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【イカレ竜・R18】育てた息子が伴侶になるまで(5)

 あれからずっと、俺はイヴァン様と向き合えないでいる。  毎朝起こしに行っていたのに、あの日以来メイドに任せている。着替えも、一日の日程を伝えるのも違う人にお願いした。何かしらの用事を見つけてそれを理由にして…逃げた。  どうしても整理がつかなかった。だって、あんな顔知らない。あんなに熱いキスを、俺は知らない。震えるような熱を知らないんだ。イヴァン様を見たら、あの熱を思いだしてしまいそうだったんだ。  そうして一週間以上が過ぎた。何度か、イヴァン様から手紙をもらった。でもそれを読む勇気はなかった。 「はぁ……」  溜息が重たい。どうしよう、こんな事長く続けていられない。分かってる、今の状態だって職務怠慢だ。イヴァン様からしたら、凄く嫌な事だ。あからさまに避けられているんだから。 「溜息が多いぞ、ハリス」  目の前のグラース様が眉根に皺を寄せる。それを俺は、頼りなく見ていた。 「どうした」 「…グラース様って、最初ランセル様に迫られた時、どうだったんすか?」 「はぁ?」  あ、嫌な顔っすね。  町の被害報告や、壊れた砦の再建築、仮の待機所なんかの報告や工程表やらを、グラース様は置いた。そして珍しく、俺の頭を撫でた。 「どうした?」 「…誰かに求められるって、どんな気分すか?」  俺は、心臓壊れそうっす。熱くて仕方ないっす。あの目が、舌の感触が忘れられないっすよ。病気かってくらいで、近づいたらきっと破裂するっす。  グラース様は腕を組んで考え込んでいる。そして、たった一言吐き捨てた。 「ウザい」 「それ、ランセル様が聞いたら泣くっすよ」  この人は相変わらずだ。いや、この夫婦は相変わらずだ。  正直どうしてこの人達が一緒にやれているのか、疑問だらけだ。だって、当時のランセル様おかしかったっす。  更になにがって、拉致られて、監禁されて、レイプされたのにそれでもそんな相手を旦那に選んだこの人が凄い。豪胆っていうか…ちょっと変っす。  それでも仲が良いのだ。今も同じベッドで眠って、毎朝一緒に食事をして、時々二人でデートして。そんな壮絶な過去があったなんてまったく思えないのだ。 「ウザいが、嫌いじゃない。あいつは気持ちを伝えてくれるし、馬鹿になるのは俺の前だけだ。分かっていれば、多少可愛いだろ」 「あの人捕まえて可愛いとか、グラース様さすがっす」  あれ、間違いなく純正の毒っすよ。お仕えしてる主ではあるんすけど。 「それで、お前はイヴァンに迫られているのか?」 「え?」  ドキッと心臓が痛くなった。呆然とグラース様を見つめて、どうしていいか分からなくて、それでも目が離せない。俺は、頼りなく見つめているばかりだ。 「イヴァン、元気がないぞ」 「え? そんな…」 「あれは昔から、お前しか見えていなかったからな。ランセルの気質を継いでる」 「えぇ!」  そんな事ないっす! イヴァン様はあんなに変質的じゃないっすよ。  けれどグラース様は苦笑している。何が見えてるんだろう。 「一人しか心に置かないんだろう、あいつと一緒で。心に決めた一人を追いかけて、手に出来なければ他は何の意味も価値もない。そういう生き方をしているように、俺には見える」 「そんなこと…」 「親の言う事だ、合っているぞ」  なんか…キュゥって締まるように胸が苦しいのは、気のせいかな。急に会いたい気がしているのは、気の迷いかな。 「ハリス、イヴァンの事は嫌いか?」 「そんな事ないっす!」 「じゃあ、好きか?」 「それは…」  …好きは、好きだ。でもその種類は分からない。親愛だと思っていたんだ。もしくは家族に向けるような、そんな。  でもイヴァン様が向けてきた愛情は、もっと熱くて、壊れてしまいそうなものだった。 「まぁ、いいがな。だが、一つ言っておく。イヴァンはランセルの子で、お前だけしか見えていない。ソフトに見せて、追い詰められれば何をするか分からんぞ。ランセルが俺にしたことを、覚えているだろ?」 「!!」  拉致! 監禁! レイプからの懐柔!!  俺は若干震えながら涙目です。

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