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【イカレ竜・R18】育てた息子が伴侶になるまで(6)
そのまま、ぼんやり廊下を歩いていた。溜息が出る。
いや、このままはまずいって分かってる。でも、一歩を踏み出すその勇気と決断力が俺には足りない。
「はぁ…」
「悩み事?」
「あぁ、はい。そうっす」
「じゃあ、お話ししようか」
「…!」
後ろからポンと肩に頭が乗った。そして腰には腕が回されてまったく動けない。首を回せば、夕日に照らされてオレンジ色に光る銀の髪と、ションボリとした瞳がある。
「あっ、あの…」
「いくよ、ハリス」
「うわぁ!」
次には肩に担がれていた。いや、体格差あるとは言え、担ぐっすか!!
「あの!」
「抵抗してもいいよ。それでも連れてく。私はハリスと話したい。ちゃんと、顔を見て話したいから」
迫力のある声が届く。妙に据わった目は…ランセル様と似てた。
ゾクッとする。けれど、こうなると逃げられないのも分かってる。俺は担がれたまま、イヴァン様の部屋に連行された。
部屋に連れ込まれた俺はさっさとベッドの上に投げ出された。そしてあっという間に部屋に結界を張られ、アワアワしている。
イヴァン様は俺に迫るみたいにベッドに乗り上げて、俺を追い詰めた。
「逃げないで、ハリス」
「いや、それは…」
「お願い、これ以上逃げないで。辛いんだ、本当に」
じゃあちょっとずつにじり寄るの止めて欲しいっす! このままだと頭突き覚悟で前にいくか倒れるしか…。
「うわぁ!」
当然頭突きなんて選べるわけがない。俺はベッドの上に仰向けに倒れた。そして今、目の前にイヴァン様を見上げている。苦しそうで、今にも泣きそうな目を見ている。
「あの、イヴァン様…」
「好きだ、ハリス」
「…え?」
気のせい…にしてしまうには、はっきりと言われた。俺の心臓はまた、ドキドキ煩くしている。動けない…。
「好きなんだ、ハリス。本当に、心から」
「あの…いつから…」
「ずっと、子供の頃から」
「子供って…」
それは、好きの種類が違うんじゃ…。思った俺はゆるゆると口を開いた。
「それは、家族としてってことっすか?」
「違うよ」
「じゃあ、親しい相手に対しての」
「違う」
熱くて大きな手が俺の頬に触れる。あの夜と同じ熱い手。それがそっと、大切に触れてくる。
「お願いハリス、逃げないで。拒まれるよりも、逃げられるほうが辛い。それを、ここ数日で思い知った。苦しくて、息ができないんだよ」
呆然としている俺の唇に、イヴァン様の唇が触れる。軽くチュッと音を立てるキスはどこかくすぐったくて、触れた所が熱くなっていく。
「ハリスが欲しい。こんなキスじゃ足りないくらい、もっと激しく欲しい。私の好きは、そういう好きだよ」
「欲しいって…」
「欲しいよ」
もう一度、唇が落ちてくる。でも、さっきの可愛いものじゃない。ゆっくりと確かめるように触れた舌が、唇を舐める。ムズムズして、ゾクゾクして、開いた唇から舌が入り込んで柔らかく絡まっていく。
これ、ダメだ。背中のわかんない部分がブルブルする。
「んぅ、いゃ…っ」
これ、怖い。俺、おかしくなってく。段々何も考えられなくなる。頭の中ボーッとして、馬鹿になる。
「ハリス、このまま貰うつもりだけれど…いい?」
「貰う…?」
何を、貰うっすか?
「ごめん、一気に我慢できなくなったんだ。本当はもっと、時間をかけてハリスを口説きたかったんだけど…もうダメだ。避けられて、触れられなくて、話せなくて。寂しくて、悲しくて、もう限界だったんだ。攫ってしまおうと思った」
「攫って」という言葉に、俺はぼんやりグラース様に拍手した。
これ、間違いなくランセル様の気質っす。
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