なんすよ。胸の辺りが少し苦しくて、動悸がする。イヴァン様の腕の力が強いから、圧迫されてるんすかね?  そしてそのまま、イヴァン様は俺の額にキスをする。くすぐったいような、ムズムズする感じはいつもの事。これは小さな時からの困った挨拶っす。 「イヴァン様、それはご家族との挨拶っす。俺にしちゃダメっすよ」  いくら育ての親みたいに親しいとしても、一応は主と従者っす。線引きはしないとって思うのに、これを言うといつも泣きそうな顔をされる。こんな所が子供の頃と変わってない。 「ハリスは私の親のようなものだ。だから、家族だと思っている」 「いや…」 「ハリスは、私の家族にはなってくれないのかい?」  ションボリと、今にも泣きそうな顔をされるとこれ以上は言えなくなる。だって、そんな顔してもらいたくないっすよ。昔から、イヴァン様が泣くのが一番辛かったっす。 「イヴァン様は…俺の育てた大事な人っす」  言えば笑顔が輝いていく。そして額と頬に一つずつ、キスをされた。 「それじゃあ、行ってくる。ハリス、夕食楽しみにしているよ」 「気を付けて行ってくるっすよ!」  声をかけて、出て行くイヴァン様を見送る。俺は寝具を整え洗濯物を回収して、それらをメイド達に預けて自分の仕事に戻っていった。  俺の仕事はもっぱら、グラース様の補佐っす。ランセル様は国王様の仕事を半分以上手伝うようになったんで、俺じゃ力不足になってしまった。  そもそも俺がランセル様の側近なんて場違いな位置についたのには、それなりに訳がある。  当時ランセル様には同じ年頃の子供が誰もいなくて、とても孤独だった。そこで家柄が確かで、かつ年の近い俺が選ばれて、話し相手兼側近となったっす。なんで、国政の勉強とかはほぼしていない。  それでも長年軍の事には携わってきたから、現在そっちを仕切っているグラース様のお役には立ってる。今の俺は軍のお手伝いと、このご家族の日常のお手伝いが仕事っす。 「ハリス」 「はいっす」 「お前、いくつになった?」  目の前で書類に目を通し、疑問点や修正箇所に容赦なく赤を入れているグラース様がそんな事を聞いてくる。俺は首を傾げて、ふと考えた。 「400を超えたくらいっす」  うっ、一気におっさんな気がするっす。  グラース様の青い瞳が、厳しく細くなっていく。俺、なんかしたっすか! え? もしかして年齢が原因で……定年!! 「お前、浮いた話しがないようだが」 「…へ?」  思いがけない言葉に、俺は目を丸くする。浮いた話しって……浮いた話しっすか?  確かに俺にはそういう話しが一度もない。「○○と関係がある」とか、「××と密会してる」とか。そもそもそんなの縁遠い話しっす。  グラース様はこれ見よがしに大きな溜息をついて書類をテーブルの上に放り投げる。そして、俗物っぽい表情でズイッと俺に顔を寄せた。 「誰か、好きな奴いないのか?」  そう言われて、ふと脳裏にイヴァン様の笑顔が出てきて、俺は慌てて蹴散らした。とんでもないことっす! 「いないっすよ!」 「アタックかけてくる奴は?」 「そんな人いないっすよ」  いいおっさんの行き遅れっすね、完璧に。

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